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つかのまの放課後

 

「いやはや、ぐうの音も出ないとは正にこのことっす!」


 あの後、俺たちは魂を抜かれた集団と化し、いつの間にか駅前にあるファーストフード店の二階に座っていた。

 

 同じクラスの三成さんに、この面子なら伝説の二人にも太刀打ち出来るかもよなんて言われたが、まさに役者違いにもほどがあった。


 一枚どころか千枚ぐらいの差があるのではなかろうか。


 いや、決してレベルが低いメンバーという訳ではない。


 現にここ二階の席では、居合わせた男女問わず注目の的となっていた。


「ひょーお、なんすかあの集団!」「もしかすると新手のアイドルグループ?」「いいな、宮女の制服すごく似合ってるよね!」「きょ、巨なる!」


 最後の一言だけは、残念ながら若干一名様限定に向けられた言葉であることを付け足しておこう。


「いーちゃん、そろそろ帰っておいで」


 優しく向いに座る有馬さんに呼び掛けた。


 可哀想によほどの衝撃を受けたのか、ぽかーんとした表情のままフリーズし、現世に戻ってくる気配がない、ここにも手を引いてこなければ辿り着くことが出来なかっただろう。


 そしてもう一人......。


 先ほどから左手の甲をかざし、ニヤニヤ笑いながら独り世界に籠り眺めている人がいる。まさか貴女様のような清らかな御方がそのような下劣な笑いを浮かべて悦に入るとは......改めてあの二人の魔性を見せつけられた気がした。


 ヘアーアーティストを目指している彩帆ちゃんは、サロンの手伝いをしているため対人スキルが高いのだろう、普段と変わらね態度を見せ


「あー でも陽菜乃ちゃんが、菜々子先輩の妹だったとは思わなかったよ」


「そっす! なんで理事長の事といい、ポイント高いこと黙ってるんすか......あっ、JOKERすか!?」


 この二人だけは至って正常だ。都ちゃんもトークに参加はしていないが俺たちの話しに頷いている。


 ――とはいえ都ちゃんの頬がほんのり赤くなってるのは、店が少し暑いからだけだろうか。


「お姉ちゃんっていっても従妹なんだけど」


「でも心の底から愛しいって態度全開だったよね。というかあのクールビューティー、永遠のプリンセスと云われたnanakoが、実はあんなお茶目なキャラだったのは本当にびっくり」


 たぶん俺が陽菜乃として生まれ変わったことで菜々子の諸々を、よくも悪くも変えたのだろう。


 陽一だった頃あんなに声を上げて楽しそうに笑う姿を一度も見たこと無かったよな......。


 あれ?そういえば菜々子って演劇部なんて入ってたんだ、全然知らなかった。


「実をいうと菜々子......お姉ちゃんが演劇してたなんて、さっきまで知らなかったんだ」


 俺はてへっと照れ笑いした。


「なに言ってるすか! 菜々子先輩は演劇部入ってないっすよ」


 えっ!?そうなの?伝説って言われるぐらいだから、てっきり演劇部の一員と思ってた。


 本当に身内っすか、と問ういおりんにあまり使いたくなかった設定、田舎で昔からつい最近まで病気治療していた事を告げた。


「ごめんっ......す」


 なんですと!? あのいおりんが泣いてる?


「そんな事情があったのに、常識外れ、浮世離れ、破天荒、型やぶり、倒錯的フェティラー......etc。 のっちのこと世間知らずなのに、極めてマニアックな性癖を持つただのお嬢さまと信じて、まるで疑わなかったっす!!」


 ――なんだろう、ちぃとも謝られている気がしない。その涙も早業で目薬でも挿したの?


 なおかつ食べながら捲し立てるもんだからポテトの残骸が飛んでいって、いーちゃんの頬にぺちっと張り付いたよ。


 無意識なんだろうけど人差し指で取った?


 じぃーと指先見てる。


 あっ!食べちゃったよ......これってもしかして間接キッス?


 いやいや、そんな愛らしい言い回しのものじゃないぞ。


 ――いーちゃん病気にならなきゃいいけど。


「って聞いてまっす? 人の話しを!」


「へふっ!? き、聞いていますとも、菜々子......お姉ちゃんが演劇部所属じゃないなら、なにを持って伝説なんですかね」


 疑問をそのまま口にした。


「陽菜乃ちゃん本当に知らないんだ。まあでもそんな事情があったのなら仕方ないよね、あんまり出歩くこともなかったんでしょ?」


 偽ってることが心苦しく小さく頷くことしか出来なかった。


「先輩は『CUNE』のカリスマ読モだったのよ」


『毒蜘蛛となっ!? しかもDQNのカリスマ毒蜘蛛って......そりゃまあ伝説にもなるわ!』


「えっと......もしかしてわざと勘違いしている?」


 何が勘違いなのかいま一つ判らなかったが、再びてへっと笑って誤魔化した。


「専属になってモデル業専念するって噂もあったんだけど、演劇部の市井先輩が引退して、聖先輩の相手出来る人が誰もいなくなっちゃたみたいで、今年演劇部に入部するって話しみたい」


 確かにあの先輩相手じゃ並大抵のレベルじゃとても演劇にならない気がする。


 ――未だに別世界の二人に視線を向けた。

 

 片翼たる心々菜ちゃんは、俺の視線をしっかりと受け止める。


「ふふっ何時までも、これから一緒に演劇しようかという身で、手の甲キッスぐらいで浮かれていられないよね」


 何かを吹っ切った、いつもの心々菜ちゃんだ。


 そんな彼女は一同を見渡し


「皆は何部に入るの?」


「IOK部」俺は即答する。


「愛オッケー部? なんだか陽菜乃ちゃんからは思いもつかない、大人びたクラブを狙ってるのね」


 心々菜ちゃんは顔を赤らめながら意外といった表情を見せる。気のせいではなく、とんでもないクラブを想像してるそんな気がする。


「アイは一目散に......オーはお家に......ケイは帰ろう部。至ってまともな帰宅部、それ以外は考えていません」


 都ちゃんだけが、うんうん頷いてくれる。


「皆は何部に入るの?」


 あっ......完全スルーですか、そうですか。


「明日、昼休み後から体育館で文武両道の部活動説明会あるっす。自分はそれ出てから決めるっすよ」


「わたしも説明会聞いてからでもいいかな」


 いおりんと彩帆ちゃんもまだ何部に入るか決めかねているみたいだ。


「都ちゃん、私達も明日見に行こうか?」


 うん、うん頷く都ちゃんだが、心なしか額に汗して白い顔もポゥと赤らんでいる。


「ど、どうしたの! 具合悪いの!?」


「ちょっと...暑い」


 都ちゃんは、吐露するとおもむろにブレザーのボタンを外し、上着を脱ぎ出した。


 ――なんだろう、別にここで全てを曝け出すわけでもなく、サラリと上着を脱いだだけなのに、下に着ているシンプルな真っ白なブラウスから突出する双なる膨らみが、リボンを押しやり俺たちの目を貫き射止める。


 あっ いーちゃんも、戻って来れたのかまじまじと凝視してる、都ちゃんナイスだ!


 ごくり、誰かの喉が鳴った音が響く。


「こっち、リボンも外した方が楽になるっすよ」


 いおりんの呼び方、やはり都だからこっちか、苺伽ちゃんはかっち......被りはないな。


 うん...と頷き素直にリボンを外す、固唾を呑み見守る五人。

 

 はぁはぁ、いーちゃんの嘆声が漏れ聞こえる。


 都ちゃんは、第二ボタンまで指を掛けた状態で、普通ではない気配にキョトキョト周りを見渡し、俺たち含む店にいる大半の人に注目というか、ガン見されていることに気が付く。


 小さく息を呑み込み顔を真っ赤にして首元を押さえると、目線に耐えられなかったのか突っ伏そうとしたが、その巨なる双丘がテーブルに当たり、ぽよよーんとはね飛ばされるに至った。


「あ......っん」


 羞じらいを含んだ漏れ声、恥じらい頬染める都ちゃんに、ファーストフードの二階に居る全員が満場一致で惜しみのない拍手を贈る。


「好きって......ことなの」


 出された吐息のような言葉は、俺たちの耳に甘く微かに伝わってきた。




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