演劇部公開審査「終演!」
体育館は、聖インパクトにより、多数の生徒が酩酊したような状態となり、心地好さげにほんわかとした表情を浮かべている。
ひとり嬉しそうに菜々子が繰り返す。
「優勝を果たした神林さんには、是が非でも水着に着替えてもらいましょう!」
はあ? なんでそうなるかな。
心々菜ちゃんも、えっ? て顔してるし
してやったり感を隠すことなく菜々子がニヤニヤ笑いながら、心々菜ちゃんになにやら耳打ちしている。
俺は納得がいかなかったが、菜々子に急かされ、舞台裏手に用意されていたカーテンで仕切られた着衣場に心々菜ちゃんと向かった。
「――お疲れさま」
「あっ お疲れさま」
言葉少なく背中合わせになり、ため息をつきながら着替える二人。
宮女の制服と感じが似たこの水着......なんというか一種のコスプレみたいではあるが、肌の露出以外は、いつもの制服と較べてもあまり違和感がない。
そして普段からは想像できないぐらい俺たち二人のお胸は盛り上がりを見せている。
ブレザー、ブラウスを脱ぐ時の引っ掛かりの確かさに、不思議なもので元気を失なっていた俺たちも徐々にテンションが高くなっていく。
リボンとスカートを取り付けてお互い変なところがないか確認、どうやらけっこう様になっているみたいだ。
「へへっ 行きますか」
晴れやかな笑顔を見せる心々菜ちゃん
着衣場を出ると何やら舞台の方から菜々子の声が聞こえてくる。
「演劇部に入りたいかー! まだやれるかー! 」
おおおー! なんてやり取りが聞こえてきた。
「敗者復活戦に勝ち残り演劇部に入るのかー!」
怒号のような受け答えがおこり、続いて大きな拍手も聞こえてくる。
どうやら、入部希望者そして大半の観客していた生徒も正気に戻ったみたいだ。
俺たちが舞台裏から姿をあらわすと体育館全体に盛大な拍手が鳴り響いた。
たくさんの人が注目している。
心々菜ちゃんは、俺を引っ張るよう一歩前を堂々と誇らしげに歩き、菜々子の前に歩を進める。
「おっとー! ここで優勝者の登場! しかもこれはー!? な、なんと宮女制服をモチーフしたかのようなアグレッシヴな装いーだ! とてもよく似た双子のような美少女たちの出現にボルテージは振り切れんばかりにだいだい大興奮!!!」
ハイテンションの菜々子に感染したかのごとく舞台上、体育館全体がヒートアップする。
「それでは! 付き添いの方から優勝者に祝福のキッスが贈られます! みんな注目だよ!!」
――どうしてそうなる?
急にそんなことを声明され、そしてこんな大勢が見守る中でコスプレのようなビキニタイプの水着を披露していることも相まり、急にドキドキと恥ずかしくなり伏目になってしまった。
舞台上、体育館内は水を打ったかのような静寂に包まれている。
周りがあまりに静か過ぎる、俺はおずおず顔を上げ、そこに軽くはにかみながら戸惑いと憂いが混じったような表情を浮かべ、静かに俺を見ている心々菜ちゃんの姿が目に飛び込んできた。
「ねぇ陽菜乃、キスしようか?」
「うひょ! はおおお!?」
喜びを超えて大興奮! 周囲の状況も大勢の視線も忘却の彼方に飛び去り、今だけは恥じらう心々菜ちゃんの艶やかな唇しか見えなくなっていた。
「――心々菜、いくわよ」
高鳴る心臓、顔が燃え上がるように真っ赤になるのを感じた。
彼女の首の裏側に手を回すと優しく引き寄せる、ビクリと微かにまぶたが震え、唇から甘い息がこぼれだす。
互いのビキニについている大きなリボンが交ざるよう重なり、唇と唇があと数cmの距離となり、堪らなくなった俺はそこで目を閉じてしまう。
あれ? なんかデジャヴ......。
「うっ?...はぁあ」
更衣室での再開、頬をぷにっと摘ままれると予想していた俺は、少しして唇にスウィートな柔らかなものが押し付けられたため、驚愕に喘ぐような呼吸になってしまった。
ふんわりと、どこまでも優しい触り心地。
「ああぁ...」
それでいて、いとも容易く俺の唇を割って口内に侵入してきた弾力を秘めた、とてつもなく柔らかいものに無意識に舌が絡まると、言葉にできない耽美な味わいが広がり、胸がきゅんと締め付けられそうになる。
舌で押してみると、ころりとした抵抗があり、あまーい味覚が口のなかに広がる。
息をするのも忘れていた俺は恐るおそる目を開けると、そこには笑いを堪えた心々菜ちゃんが、指で挟んだ何かを俺の唇に押しつけていた。
「へへっ 陽菜乃ちゃん マシュマロは美味しいですか?」
俺は半分溶けかけたマシュマロを舌の上で転がしながら、スキル『花も恥じらう』を持てる力の全てを注ぎ発動、顔をひたすら真っ赤に染めて下を向く。
――このスキルなんのことはない、月が雲に隠れて花も恥ずかしがって閉じてしまうのことわざを地でいく、見るものから掛ける言葉を無くし二の足を踏ませる、特A防御スキル!!
「のっち! 期待通りのリアクションに喜びで世界が数百ルクスは、明るくなった気がしたっす! 」
「はうう! 照れ屋のお嬢ちゃま! 今だけはわたしを歓喜が怒涛のように打ちつけたかも!」
「陽菜乃ー! お姉ちゃんと一緒に人類の新たな歴史を作るんだよ!」
もちろん一般人を超越した人外な方々には、あまりにも無力なスキルであった。
体育館に居る人々から俺に対して何とも形容しがたい、生暖かな拍手が送られる。
「さあー茶番劇は終わりだよ! 演劇部入部審査最終決選! リベンジャーの登場だー! 」
――茶番だったのね。微なっとく......。
いつの間にか、色とりどりの水着に着替えた入部希望者が舞台上に集結していた。
布地面積極少なもの、露出がきわめて控えめなもの、活動的なものなど多種多彩な水着が舞台上を彩る。
「それではーここからが......真・骨・頂! まずは......」
「菜々子、ちょっと待ってくれるかな」
再びペルソナを被りし伝説の王子は、ハイテンションMAXの菜々子を止める。
「容姿や見目といったファクターなど、演劇というものに関しては、それほど重要なことではないのだよ」
その一言を受け菜々子は決まり悪そうにうつ向く。
「せっかく、水着に着替えてもらって申し訳ないと思う、しかしモノキニを着た君は本当に誠心誠意、心から演劇をしたいと思っているのかな」
背中部分が、大胆にカットされた挑発的でセクシーな水着を着こなすプロポーション抜群の生徒に、仮面越しの視線を向け問い掛ける。
問われる視線にその生徒は、菜々子同様決まり悪そうに首を横に小さく振る。
「演劇する者にはリアリティ、信念が必要。また芝居作りは共同作業、ゆえに演じるだけが部活動ではないんだ」
間をおき、舞台上、体育館をひと回り見渡し
「重々お詫びいたします」
ひとつ挨拶し、驚くほどの美しいフォームで足を平行にして立ち、手先をまっすぐ伸ばしてそろえ、首と背中がほぼ垂直なまま腰を深く折り上体を前に倒す。
非の打ち所のない極めてエレガントなお辞儀。
「浅学非才の身ではございますが、常に初心を忘れることなく五十年の歴史ある宮女演劇部発展のために、わたくしとここにいる椎木、一意専心いたす所存であります。心から演劇に打ち込みたい方のみ入部して頂きたく、宜しくお願い申し上げます」
その真摯な言葉に、面白半分で参加していた生徒が舞台上から一人ひとり袖に消えていく。
「他にも、スタッフや裏方、サポートしたい、なんでもいいので、とにかく演劇を愛する人、この機会に舞台上に集まって頂きたい」
ぽつりぽつりと派手さや華やかな雰囲気はないものの、ひた向きな思いを目に宿し舞台上に生徒が集まる。
俺の後ろに立つと菜々子が元気のない声で呟く。
「ちょいと今回は、はっちゃけ過ぎたね......」
「まあ、そうはいっても盛り上がったんだからイイんじゃないの」
「そうだね......陽菜乃の水着姿を見れたからよしとするか......すごく似合ってるよ!」
鼻息を荒くする菜々子
「はは それでこそ菜々子......お姉ちゃん!?」
こうして、心々菜ちゃん含め総勢19名となった新入部員を加え、宮女演劇部の新たなる幕は切って落とされた。




