入学式、新たなる出会い
道なりに両脇を、何十本との桜が埋め尽くし咲き乱れる。
俺は舞花母さんとの待ち会わせ場所に向かう。
空は気持ちよいほどに晴れ渡り、うららかな春の陽射しが優しく背中に降り注ぐ。
タタタタッと小高い丘を出来る限りの早足で駆け上がっていく。
満開となった桜が春のそよ風に柔らかく小さな花びらを舞い散らす圧巻の景色も、今は見とれている余裕がない。
陽菜乃となったことで、この春から高校一年生として、これから三年間通う宮ノ坂女子高等学校、通称宮女で俺にとっては二回目となる高校の入学式が今から行われる。
とはいえ前の学校は共学だったため、女子高の入学式なんて初めての経験なんだけど。
――かなり遅刻した、舞花母さん怒ってるかな。
今から入学する学校の理事長をしぃちゃんが務めている。
そのため朝早く先に出て行き、式が午後からだったので余裕をかまし、ついママの居ぬ間になんとやらでハマっているMMOゲームを何も考えずプレイしてしまった。
はい、全て自分が悪いのです。
気が付けば家を出ないと間に合わない時間をけっこう過ぎていて、慣れない制服を着るのに思った以上に手間取り今に至る。
菜々子にも着方を伝授してもらっていたが、女子のブレザーってやつは思いの外、着る時、着た後に気にしなければならない箇所がたくさんあり、直せば直すほど違うところが気になってしまう。
まあ、これも慣れるしかないのだけども。
宮女の制服は、黒色の上着にその年の学年色と同色のチェック柄のワンポイントが袖、胸元、ポケットにアクセントを持たせ、これも同色のチェック柄のスカートと対になる大き目のリボン、これが三年間持ち回りで繰り返される。
今年の一年生は、紺色とワインレッドの網目が全学生共通のシックな白を基調とした下地と混じり合う。
宮女の制服は、この近辺でもお洒落な制服としてとても有名だ。
校門の前、入学式の案内看板の付近で、手持ち無沙汰の舞花母さんを見つける。しぃちゃんが式辞のため出れない代わりに来てくれたのだ。
「ご、ごめんなさい」
息が上がりはぁはぁ言いながら謝る。
そんな俺に近付き、クンクンと辺りを匂う。
「あら余裕ね、陽菜乃からゲーム臭がするわよ」
えっ!? それって匂うものなの、思わず袖に鼻を寄せてしまい......やられた。
「静華には黙っていて、あ・げ・る♪」
その代わり貸し点3Pよと付け足す。
10Pでフフフッと怖い笑みを浮かべる。
――俺トラウマにならなきゃいいんだけど......。
舞花母さんと別れ、新入生受付場所に行く。
そこで椅子に座っていた上級生が俺を見上げ......息を呑みそのまま固まってしまう。
「――ようこそ、地球へ長旅ご苦労様です」
うつむき小さく呟く。
なんだろう......俺は地球外生命体か何かなんだろうか。
ブレザーの胸ポケットにミニチュアローズの造花を付けてくれるのだが、プルプル手が震えているため胸を刺されないか心配になる。
上級生は、はぁはぁ喘ぎながら名簿で俺のクラスを確認してくれる、クラスは一年三組みたいだ。
下駄箱で学校指定のローファーから上履きに着替え、二階にある教室を目指す。
学年で一階ずつ階が上がり三階になると、次は一階になるというシステムのため、一年生は二階から始まり二年時は三階、三年になると一階になるらしかった。
俺は一年生の教室が並ぶ二階に上がり、廊下を歩きながら前方に見える扉上のプレートを確認していく。
『どうか、ドジっ娘の汚名など付けられませんように!』
――女の子になってそれほど経っていないのに、悲しいかな俺には二つ名がいっぱい付けられている。
ドジっ娘を筆頭に、泣き虫、ママっ娘、鼻血ぶぅやら、姉頼り、最近じゃタコ弐号、どれもこれもが不名誉なものばかりだ......ここらで心機一転素晴らしい二つ名をGETしようじゃないか!
祈る気持ちを胸に秘め、後ろの扉から目立たぬよう教室に入った。
どうやら黒板に席順が貼ってあるみたいだ。
俺は黒板を目指して並んだ机の間を歩いていく。
すると、そこかしこで談笑していたクラスメート達から「うわっ なにあの娘!」「ありえんばい」「超絶......」「癒されキタコレ」「どこの深窓のご令嬢だよ!」「天使......」などという呟きやら囁きが漏れ聞こえてくる。
よし! いける、まだ大丈夫。
俺は小動物のようにプルプル震える心を落ち着かせ、皆様それは御機嫌麗しくてよといった態度を演出しつつ、貼り出された席順を確認する。
大事だから三回確認した。
「ええええっ!?」
不覚にも声を上げてしまった。
俺に注目していた皆がビクッと反応する。
どうしたの!? 皆が血相変えて黒板に集まって来る中、俺は、堪らず涙目になり叫ぶ。
「わ、私の名前が......無いお!?」
一部の生徒は、俺の潤んだ瞳及び庇護欲を最大限に発揮されたであろうスキル『泣きっ面(そのままのnaming)』に魂を奪われ、七色に輝く遠い国へ旅立っていった。
まさかしぃちゃんの裏工作がバレて入学取り消しになったんじゃないよね......。
「え、えっと、お嬢ちゃんの名前は何ていうのかなっ......怖がらず教えてくれる?」
――それが仮にもクラスメートに掛ける言葉だというのですか。
「いちのみや ひなのだもん」
ぷくっと頬を膨らませる。
あっ、やってしまったやも知れん。
無いよ、無いねと皆が真剣に探してくれる、担任の先生に聞きに行こうよと言った生徒が、ふっと思い出したように俺に問い掛ける。
「ひなのちゃん......二組で間違ってないよね?」
「・・・・・・三組だもん」
俺は上気した顔を鞄で隠し、いそいそと前の扉から出る。その際に二組の皆に一礼する。
「あーあ、同じクラスだったらよかったのに」
「残念......」「またね!」
皆が優しく手を振ってくれた。
背後でドジっ娘、泣き顔すごく萌えたね!なんてキャッキャ喜ぶ声が聞こえる。
同じ過ちを繰り返す訳にはいかない。
慎重に何度もプレートを確認し、一年三組の前扉から入る。
ササッと席順を確認すると、当たり前だがちゃんと廊下側の前から四番目にありました。
しぃちゃんに心の中で疑ったことを謝りながら自分の席に座る。
一ノ宮の姓のため、下手すると一番か二番を覚悟してただけに、ちょっと胸を撫で下ろす。
入学式のプログラムを見るでもなく眺め読みしていると、前の席に座ろうとした生徒ともろに目が合う。
――何だろう、一言でいってしまうと委員長?
この髪形自由の宮女で、敢えて三つ編み、一部のメガネストから絶大な支援を受けるであろうお洒落な黒縁眼鏡を装着、才女と姉御肌を併せ持った委員長オブ委員長、それ以外の称号は受付けませんとの佇まい。
数瞬の間、見つめ合う。
彼女は、手をシュパッと音が響きそうに掲げ
「オッス!」爽やかに挨拶してきた。
「お、おっす」つられて俺も返答する。
「なんすか、なんすか! 自分見掛けによらずノリいいっすね」
貴女もね、まさかその見掛けでそうくるのか。
「自分、庵 渚っす! そのままでも、いいっすけど出来れば『いおりん』と呼んで欲しいっす!」
――まさか女子高に来て、リアルタコ・ス委員長と遭遇しようとは。
何故かありがとうと呟いていた。
※※※
入学式が始まるため、俺たちはクラス担当の水嶋教諭に引率され体育館に向かう。
出席番号順に並んで移動とかではなかったため後ろの方で、いおりんと小声で喋っていた。
「陽菜乃もびっくりするぐらい可愛いっすけど、あの娘も半端ないっすね」
潜めた声に称賛の響きが含まれる。
そう俺もさっきから堪らなく気になっていた。
その娘は俺達の前の方を歩いているため、ここからだと後ろ姿か、たまに横顔が見えるだけで正面から確認出来ない。
しかし、そのくせ毛風のフワフワしたミディアムのヘアースタイルを見てるだけで、とても幸せな気持ちになってくる。
「あっちの娘も! 目の下に隅作ちゃって、ちょっと残念感あるっすけど、ほら見てみるっす!」
言われて少し斜め後ろを歩く女の子を盗み見る。
「!!!」
目が吸い付いて離れない......俺は決してデカければ至高!というタイプではない、かといって無論のこと嫌いではない。
基本的に形が整っていて綺麗な感じであれば小ぶりだろうが全く問題としない......自分がそのタイプだから言ってるわけでは決してない。
何だろう、たわわに実る果物で例えるとスイカか何かが、そしてユッサユッサと揺れている。
ある意味、一つの完成した造形美。
――肩が凝るだろあれじゃ、自分と比べると数倍の重力負荷が掛かってるよなどう見ても。
「ふーん、陽菜乃って、おっぱい星人なんすね」
その、ちょっとあんたばぁかあ?を彷彿させるニュアンスに、俺の心にメラメラと火が宿る。
「いやいや、いおりん! キミは本当の所おっぱい星人の何が判ってるのかな? 言っとくけど胸はデカけりゃいいってわけじゃないんだよ、釣り鐘のような優美な形は理想だけれども、だがしかし! 小ぶりだからといって諦めちゃいけないよお嬢ちゃん。バランスよく配置された程よい形と色彩、そして、ここが最重要! 小さかろうが大きかろうが、裸になり恥ずかしげに片手、あくまでも片手、両手などは無論のことNG・・・で両胸を隠した時が始まりの詩、新たなる物語が生まれし瞬間、まさに真・骨・頂! その垣間見えるチラリズム、大きければ隠しても隠しきれなく、はみ出る肉感、小さければなお、腕の隙間からチラリと見えた曲線に思わず目線は釘付け! 判るかな、判らないかな、おっぱい星人の奥の深さがキミにはっ!!」
声高々に賛同を得られるはずのないフェチ論を熱く語り切った。
いつの間にか移動していた行列の歩行は止まり、シーンと辺りは静まりかえる。
シーンと静まりかえった廊下に、巨乳の彼女の呟きが洩れ聞こえる。
「ここにも星人...いたっス」




