旅の終りに訪れしもの
俺たちは、一路新街に向け、幻想的な氷のダンジョンをパーティーを組んで突き進んでいく。
前衛職のオーナー、陽一、Chronoくん、後衛職の俺、Miyaちゃんと理想のPT構成となっていた。
前衛にはキャラクターの後ろに、後衛には前に一人に一匹つづ、ペットモンスターと呼ばれるお供が参加して、戦闘に華を添える。
俺のペットは熊型のモンスターで一撃必殺の単体物理攻撃に秀でている。
前衛職のペットは、主に魔法や回復が使えるタイプが好んで選ばれている、陽一も回復系魔法が使える猫耳の女の子タイプを相棒にしていた。
新しい街は、氷の国をモチーフしているため皆、火属性のスキルや武器で身を包み、防具も氷耐性装備で準備万全で挑んでいる。
Ma:『Syuri、夜も時間あったらIN出来る?』
うーん、どうだろう今、夜って言われた瞬間、なぜか背筋に悪寒が走ったような気がする。
Ma:『時間あったら来てね、皆の驚き慌てる姿......くくくっ』
リアルでも、たぶんにやにや笑ってるオーナーが想像出来た。
そしてランク<<WO>>は、生きる都市伝説だからと愉しげに続ける。
ギルド『まったり堂』は、ここにいる主力以外にも、主に晩からINする社会人プレイヤーが十数名いる。
このゲームはPTを組めるのが最大五キャラまでのため、マルチ操作で何パーティーも組んで狩りにいくこともよくあった。
チャットを続けながらも何十回目のエンカウントがあり、俺たちの前に三列編隊の氷属性と思われる雑魚モンスターが現れる。
Ma:『いくよ♪ ドラゴネス咆哮 ―灼熱の宴―』
Ch:『後は任せて! 射法八節 ―焔―・・・打起し・・・会・・・残心』
Mattarikaオーナーの全体攻撃が、雑魚敵をあらかた片付け、Chronoくんの全体ランダム攻撃が、三体ほど残った敵を殲滅する。
今回も出番の無かった陽一は
Wi『もう次は、オレの超絶スキルでいくっス!』
まぁあれほどの苦労に、浴びるほどの時間を掛けて、やっと成れた憧れの五次職、忍者マスターが全く出番が無ければ愚痴りたい気持ちも判る。
Ma:『ああっ......アレ、効率悪いから♪』
あっさりと却下され、何も返せず項垂れる。
安心しろ俺とMiyaちゃんも、さっきから全く出番が無いから。
破壊的な全体図攻撃を得意とするドラゴンマスターのオーナーと一撃の威力はそれほどでもないが、複数回ランダムに全体を最速で一掃するアーチャーのChronoくんのスキルの組合わせは、属性が相まっていることもあり最強過ぎて俺たち三人の出番はまるでない。
Miyaちゃんなんてさっきから一言も発言していなく、寝落ちしてしまったか心配になる。
Mi:『ただ...いま』
Ma:『おか! って居なかったのね♪』
Ch:『おかえり! 用事終わった?』
どうやらただ単に席を外していたみたいだ。
こういったやり取りを見る限りでは中の人が、実は一人って噂も信じられなくなる。
もしこれを作ってやってるのであれば中の人は、かなりの二重人格だ......。
このダンジョンにたどり着くまでにも、別のところを攻略する必要があり、俺も二回ほどトイレや飲み物休憩を入れて、やっと新街に行くための最終関門、ゲートキーパーにたどり着いた。
結構な時間が経っていたため、昨日からぶっ通しでプレイしている三人は、さすがに言葉少なくボス戦に向け黙々と準備をする。
しかし、陽一だけは、何かに憑かれたかのようなハイテンションを維持し
Wi:『最後のとどめは、俺の最強最大超絶スキルに任せるスよ!』
しらっとした雰囲気が流れる。
もちろん空気が読めないのも陽一
Wi:『ぐふふ、この為にまだ一回も使ってないんスから皆期待するスよ!』
誰も期待なんてしていませんよ。
というか、俺ってこんなにお寒いキャラだったんだ......人の振り見て我が振り直せというが、タコ・ス星人よ本当にありがとー、君のお陰で俺性格改善するよ。
だから陽一よ、安らかに眠れ......。
気分が高揚してきた俺は、Winterに向けてアクション、猫パンチでぽかぽか殴る真似をした。
Wi:『なんだよ、Syuriじゃれるんじゃないスよ』
Sy:『お前! なんか勘違いしてないスか?』
Wi:『本当に、Syuriは照れ屋スね(ポッ)』
こ、こいつお前が朱里って言うなよ、俺の神林さんが穢れるだろうが!
――俺のじゃないですけど。
絶対こいつ、昨日の電話番号とラインアドGETで何かとてつもない勘違いをしている、俺にも遂にモテ期到来とか思ってそうだな。
Wi:『ついに、モテ期くるっス!』
Sy:『いや、ないっス、絶対ありえないっス』
Ma:『あのー仲良いのはいいけど、そろそろ』
Ma:『って二人はリアルで恋人関係?』
Wi:『ただの従兄弟っス!』
Sy:『ただの従兄弟っス!』
慣れないキーボードのせいかコンマ何秒か遅れをとってしまった。
がっくり項垂れる俺に
Mi:『タコ...負けてない』
Miyaちゃんが、それは優しくアクションなでなでをしてくれる。
――でも、いつのまにか俺もタコ扱いなのね。
Sy:『聖なる光りよー大いなる神々の御霊にて弱き我らに守護となる盾を!』
俺の操るホーリープリンセスがパーティー全体に光の防御壁を展開する。
さすが満を持して投入されたボス敵なだけあり、なかなか歯応えがあった。
しかし、属性を揃え四次、五次戦闘職のみで編成され、なおかつ最強ランクの俺を加えたこのパーティーの前では、ボスのHPが無くなるのも後わずかと思われた。
Wi:『そろそろ、決めるス!』
陽一操る忍者マスターが、最大級の必殺技を繰り出そうと力を溜める。
Wi:『忍術・・・』
陽一の技が発動される前に、俺のキャラから放たれた画面全体を真っ白に照らす<<WO>>最強のオリジナル技『Check☆mate』が、いともあっさりとボスを撃退する。
この技は体力が1/10以下になったあらゆる敵を、技入力した瞬間に葬る。
戦闘空域を、勇壮な終了音楽が鳴り響く。
Sy:『あっ、お疲れ様!』
Ma:『乙♪ 最後のアレ派手で良いね♪』
Ch:『お疲れさま! 今回なんか楽だったよ』
Mi:『おつ...です』
陽一は......あっ端の方で、アクションがっくりをしてる。
Ma:『時間もだし、さっさと新街行きますか♪』
俺たちは、おぅー! 掛け声あげると、陽一をほったらかしにしてダンジョン入口を目指した。
新しい街に行くために、フィールドを横断していると雑魚敵といえども結構なLvなのか攻撃が痛い、置いてきぼりをした陽一がソロでは大変と向かえに戻り、合流して氷で包まれた美しい街に着いた時には、既に街灯が淡く点灯して、とてもファンタジーな景色を演出していた。
Ma:『あ、今日の晩は無理ぽぃさすがに限界』
Ch:『僕たちも無理だよ、また明日ね』
Ma:『Syuriどう、まったり堂気に入った?』
Sy:『はい! とても居心地よいです!』
Ma:『じゃ正式に加盟よろしく♪』
俺たちはアクション喜びのポーズを全員で行い、一通り終わると名残惜しいが、手を振り合い、一人一人画面から消えていった。
「ふぅ......はああ、ふぅーわあ」
俺は、ログアウトすると一つ大きな溜め息をつき、両手を広げて大きな欠伸する。
いつの間にか椅子に片膝を立て、気だるげにこれも両肘をつき、あられもない格好のまま長い髪を掻き上げた。
※※※
「あっ! そうだ!?」
家事とかするの完全に忘れてる、そういえばさっきゲームの中で街灯点いてたよな......。
俺は、そのままの姿勢で椅子を半回転させ......すぐにもう半回転させ元の定位置に戻る。
気のせいかも知れないが、いつの間にか薄暗くなった部屋の扉の前に白い人影が立っているのが、垣間見えたような気がする。
チラリとしか見えなかったが、手に何か黒っぽいものを握りしめてたように感じた。
『あり得ない、あり得ない、そんなはずはない』
ガタガタと震える。
ホラー系? オカルト系? 春なのに怪談?
いやいや、リアルな方がよっぽど怖いでしょ!?
「関数スモールYイコール、マイナス三スモールXが二乗の時、スモールXの変域が......」
俺は、うろ覚えの数学の問題を大きな声でまるでお経を唱えるかのように必死に暗唱し出す。
な、何か、なにかが俺の背後に近づいてくる。
「ひゃーああああっ!?」
がしっと、鈍い音を伴い俺の両肩に物理的な力が加わる。
すぐに、甘い魅惑的な匂いのする弾力のある柔らかな何かが、俺の頬にぴたりと密着し、そしてこれもいい匂いのする細く透き通るような髪の毛が、俺の首を撫で付けように絡めていく。
ぴたりと頬と頬が密着し、覆い被されているためか、薄く白いブラウスの布越しを通して、大きな柔らかな双丘が俺の薄い肩に圧迫感を伴い、心地よく押さえつけられてくる。
「ふふっ、陽菜乃それは勉強捗ってるみたいね」
「高強度防弾ガラス! ABS樹脂! レアメタル! このうち、導体にあたるのは......ってママ!? いつの間に帰ってきたの! 勉強に夢中で全く気が付かなかったよ!」
俺は頬が固定されてしまっているため正面を向いたまま「てへっ☆」と可愛くテレ笑いしてみた。
とはいえ口の端がわなわな引き吊ってしまっているのは仕方ないだろう。
「ふふっ そうね、あまりにも夢中で勉強してたから、家事はおろか......あまつさえ私が陽菜乃のために一緒懸命、そりゃ喜んで貰おうと夜なべして作ったサンドイッチも食べる暇なかったみたいね♪」
こ、怖い、まじ怖す! ふふっとか言って音符つきの嬉しさを演じている気がするけど、目がまったく笑ってないよ!
というか! 昨日、朝まで一緒のベットで寝てたよね? 夜なべって何!?
「い、い、いつお戻りになっおまたっふぅ!?」
俺は動揺を隠せずに、噛み捲くる。
「うん? 三十分ぐらい前から扉のところに居たわよ、そりゃ陽菜乃が椅子の上で片膝立てて、優雅に頬杖つきながらニタニタ笑いながらモニターに独り言呟いてる姿も、ばっちり見させてもらったわ......タコス、タコスって連呼してたけど晩は、メキシコ料理でも食べたいの?」
――いや、まったく食べたくないです。
俺の肩に張り付くように押さえつけられていた柔らかな感触が、なくなり頬からも名残惜しそうに頬を外すと、肩に手を置く。
「さあってと、陽菜乃ちゃん? ママに何か言うことあるかな」
ここは、最大級の誠意を見せなければ!
俺は、急いで椅子からダイブすると頭を打ち付ける勢いで床に擦りつけ、目を閉じて土下座をした。
「ご免なさい、ご免なさい、ご免なさい」
しぃちゃんは、よっこらしょと小さく呟き、どうやら椅子に座ったみたいだ。
「陽菜乃、本当に反省してるの?」
はい! 大きな返事をしようとしたところ、床に這いつくばっている俺のつむじ辺りを、柔らかでいてそれでいて何かしらの重量があるものが、ふわりと乗ってくる気配を感じた。
『えっ? なにこれ、もしかして踏まれている! 恥辱プレイ始まる!?』
目をつぶっているため見えないが、百会辺りをくどいぐらいに、弾みをつけて押さえつけてくる。
ざらりとしているが、それでいてスベスベとした不思議な感触を頭の頂きに感じる。
『そういやー今朝、黒色のセクシーな網目のやつ履いていたよな』
現状に思考が追い付いていないためか、冷静にそんなことを考える。
その間も、くねくね、ねちっこく繰返しツボを刺激してくる、その動きにゲームで疲れた脳がリフレッシュされていく。
『あっもしかしたら、これ良いかも!』
――常々自分のドMぶりに呆れてしまう。
「ふむ、これは反省してる様子じゃないわね」
思いの外、耳の近くで声が聞こえ、動きを止めてしまう。
えーもっとして! 思いながら目を開けて顔を上げると、黒色の上品なシースルー柄シルクカバーを手に持ったしぃちゃんが、呆れ果てた目で俺を見ていた。
その際、床から見上げたためか、正面の椅子に座っているしぃちゃんの鈍く黒色に光る幾何模様が描かれた蠱惑的な網目のストッキングが、まざまざと目の前に飛び込んでくる
。
脚をピッチリと組んでいるが、太ももと僅かに見える隙間に思わず目線が行ってしまい、慌てて在らぬ方向に目を向き直す。
「ねぇ、もしかしたらと思うけど......足で踏まれて気持ち良かったとか思ってないわよね」
「えっ! もちろん悲しくって泣きそうだったよ」
「まあ、私が愛しい娘の頭に足乗せるわけないんだけどね」
へっそうなの!?
「もう! これよこれ」
シルクのカバーを、手に持ち俺の頭を先ほどと同じようにぐりぐりしてくる。
俺は、その感触のよさにうっとりと目を閉じてしまった。
「もうそんな仔猫が喉コロコロされて喜んでるような顔されたら、何も言えなくなるじゃない、だから態度で示すのよ」
パソコンとモニターの電気コードを外すと、それはにこやかに笑い、ゲームしたくなったら、いいなさいよ......ただし許可が出るかどうかは貴女のこれから次第だけど......あっパソコン用のカバー買ってきたから使いなさい。
それだけ言うとパソコンにカバーを掛け、部屋を出ていった。
俺は、ただの重たい箱になった物体と鏡にもならないモニターを眺め呆然と佇ずむしかなかった。
MMOの話しは、今後もぽちぽち書いていきます。
次話が終われば、ようやく次から学校編に移行する予定にしています(脱線しなければ..)




