桐原 紫月とパフェDX
中途半端な盛り上がりで終わった『演劇部公開入部審査』の翌土曜日、レゾンデードル研究室に入部を決めた俺といおりん、都ちゃんの三人は、紫月先輩と待ち合わせをするため午前中の授業が終ると急ぎ校門へ向かった。
「いーちゃん、本当についてくるの?」
何故か剣道部に仮入部したいーちゃんこと苺伽ちゃんも付いてくることになった。
「ぬふふっ 何かとてつもないドラマが待ってる。そんな気がするんだな」
なんの根拠があるのか自信満々にニヤリと笑う。
「先輩はまだ来てないみたいっす」
俺は背中を撫で付けられないよう校門の横にある壁に背を向け、校舎の方を向いて先輩の到着を待つことにした。
「昼はなに食べようかな みやは何か食べたいのある?」
いーちゃんの問いかけに都ちゃんは
「不問......」
さして興味が無さそうに、それでも律儀に答えた。
「ひゃっふぉいー?!」
突然、背中をいつもの如くツツツッと撫で上げられ、俺は予想だにしていなかったため、つい大きな声を上げてしまう。
「アハハー! こんにちは、可憐なお嬢さん そして我が敬愛なる室員たち。ご機嫌よう!」
声は聞こえど姿が見えない、そして
「か、壁から手が出てるよー?!」
俺が背中を向けていた壁から、しなやかな白い手がヒラヒラと踊っている。
「へぇ シルクマジックの応用で壁に擬態ですか、くっち先輩やるでやんす。といっても自分には見えてましたっすけど」
「――なら教えてくれてもいいんじゃないの」
俺の抗議に、チチチっと指を振り
「そんな粋も風情もないことを、自分がすると本気で思ってるんすか?」
壁と同化しているかのような見事な色彩の布切れをめくり上げ、紫月先輩は姿を現す。
「アハハハ! 思った通り君たちは好い相性を持っている......コンストラクトは上々だ」
それが癖なのか、たまに先輩は理解できない横文字を多用する。
「今日は藤の香水つけてないんですか?」
俺の問いに、いおりんと全く同じ仕草で指を振ると、あっけらかんとした表情で
「フフフッ 匂いでバレちゃうからね......今はつけてないよ」
チラッと舌を見せ普段からは考えられないようなチャーミングな笑顔をする。
口元に浮かんだ可愛いえくぼに俺たちはドキドキしてしまった。
「はうう 苺伽たまりませんですぅ」
そんないーちゃんを、うろん気に見て冷たく言い放つ。
「君も今日は付いて来るんだ......迷惑かもね......はたの人を楽にするで働く、はたの人に迷惑を掛けるで、はた迷惑って言葉知ってるかな? ボクにとって君は煩わしさ以外の何ものでもないんだけれど」
その突き放すような一言にいーちゃんは、うつ向き身体をぷるぷる震わせる。
さすがに言い過ぎと俺は抗議しようとしたが、その前にいーちゃんは、がばりと顔を上げ
「はううー! 姉妹揃ってツンツンの極致ですぅ 苺伽の力で必ずやデレデレに堕としましょうぞ!」
目をパチクリさせる紫月先輩
こっそりといおりんが耳打ちする。
『くっち先輩、かっちのこと不得手みたいっすね』
頷く俺、更に声を潜めて
『謎の多い先輩には、かっちは切り札になるかもっす』
「ハハハ......見上げたキャラクター......これは御見逸れ致しました。今日は、よろしくお願いします」
俺といおりんの予想を裏切り、清々しい笑顔で丁寧に挨拶し、いーちゃんと握手をする先輩。
本気の照れ笑いを浮かべ恥ずかしがるいーちゃんの手を放し、じゃ昼でも食べに行きましょかと俺たちを促し門から出ていく。
「みんなは、ガッツリ食べたい派? それとも軽くでいい派?」
俺は元々ガツガツ食べるタイプじゃなかったし、女の子になってからは、更に少食になったこともあり、皆が軽くでをリクエストしたので賛同する。
「それでは......皆があっと驚く素敵な店に案内するかな......パフェは好きだよね?」
いの一番で反応したのは意外や都ちゃんであった。
「パフェ......Excellent!」
普段あまり表情を出さない都ちゃんには珍しく、目をキラキラさせ大喜びの明るい声を上げる。
「よし! 最高存在にはマクシマムな持て成しをプレゼント致しますか」
――都ちゃんの目の前に、高さ30cmを越えるジャンボパフェ。
ドオオーンと効果音が聞こえてきそうな特大サイズ。
頂上にはケーキが丸ごと絶妙なバランスを維持して添えられている。
そのパフェを溶けかけた箇所から適切に切りはなしながら、世の中の幸せを独り占めしたかのように嬉々として、口に運ぶ都ちゃん。
これはどう考えても軽くなんてレベルを超越しガッツガッツリのボリュームだよね。
俺たちは自分たちの前に置かれたマカロンが添えられている、こちらも美味しそうなパフェを食べるのも忘れて、はむっ、はふっ、パクっと流れる動作で巨大なパフェが都ちゃんの胃に消えていくのを、感嘆とした面持ちで眺めていた。
「アハハハー! そんな極上な表情されると創作した身としては、身に余る光栄......お嬢様方も喜んで頂けたかな」
宮女の制服のスカート上から、可愛らしいメイドエプロンを着けた紫月先輩が優雅にお辞儀する。
エレガントな施工がなされた店内、今は15時からのOPENまでの中休みとのことで俺たち以外の人影はない。
執事喫茶『Existentielle』
紫月先輩のバイト先。
「フフフッ......あまり男の格好はしたくは、ないんだけれども......独り暮らしの身としては、ここの格段のバイト代には背に腹はかえられないってことさ」
「はううー! 先輩の執事姿! 是が非でも一目拝見したいですぅ ここでは紫月と呼ばれているんですか!? 」
その一言に少しだけびっくっとしる紫月先輩。
「君は......今後その呼び方......すまないが、ここでも紫月と呼んでくれるかな」
先輩は何かを言い淀み途中で止めると力なく呟く。
「何にしても......そろそろ『レゾンデードル研究室』その活動について話を始めるとしようか」
エプロンを外し、俺たちを見回して悠然と席に座った。
周囲にはSPパフェDXを、はむっ、はふっ、はむむっと食べる都ちゃんの美味しそうな音だけが静かに聞こえていた。




