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ギルド体験入隊!

 

 画面が切り替わり、俺が選択したキャラが前回終了した中世をモチーフした街の中に転送される。


 陽菜乃になったため一日やっていなかっただけなのに、街に流れる心暖まる、それでいて躍動感あふれるBGMを聴くと、早くも冒険に出発することが待ち遠しくなってくる。


 ゲーム内は、現実の季節と時間にリンクしているため、さわめきが聴こえてきそうな街路樹が、午後の陽射しを受けキラキラ反射している。


 建物、街路も今まで使っていたPCとは雲泥のクオリティによる描写で圧倒されそうだ。

 

 あまり活気のないchを選んだため、周りに動きまわる人影はなかった。


 俺はパソコンが新しくなったため、初期設定のままの操作、画面情報をプレイしやすいようカスタムする。

 

「さてっと」


 改めて画面中の街路に、悠然とたたずむ女の子キャラを操作してみる。


 様々なアクションポーズを取り、このキャラのみの固有アクションを決めてみた。


「やっぱ、いい!」


 思わず感嘆の声が出る。


 ある事情で封印してからセカンドアカでINするのは二ヶ月振りとなるが、いつみてもこのアクションには心躍らされる。


 ――キャンペーン期間中のこの時期にあまり皆を待たせる訳にはいかない。しかも今回俺にとっては馴染みのギルメンとはいえ、皆からすれば初参加の知らない人、そこら辺をあまり細かく言うような面子ではないが、早く行くのに越したことはない。


 俺は、皆がこのキャラを見た時の反応を想像し、高揚した気分で溜まり場へと急いだ。


 Winter:『あー来たっス、来た、待ってたスよ!』


 陽一操る男キャラWinter(ウィンター)(略:Wi)がアクションで手を振ってくる。


 ――こいつ、意気揚々とレアアバター着込んで五次職の武器装備してドヤ顔ですか、そうですか。


 好きで語尾に「ス」って付けていたのだけど、他人が......特に陽一が使うと何故か無性にイラっとくる。


 皆優しいから言わなかっただけで


『こいつ、スッス、スッスうぜぇーっ、キャラ作りかも知れんが、お前は酢の国で産まれたタコ・ス星人かっ!?』


 なんて思われてたやも知れん......いや思わんか。


 うん、使うの止めておこう。


 固く心に誓った俺は、皆に気付かれないようWiのステータス画面を表示させ、ジョブ名の横のランクを確認してみた。


『おおっ!? <<A>>かっ、やるな陽一』


 そうだな。ここは、唯一誉めるとこだ。


 Mattarika:『ハオー♪ お初、お姫様!』


 ドラゴンの圧倒的な闘気で周辺を圧巻させつつ、レア装備を全身に纏った魅惑溢れる女キャラのMattarika(マッタリカ)(略:Ma)オーナーがチャットを送ってきた。


 ギルド『Team The まったり堂』の至高にしてカリスマ、統率力に長けたギルドマスター。


 俺(陽一)は、憧憬を込めてオーナーと呼んでいる。


 ジョブは、ドラゴンマスター、ランクは<<S>>5次職の最高峰だ。


 リアルジョブは、ただの酒好きの主婦なのよね、ガハハッと豪快に笑い飛ばすが、酒豪の素敵な姐さんとして皆にとても慕われている。


 ――このゲームには、Lv以外にランクというやり込み要素がある。


 初期の一次職から基本の二次職、専門三次職、特化四次職、マスター五次職とジョブチェンジしていく、その過程で職が上がる際に三次職からランクという概念が付与される。


 ランクは、Cから始まり初期値にCが選択される確率は70%、B:18%、A:8%、S:3%、SS:1%未満と非情ともいえるシビアな数値。


 ランクを上げるには課金ダンジョンのレアドロップ(トレード不可)を手に入れる以外なく、プレイヤーはどんだけーとぼやくが、一旦ハマると逃げ出せなくなる罠に皆が絡め捕らわれていく。


 中には初期ランクが低いとキャラデリして一からやり直す人もいるが、三次職まで上げるだけでも、かなりの時間を費やすため、大概の人は、このゲーム最大最凶の緊張する一瞬に、祈りを込めてマウスをクリックする。


 実際、ジョブよりもランクが一番のステータスとなってるんじゃなかろうか......いやなってるよな。


 陽一は、<<A>>をもぎ取っただけに、かなりの幸運といえるだろう。


 昨日の神林さんの一件といい、俺の代わりになにかがとり憑いたのやも知れん。


 ――まあ俺は、所詮ただの従姉の女の子だから、別に陽一がどうなろうと知ったことじゃないんだけどね。


 Miyako:『姫様...お初』

 Chrono:『ようこそ! まったり堂へ、プリンセスになるのは大変だったでしょ? 歓迎するよ!』


 挨拶してきたのは、このギルドの主要メンバー、ツンデレと噂のMiyako(みやこ)(略:Mi)ちゃん......彼女は、ギルメンの料理や薬などを少しも嫌な顔せず一手に作成してくれている。


 今は特化四次の戦闘職で待機中だランクは<<S>>


 もう一人はChrono(クロノ)(略:Ch)くん、彼は、武器、防具などの製作を担ってくれている心優しい少年、ギルドの癒し担当、こちらも特化4次の戦闘職で今から始まる冒険を心待ちしているランクは<<A>>


 二人は双子の兄妹で、いつも一緒にINしている。ギルメンの間では、実は中の人は一人なんでないと噂にもなっているが、実際には皆あまり気にしていない。


 ここは、リアル事情に首を突っ込まないゲーム内至上主義者たちが集まりだから。


 そんな訳でボイチャなしの文字によるチャットがこのギルドでは今でも主流だ。


 ちなみに俺のことを先ほどから皆が姫と呼んでいるが、別に女の子キャラ使いだからって訳でなく、ジョブが特化四次のホーリープリンセスだからだ。


 Ch:『すごい、転生の書よくドロップしたね!』

 興奮するのも判る、このジョブの転生の書もこれも課金ダンジョンのウルトラレア、ゲーム内でも三十人も居ないのじゃなかろうか。


 ――レアなのにウルトラがつくってどんだけーなんだけど。


 Mi:『姫様...ランク未表示』


 俺は、ギルメン限定に設定してると告げた。


 ランクは、表示・未表示・ギルメンのみ表示が選べる。


 負けず嫌いの性格のプレイヤーが多いゲーム内では、無用のトラブルの元になるため高ランクでも未表示に設定している人がいる。


 とはいえ大抵はCかBの人が未表示にしてる、そりゃランク高ければ皆自慢したいよね。


 Ma:『それじゃサクッと入隊しちゃいますか♪ あっ! といっても先ずは仮だけどね』


 後々のトラブルの元となるのを避けるため、『まったり堂』はギルドに入るのも敷居が高い、仮入隊期間を経て晴れてギルメンに加えてもらえる。


 ギルド加盟はGMの承認がないと認められないため、俺は、オーナーと仮契約を結んだ。

 

 Ma:『で、ランクはっ !!!』

 Ch:『どうしたの? ええっ?!』

 Mi:『...ぽっ』

 Wi:『――都市伝説きたっス!』

 タコ・ス星人も知っているのに皆に合わせる。

 Miyakoちゃんの最大級の誉め言葉『ぽっ』もGETだ!!


 Ma:『ははは、私も実際初めて見たわ、いるもんだ』


 廃プレイヤーの中でも名高いHIプレイヤーが集う、まったり堂の面々からでさえ驚愕の声が上がる。


 そう俺のジョブ名:ホーリープリンセスの横に、燦然と輝くランク表示は、<<WO>>。


 ランク<<WO>>そのジョブに唯一無二の存在。


 <<Only One>>

 ただ一人だけのための最高ランク。


 公式ですら三次、四次の中で、その存在するジョブが片手で数えられるほどしか確認されていない、五次職にいたっては、そもそもそこまで登り詰めたプレイヤーがいまだに全体の3%程度のため<<SS>>の存在すら確認されていなかった。


 こんなレア中のレアなランクを引き当ててしまった俺は、あるトラブルのため、キャラの封印を余儀なくされたんだけど......まあそれだけが原因ってわけでもないんだけど。


 Ma:『ねぇ♪ アクション見せて! 見せて!』


 初見のランクに興奮を隠そうともせずオーナーがねだる。


 ランクによる違いは、もちろん戦闘スキルも強化されていくが、何より通常で使えるアクションが、段階的に派手に美しくなる。


 皆の期待を一身に集め俺は、クリックする。


 瞬間、画面は真っ白な淡い光に包まれ、純白の幾千もの羽が乱舞、その中をホーリープリンセスが舞い咲き乱れる。


 いつみてもド派手な、それでいて心打つ美しい舞だった。


 皆が美しき舞に言葉もなく魅せられる。


 最初に夢から覚めたかのようにオーナーが呟く。


 Ma:『凄いわ、こんな良いもの見せてくれるなんて、本当にありがとうね......Syuriちゃん♪』

 Ch:『凄い、すごーい! 奇跡だよ! Syuri!』

 Ma:『Syuri...ぽっ』

 Wi:『・・・・・ス』


 あっそんなにSyuri、Syuriって連呼しないで......。


 あるでしょ。ほら何の気なしに適当な名前付けてしまったけど、気付けばメインになったとか、憧れのあの人の名前を勢いで付けちゃったけど、見るたびに悶絶してしまうことって......誰でもあるよね?

 

 俺は、悶絶しそうな恥ずかしさのなか


 Sy:『至らぬ点、多々ありますが迷惑かけないよう頑張りますので、宜しくお願い致しまっス!』


 あっ!? 最後に癖で思わずスって打っちゃた。


 Mi:『ここにもタコ...いたっス』


 うん、Miyaちゃん知り合ってから、今までで一番長いチャット打ってくれて、どうもありがとう。


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