演劇部公開審査「中日!」
体育館の舞台上を、まぶしいまでのスポットライトが照らす。
今回いつものジャージと制服ではなく舞台用の衣装を、身に付けた二人。
170cm近くの女性としては高い身長に純白のジャケットの衿を立て、ベスト、カフスに同じく金の刺繍を編み込み、涼しげな美しく長い首を上品さと派手さを合わせたチョーカーフリルが彩る。
豪華絢爛としか表現出来ない眩いばかりの伝説の王子の艶やかなまでの立ち姿。そしてその観るものの心を虜にせずにはおけない美しき顔には、精緻なペルソナが被せられていた。
その横には、シックなワインレッドを基調としたロココ、ゴシック調の刺繍で装飾されたふんわりとしたロングドレスを身にまとい、揃いの帽子をお洒落に頭にちょこんとのせた菜々子が、こちらも伝説のお姫様と言わんばかりの艶麗な佇まいを魅せる。
体育館にいる全ての人びとが息をひそめて見守る。
ここで、舞台上にいる十数人の生徒が、白河 聖と同じステージに立ったという事実だけで、くたくたと崩れ落ちていく。
「はい はなはだ残念ではありますが、今崩れ落ちた生徒は失格です。速やかに舞台上から退出して下さい」
俺は息を呑む、なんて無情で残酷なシステム。
伝説の王子の破壊力、それは手を握り目を合わせたことがある俺だから判る。顔が綺麗とかスタイルが、ずば抜けて美しいといった日常的なレベルにあらず、彼女は非日常を超越した存在。
男だろうが女だろうが一目その姿を見てしまえば、性別などお構いなしに自分はいったい何を見てしまったのかと思考停止に陥るだろう。
舞台上では、それでも自力で立ち上がった生徒に惜しみのない拍手が送られ、彼女たちはフラフラと俺たちがいる舞台袖へと引き上げてきた。
その顔は紅潮し目も定まらず夢見る乙女の眼差しを浮かべ、形容するとまるで恋するリビングデッド? の様相で手を垂直に上げて彼女たちの相棒に襲いかかる......ではなく抱きつき涙ながらに白河先輩と同じステージに立てたことを喜びあっていた。
自力で立ち上がれなかった生徒は俺たちとは逆側の袖に待機していた黒装束に黒頭巾をまとった黒衣の人たちが、抱え上げ運び去っていった。
「さあー! 生存者は......現在......49人! 誰が最後まで生き延びることが出来るのか!? 乞うご期待だよ!」
なんか急に司会の人ノリ変わったよね。生き残るとか何事ですか?
よくよく目を凝らすとそこにはマイクを握り締めた、楽しげな菜々子の姿......そうか。いよいよお前が仕切るのか、心々菜ちゃん更に気合い入れるのだぞ。
「それじゃ、次いってみよ! 続いては『聖のスウィート台詞に君は堪えれるか?!』の巻き!」
急激にハードル高くなったよ!
「それじゃー みんな覚悟はいいか! では聖先生どう......」
『 しばらくー! お待ちをー!! 』
スピーカーから切羽詰まった大音声が聞こえ、続いて非常時を告げるサイレンが鳴り響く。
皆が何事と慌てふためく、でも俺は聞こえてきた声がしぃちゃんだと気がついた。
『 特務教員の方々にお願いします。第一種Safety配置、第一種Safety配置、至急シフトThe セーフティーを展開して下さい! 繰り返します......』
サイレンが鳴り響く中、体育館にいる教員たちは走り回り、マットを運び、生徒を一列縦陣に並べ体育座りになるよう指導する。手慣れていたのは、この前の部活紹介ですでに一度実施している新入生一同、一子乱れぬ美しい陣形があっという間に展開されていく。
一人の教員が同じく体育座りしている俺たちの横を通りすぎ、放送設備の前にいる人物の前に立つ。
「一ノ宮司令官殿、総員配置に着き準備完了いたしました!」
ビシッ!直立不動の敬礼を行う。
「ご苦労さまです。 ご安全に!! 」
俺の後ろの方から一ノ宮理事長っていつみても格好いいよね。なんて会話が漏れ聞こえ、誇らしい気持ちになる。
それはそうと、司令官って......なんかそれはそれでしぃちゃんにぴったりの呼ばれ方かも。
全ての準備が整う。
シーンとした体育館にその言の葉を待ちわびる数百もの観客を前にして、伝説の王子が装着する緻密なペルソナがスポットライトにキラキラ反射する。
「いいね! いいよ! 僕を見つめる君の瞳は......そして二人でいるってなんて気持ちのいいことなんだろうね。ほら、こうして二人だけで見上げる星のなんて美しいこと......そう僕は君に巡り逢うためだけに生まれてきたことをまさに実感したよ」
天の神々に愛された吟遊詩人が奏でる恋唄ともいえる人の心をくすぐり溶かすレトリック。
世界が止まる。
舞台上では、ほとんどの生徒がぐったりと倒れ込み、辛うじて立っている何人かも、息もたえだえといった様子をかもし出す。
観客していた生徒もドミノ倒しのように後ろに崩れ落ちていく。
俺は遠のく意識を辛うじて繋ぎ止める。
ここで俺が意識を失っては片翼の心々菜ちゃんが......!?
「心々菜ちゃん!」
俺は無事を確認するため大きく叫ぶ。
心々菜ちゃんは......大丈夫だ、フラついているが辛うじて立っている。
気丈にも俺の方を向き親指を立て問題ないをアピール。
「さあー 大変なことになってきたー! 生き残りは......なんと! たったの14人! ある意味こんなにも残ったことが逆に奇蹟なの!?」
どこまでハイテンションなんだろうね。
「さてさて最後の試練! これをクリア出来れば嬉し恥ずかしの水着審査が待ってるよ!」
――まだそれする気、満々なのね。
もうみんな十分頑張った、頑張ったんだよ。
残った足元も覚束ない勇者14人の前に立つとおもむろにペルソナに手を掛ける。
ま、まさかその仮面外すとかじゃないよね。
全体の1/10にまで減った観客も息を止め舞台上に釘付けとなる。
装着されていたものが静かに取り外され、素顔を衆人の目の前に表す。そしてひとつ爽やかな動作で髪を撫で付ける。
なんというインパクト、生き残った観客のほぼ全員が後ろに倒れ込む、付き添い勢もシフトThe セーフティーの布陣のお陰で、怪我などせずに済んでいるが、一番先頭だった俺を除いて全滅した。
「こおおおおーこおおおおおーなああああああ!」
俺の魂の叫びに......倒れ込みそうになっていた心々菜ちゃんが、フラつきながらも踏ん張る。
気が付けば、舞台上で足を地につけ立っているのは心々菜ちゃん唯一人。
伝説の王子は、靴音高く彼女に近付き
「やっぱり、君はいいね」
囁き優しく左手を取ると、手の甲に唇をソフトに押しつけた。
菜々子も心々菜ちゃんの右手を取り
「優勝、一年三組 神林 心々菜! みんな拍手!」
意識を保っている数名の教員がパラパラ拍手を贈る。
ていうか優勝とかないよね......新入部員一名って、そんなので演劇部機能するの?
それに、お題が用意されていて演劇するとかもあったよね。
......水着審査とかもどうするのよ
「それでは、優勝した神林さんには水着になってもらいます!」
菜々子は俺の方を見ながら、にんまりと会心の笑みを浮かべる。




