部活動に参加しよう!(前半)
一年三組の教室内は、ざわつき落ち着きのない雰囲気に包まれていた。
水嶋教諭は、そんな教室内を眺め手を叩く。
「はい、皆さん今から少し早いですが、お昼にして食べ終わった人から、順次体育館の部活動紹介見に行ってくださいね」
一同を見渡し少し間をおく。
「12:15には全員体育館に集合のこと、入部は強制ではありませんが出来れば一人何かしらの部か同好会に入り、クラス以外の友達、頼りになる先輩や来年になれば後輩と知り合って欲しいと、先生は皆に期待しています」
貴女たちがこれからの三年間に及ぶ高校生活の中で自主性を育み、人との繋がりを大切に出来る礎になれば良いのですが、と話しを終わらせ、もう一度全員を見渡し教室から出て行った。
「相変わらず、秋穂ちゃんは真面目でやんすね」
先生を下の名前でしかもちゃん付けで呼ぶのもどうかと思うよ。まあ『ほっち先生』とか呼ばないだけ、まだましなんだろうけどさ。
俺たちは昨日と同じように手早く六つの席を円状にし、お弁当を広げ、これから行われる部活動紹介説明会について、先ほど配られた紹介パンフレットに目を通しながら気分を盛り上げていた。
「陽菜乃ちゃんは、どこに入るか決めた?」
俺が第一希望は、もちろん帰宅部です、第二は自宅部よと答えると片翼の心々菜ちゃんは、残念至極といった表情を浮かべて、一緒に演劇部受けよう!
そしてとてつもないハイスペックのスキル上目遣い『推定S二乗機関搭載級』を発動してきた。
そのなんたる破壊力。
このスキル全般を甘くみちゃダメだ......ダメなんだ、見ちゃダメだ!魂持って逝かれる!
危うく、あ、はいと出掛かったが辛うじて耐えてみせた。
「うーん、部活は入るなら文化系かな」
出来ればMMO部とかあれば最高です。
「えっ? 演劇部も文化系なんだけど」
いな、ここの演劇部はどうみても運動系、へたしたら格闘系でも通じると思いますよ。
「さて、ご飯も食べたしぼちっと行きますか、のっちとなっちは、まだ居る皆にそろそろ行くよう声掛けるっすよ」
なんやかんや言いながらいおりんは、委員長の仕事を当たり前のように捌いている。
見た目から真の委員長にジョブアップを果たしたいおりんは、俺たち以外が全員行った事を確認して六人連れ立って体育館に向かった。
※※※
体育館に入ると、さわさわとざわついた雰囲気はあるものの、俺が思っているほどには喧騒に満ちた状態では無かった。
そうか......前は共学だったため同じ部活勧誘でも野球やラグビーといった男限定、同じスポーツでも男女別に構成された部が多数あったが、女子校のこの学校では当たり前のことだけど女の子しかいないのだから、運動部も数が知れてるはず、俺はパンフの運動部欄を再確認してみた。
ダンス、剣道、弓道、バトントワリング、陸上競技、水泳、ソフトボール、思った以上に少ない。
パンフによるとバトントワリングとは、レオタードなどを着て、おもりをつけた金属の棒を空中に投げたり回したりする演技やパフォーマンスを集団や個人で行うものらしい。女性の象徴ともいうべき体の線が強調されるレオタードを着て、優美にバトンを旋回させる自分を想像するもイメージが湧かず、とても無理と嘆息する。
ついでに文化部の欄も見てみる。
演劇、コーラス、箏、美術、園芸、茶道、書道、華道、文芸、料理
運動部よりかなりの部活数があり、どちらかといえば文化系に力を入れている気がする。
パンフによると箏とは日本の伝統楽器で、弦楽器のツィター属に分類され琴とは少し違うみたいなことが説明されていた。
うん、なんのことだかさっぱりだし俺にはまず無理っぽい、この中では園芸部が少し気になるくらいかな。
パンフの最後には部員数が足りてないのか、研究会、同好会扱いの少人数クラブの紹介があった。
部員数6名以上プラス顧問を受けてくれる先生が見つかれば部に昇格出来るみたいだ。
漫才研究会(3名)、格闘哲学倶楽部(3名)
電脳クラブ(3名)、漫画同好会(3名)
乙女ロード開拓ラブ(2名)、貴腐人苦ラブ(2名)
レゾンデートル研究室(2名)...etc
なんだろう、後半に行くに従いレッドゾーンに突入している、乙女と貴腐人なんて合併したらいんじゃないのと思うが、そこは諸事情でもあるのだろうか。
存在理由研究室......何故かすごく気になる。知らずパンフレットの紹介欄を、息をつめて見ていたみたいだ。
「陽菜乃ちゃん、紹介始まったよ」
心々菜ちゃんの一言で、体育館の舞台に立つダンス部の実演に目を向ける。まずは運動部から紹介のようだ。
三十名近くの色鮮やかな同じ衣装で揃えた生徒たちが、アップテンポの楽曲に合わせ、見事なシンクロによる一分の乱れすらない踊りを舞台上で披露する。
新入生一同は固唾を呑み、もしくは歓声を上げ、踊り終わった上級生の演技に惜しみない拍手喝采を贈った。
舞台上では、今年の部長と思わしき女生徒が迫真の踊りに満足気に息を弾ませ、多数の入部を期待しています!と挨拶を終えている。
「すごかったね! 宮女のダンス部って、この地区でも一際目立って有名なんだって、その分練習も半端なくキツいらしいけど」
彩帆ちゃんは目をキラキラ輝かせて、ダンス部に入ろうかな、陽菜乃ちゃんもどうと聞いてきた。
うーんあそこまでのシンクロ率は、俺の活動限界を大幅に上回っている。少し考えとくねと言葉をぼかして次の紹介に注視する。
白の剣道着を纏い漆黒の髪をなびかせた上級生が豪奢な竹刀袋を携え舞台上に登場する。それにあわせ一部の生徒から「桐原様!」「冴衣せんぱーい」「撃剣の風雲児!」と熱い声援が波となり送られている。
「二年、桐原 冴衣剣道部副主将、謹仕致す」
これほどまでにその時代掛かった凛とした物言いが適した人物はいないのでは、と思わせるインパクトを俺たちに与え、剣道部副主将は一段と背筋を伸ばすと、まなざし強く舞台下の俺たちを一望。
「己が考える剣の道を志す、そんな同輩のみ我が部は求める。半端な輩は入部不要......以上だ」
その冷々とした無愛想とも思える一言のみ発すると、言葉を失った俺たちに振り返ることなく舞台袖から退場していった。
「はううっ 豪華絢爛、情け容赦ない物言い、揺るぎない信念、あの方をデレさせることが出来るならば私は鬼籍に入りましょうぞ!」
それはまた物凄い野望だよね。目を煌々と輝かせているいーちゃん、桐原先輩に脳天をかち割られなければいいのだけど。
次の弓道部の主将も、むき出しにした額に意思の強さが表れる、短く揃えた髪がきりりとした佇まいの先輩だった。
運動部の数は決して多くないが、その洗練された各自が誇りを持って打ち込んでいる姿を見せられ、俺は改めてこの学校に入れたこと、そしてこの学校を束ねる一員のしぃちゃんに尊敬と更なる愛情を感じた。
一通り運動部の紹介が終わり、いよいよ文化部の紹介にステージは移る。
今年の演劇部は、その存在が宮ノ坂にあっても格別な存在なのだろう、文化系の一番最後、同好会紹介の前に行うこととなっていた。
俺は、少し落ち着きを無くしている心々菜ちゃんの隣に行き、手を握りしめる。
ハッとした彼女に軽く笑い掛けると舞台が見易い前の方に移動するべく、俺たちのために場所を空けてくれるクラスメートに感謝しながら、手を握りしめあったまま移動する。
俺達の最初の一歩は、今まさに踏み出されようとしていた。




