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草食系男子ですが~高校卒業と同時にTSして女子高生にジョブチェンジしました!  作者: Ciga-R
第二部 学校に行ってみよう!

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二つ名って大事です(中程)

 

 ひとつ高い教壇に立ち、悠然と微笑みを浮かべる美少女は、くせ毛の付いてしまった髪を優美な仕草でかき上げ、カチューシャを装着するかのよう軽やかにダテ眼鏡を髪の上に乗せる。


 三つ編みってあんなに速く、簡単に結び解けるものなのだろうか。


 そこだけ映像が早送りになったかのようなスピードだった。


「はーい、こんにちは! こちらの時は、なぎさって呼んでね♪」


 先ほどまで、いおりんっす! ポジティブ満開だった少女は、そこにいない。


 天真爛漫を絵に描いたような笑顔を皆に振り撒くと、あぜんとしている水嶋先生に近付き、彼女が着ているスーツの胸ポケットからセットのトランプを取り出した......ように見えた。


「先生少しの間てすけど借りますね。時間もないからサクッといくよ♪」


 彼女の手の中で、まるで生き物のように五十数枚のカードが踊る、まるで一つの意思を持ち群れ翔ぶ鳥のように空中を舞う。


 横向きに旋回させながら入れ替え「The Hex!」涼やかに発声しカードの束を分割すると、教壇の上には見事な正六角形の辺が形作られた。


 カードを瞬時に回収すると先生に近寄り、胸ポケットに戻したように見えた、がそもそもポケットに入る大きさでなくカード自体が空中にかき消えたかのような錯覚を、言葉もなく呆気にとられている俺たちに与える。


「これにて庵 渚の初級フラリッシュショー終演致します」


 宣告して優雅な礼を一つ行う。


 誰かが思い出したかのように拍手すると、夢から覚めたように皆が一斉に盛大な拍手を渚に贈る。


 興奮したのか水嶋先生も遅れて拍手し


「素晴らしい技能でしたよ、お見事! まあトランプ持込みのことは、今回は不問にしましょう」


 ニッコリとそれは楽しそうな顔をする。


「それじゃ渚さんの二つ名、いってみよう!」


 いおりんとなぎさ、全く異なるキャラクターを使い分ける庵 渚という名の女の子、この学校に入ってそして女の子になって初めてできた同年代の友達、最初の出会いからお互いに、とても惹かれあっていたみたいだ。


 俺たちは確かな目線を交わす。


 そして俺は渚に親指を立てGJを贈った。


 彼女が選んだのは疾風雷光の(しっぷうらいこうの)庵(いおり) 渚(なぎさ)


 うん格好いいよね。


「さて、真打ちの登場、華麗に決めますか♪」


 俺に向かって楽しそうに囁く何を言ってるんだ?


「次、一ノ宮さん宜しくね」


 言われて次が俺だったことにその時思い出す、うはっ渚のマジックに夢中で何も考えてないよ。


 俺は、右足よし!右手よし!同時なし!確認しながら、ぎこちなく教壇に向かう。


 一番前に座る赤坂さんの横を通った際「陽菜乃ちゃんFight! 気軽にね」気遣いの言葉を投げてくれた。


 渚の演出過多ともいえる自己紹介の後であり、なおかつ悪目立ちしている俺の出番、教室内は最高潮に盛り上がりをみせる。


 ――俺になにも期待しないでね。


 教壇に上がり改めて教室全体を見渡す、六列六人俺を除いて先生を含めた七十二の目が注がれる。


 ヤバい心臓がばくばく鳴っている。

 

 何気なく向けた視線の先に、ついに正面からあのふわふわ髪の女の子を見てしまった。


 ズッキュン! 瞬間、俺のチキンハートを音を立て何かがすり抜けていった。


「な、なにこの生き物......」


 人は自分が考えていないような突出したものや出来事にしばし意味もなく呻き声に似た賞賛を送ってしまうものらしい。


 これが生き物と呼ばれるやつなのか......俺もさんざん人から、なまものやせいぶつ、果ては人外扱いされたことがあるが、初めてつい口から出てしまう気持ちを理解できたような気がする。


 なんだろう......絡ましたら指に吸いついて離しがたくなりそうな柔らかなふわふわの髪の毛、パッチリと大きな二重のまぶたに仔猫のような大きな瞳、透き通る柔肌はどこまでもしっとりとして、ほんのり赤く染まっている。妙味に艶々でそこから紡ぎ出されるであろう言の葉は、天上の歌姫もかくやと思わせる唇、細い華奢なうなじ......。


 言葉もなく、じぃーと見とれてしまったようだ。


 その視線に堪えられなくなったのか、顔を赤く染めてうつ向いてしまう。


 いかん、いかんよ俺! 今のは完全NGだ、どうみても変なやつと思われた。


 動揺も露に俺は名前を書くべく黒板に向き直る。


 その時、そのまま貼られていた座席表に気が付いてしまい、ついつい彼女の名前を確認してしまう。


 神林 心々菜


 ずっきゅーん!


 刺された。何か槍状のもので見事に俺の心臓は刺し貫かれた。


 ――妹も宮女に行くの、嬉しそうに語った憧れのあの人......。


「あの、一ノ宮さん?」


 水嶋先生の訝しげな声で現実に引き戻され我にかえる。


 いかん、またしても遠く違う世界に旅立っていたみたいだ。


 それにしてもあの娘『ここな』って読むのかな、なんて素敵な名前なんだろう。俺は動揺を隠しきれず顔を朱に染め、それでもなんとか名前を書き終え皆の方に向き直る。


 なんだろう......皆のぽかんとした顔、ちょっとびっくりしたような表情、机に突っ伏して笑いを堪えている娘、渚も今はそんなキャラじゃないだろうに口を可愛く半開きにして肩をぷるぷる震わせ、まるで大声で笑ったら敗けだと勝負を挑むように黒板を睨んでいる。


 不安になって赤坂さんを見ると、口に手を当て小さく首を二、三度横に振る。


 神林さんなんて、まともに黒板に顔を向けられないのか、すごく真っ赤な顔して、じっと下を見ている......俺ただ単に名前書いただけだろう。

 

 神林(いちのみや) 心々菜(ひなの)


 黒板にはそう書いてある。うん確かに俺が書いたんだよな......どこか可笑しいことでも書いて......。


「うっひょおー!?」


 なんたることでしょう......神林さんのことを考えるあまり、とんでもないミス? ミスで許される、いや赦されることなのか、しかもヨミだけ自分の名前ってどうなの。


 こ、ここはあれだ、そうあれだ男らしく、今は女だから、いなやっぱり男らしく......どっちだ俺!


 ――何事もなかったかのように名乗りを上げてしまえ!


「しゅ、出席番号四番、神林 ひなの? いやいや違う違うんだ姓は一ノ宮 名はひにゃのれすぅ!?」


 噛むの、ここで噛むの俺はっ!?


 ひにゃのってナニ? 新手の生物?


 あっ皆が唖然と、いやいやいや噛まんよ普通って顔、いやそれ以前にどうした何があったといった顔で見ている。机に突っ伏してる娘なんてピクピク痙攣してるよ!


 可哀想に渚なんて、顔を上に向け白目剥いて口の端から白い泡こぼしちゃてるし......あっ、それでもキャラじゃないと思ったのか、あの状態から器用に三つ編みにしてる。いおりんに戻るつもりなんだろう、それにしても相変わらず器用な指使いだ......。


 ってどうするよ、この事態!


「えーと、時間もない事だし、一ノ宮さんだよね? 二つ名いってみよか」


 えっ? この状態でいくのですか!?


 ――なんだろう、この寂寥とした気持ちは......。


 俺の大方の予想通り、出てきた二つ名はどれも、残念天使ちゃん、天然なるしもべ、癒され天使、天然の申し子、天然天使、どれもこれも天然やら天使がお約束のように入っているのですけど。


 最後の天然天使なんてそのまんまですやん。


 あっスキル泣き面が発動しそうになってきた。


 それまで一言も喋らず、うつ向いていた神林さんが、あ、あのと発言してきた。


 ――勝手に名前が出されたことに、ついに堪り兼ねて文句の一つでも言われるのだろうか......。


 俺は急に体が震え、ぎゅっと目を閉じる。


 しかし、なかなか怒ったような声が聞こえてこない。


 恐る恐る目を開けると、それを待っていたかのように二人の視線が絡み合う。


「片翼の癒し手ってどうです、翔べないけどまわりを暖かなポカポカした気持ちにさせる一ノ宮さんのイメージに合うと思いませんか?」


 まだ朱に染まる顔に、とても柔らかな微笑みを浮かべ、小さいけど良く響く声で目じりを下げながら提案する。


 片翼の癒し手(かたよくのいやして)一ノ宮 陽菜乃(いちのみや ひなの)




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