演劇部公開審査「着到!」
カチャーン
扉に鍵が掛かる音が低く更衣室に響く。
女子高の更衣室は、共学だった俺が使用していた男子更衣室とはまるで違い、なんともいえぬ芳香が漂っている。
心々菜ちゃんは、後ろ手で扉を閉め鍵を掛けると何も言わずに俺に抱きついてきた。
堪えかねないよう息を吐き、俺のリボンが乱れるのも構わずに顔を胸に埋める。
細くふんわりとした髪が俺の顔をくすぐり、えも言われぬ甘い匂いが鼻の奥を刺激する。
「はぁはぁ」苦しげに潤んだ瞳で俺を見上げる。
「我慢できないの......お願い」
限界までに顔を真っ赤にして悩ましげに囁く。
二人の唇が自然に引き寄せられ、俺はこらえきれなくなり目を閉じる。
・・・・・・・・
しかし待てど暮らせど、唇に何かが接触されることはない。
「ひゃーい?!」
両頬をむぎゅうと軽く摘ままれ、驚き目を見開く。
「あははー 陽菜乃ちゃん最高! もしかして本気にしちゃった?」
そこには、これ以上は耐えられないとばかりに、涙を流しながら大笑いしている心々菜ちゃんがいた。
こぼれた涙を指で払いながら
「今のシチュエーションが今日の演劇部お題だから頬つかまれた後のアドリブはお願いね!」
......へぃ
「だけど今のは良かったよ! あんな感じの恥じらいを本番もよろしくね!」
......へいぃ
さすが演じ手と自ら名乗るだけはある。
すっかり本気にさせられた俺はやり場のないジレンマに身をぷるぷる振るわせる。
なにこの生殺しシチュ......高らかに哄笑を浮かべる元妹の勝ち誇ったドヤ顔が目に浮かぶ。
「休み時間もそんなにないし、さくっと着替えますか!」
へぃ 了解しました。ここまで来たら今さら水着いやーん なんて言えないよね。
「じゃじゃじゃーん! へへっ どや!」
得意げな顔をするのも納得、取り出された二つの水着はチェック柄が制服によく似たお洒落なデザイン、胸元を彩る大きめのリボンがとても可愛い。
同じようにみえる水着も実はチェック柄の編み目が反転していて二着とも小粋な感じだ。
「ほら! スカートもちょい長めだし、大きなホルターついてるから万が一ぽろりする心配もないよ! それにあんまりビキニって感じがしないでしょ?」
確かに......しかしぽろりとは......いったい何が飛び出てくるのかしら。
「しかーも私たちの心強い味方!ワイヤーそして大きめパットが付いているの」
ふふふっと嬉しそうに照れた笑いを浮かべる。
「さ、さすがに一緒に着替えるの恥ずかしいから、逆側向くから背中合わせで着ようね」
向きを変えると早速ブレザーを脱ぎ出す心々菜ちゃん。
俺も慌てて水着を手に取り、背中合わせになるよう向きを変える。
......へふ?
正面に大きな姿見が目に入り、そこには、ぽかんとした表情で口を愛くるしく開けているそれはたぐい稀な美少女が映っている。
自分で言うのもおこがましい話だが確かに俺だ。
問題はそこではない、俺が映っているイコールその後ろも、もちろん余すことがなく映っている。
もちろんそこには今まさに純白のブラウスを脱ぎ、細い華奢な肩を露にした後ろ姿の心々菜ちゃんが映っていた。
もちろん俺は息をのみガン見に全力を費やす。
ふわりとブラウスを脱ぐと細いしなやかな指を背中にまわし、ほのかなピンク色のブラを外すためホックに指をかける。
ストラップが華奢な肩から上腕にはらりとすり落ち、白い滑らかな背中が俺の目を射ぬく。
言葉なく目に全ての神経を集中していた俺は、そこではじめて耳鳴りに似た音が聴こえることに気付いた。
フゥオオオース・・・フゥオオオース・・・フゥオオオ
地底深く永き年月を封じ籠められた禍神が、清浄な神聖紋様にて描かれた幾重もの鎖で全身を絡め囚われ、全ての人類に呪詛をこぼているかのような響きが低く重く繰り返される。
更衣室が揺れる。
えっ......このタイミングでまさかの急展開きたの?
異世界転生バトルがたった今から始まっちゃう!?
お、俺の弱小スキルでは、とてもじゃないけど太刀打ちできないよ!
鏡に映る後ろ姿の心々菜ちゃんも怯えたのか身をすくませる。
揺れる! なにかが迫ってくるー!
心々菜ちゃんは怯えたようにこちらに振り向く。
安心して貴女は死なないわ、私が守るもの......。
「もう!陽菜乃ちゃん、鼻息荒すぎ!」
なっふん!?
音の正体はどうやら限界いっぱい勢いよく吹き出していた鼻息だったみたいだ。揺れていたのは俺の心臓......ふふっ 詩人だね。
そして俺はこれ以上なく固まる。
そう確かにブラを外したことを確認した。
彼女はとても恥ずかしげに胸が見られないよう押さえている......片手で!
片手のみで隠しきれる儚げな胸、しかし!すき間から見え隠れするあるの?ないの?僅かな曲線が俺のハートを何度も撃ち抜く。
「我が青春に悔いなし!」
俺は右の拳を高々と振り上げ朗々と勝ちどきの声をあげる。
「なんすか、のっちはまだ着替えもせずマイワールドに篭ってたんすか、相変わらずのんきでやんすなあ」
いつの間に?いおりん率いる一行が部屋に現れていた。
「えっ? きゃーっああ! なんで居るのよ?」
片手で胸を押さえ狼狽える心々菜ちゃん、そんな彼女のあられもない姿を見てもいーちゃんはチッ!っと舌を打つのみ。
どよーんと落ち込む心々菜ちゃん。
「へへ......私には、わいやぁ&ぱっとっていう頼りになる相棒がいるからいいんだよ......」
へへっともう一度自虐的に呟く。
いーちゃんは、舌打ちしながら、さも仕方がなさそうに俺に近づき
「あんま興味ないけど手伝ってやるさ」
俺のリボンを外しに掛かる。
いーちゃん、いつからこんなキャラになったの?
俺が呆然としてる間にブレザーを脱がし、ブラウスをスカートからするりと取り出すと下から順番にボタンを外しに掛かる。
「ほほうー下からとは、お主これまたマニアックすっな」
「ぐふふっ お主もの」
似非JK二人の会話は続く。
「ちょ! 何かってに人の服ぬがすかなー、それに鍵かかってたよね?」
「ああー あれでは鍵の役目しないっすよ」
さすがは渚、手先の器用さはあいかわらず半端ではない。
「ちょ! 本当に自分で脱ぐからいいって!」
「まあまあ、ここはお姉さま達に任せなされい」
あっけなくブラウスも剥ぎ取られ、水色ストライプの縞々ブラが観衆の目に晒される。
「ほほー!ただのお子ちゃまと侮っていたが、どうしたことか中々やるではないか!」
「縞々とは、のっちも堪らないほどのフェチぶりっす」
手にぶら下げた縞々ブラを目の前でひらひらさせながら、うそぶく。
「ふにゃーあああ!?」
いつの間にか、電光石火の早業でブラを抜き取られていたようだ。
「ちょい前屈みなるっすよ」
「えー?ひゃああっ!?」
いおりんは俺の背後に立ち背中を押して前屈みにさせる。
「あ、ダメ......」
流れるような動作で自分の手の平に俺の胸をくいっと引きよせ、背中の肉を集めながらパットを装着する。
そして紐を首のほうにひき寄せ最良の加減で結ぶ。
「うーんあるかないかの微妙さながら触り心地は絶妙っす♪ 下もついでに替えるでやんすよ」
俺はじぃーといおりんを凝視する。
さすがのいおりんも言い過ぎたと思ったのか照れた笑いを浮かべる。
俺はスカートを履いたまま素早く水着のパンツに着替えた。
「あっ陽菜乃ちゃん、あとは昼の授業だけだからこのままでいるよね?」
また着替えることを思ったら、それは願ってもないことです。うんうん頷く。
ここで午後からの授業を始めるための予鈴が鳴ってしまった。
俺たちは、水着のリボンとスカートを仕舞うと更衣室を後にした。
「二人......ある」
ボソッと都ちゃんが呟く。
そうなのです!なんという優越感......目線を下げると、そこには曲がりなりにも、こんもりとした谷間がリボンを圧しやっているのが目につく。
これがワイヤー&パットの底力!
俺と心々菜ちゃんは、晴れ晴れとした笑顔で足取り軽く教室に戻った。
そして放課後が始まるHRの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
俺たちは、15分前集合を守るため遅れてはならずと、席を立ち心々菜ちゃんを中心に円陣を組む。
シフトThe ココナッツ始動!!
ひとつ気合いを入れると決戦の場、体育館に向かう準備を急いで始めた。




