封印されしもの
Ma:『ちょっと今よ! えっ......外した!?』
Wi:『すまんス、やっちゃいました......ス』
Sy:『どんまーい、次決めたら問題ないから』
Mi:『役立たずは......嫌い』
Ma:『どまよ! Miyaは相も変わらずツンデレね♪』
Mi:『デレは...ない』
Pc画面には、戦闘しながら高速でチャットが乱れ飛ぶ......。
※※※
陽菜乃になって次の日、前の日に買い込んだ品物が続々とマンションに届き、あてがってもらった部屋をうめていく。
姿見やら、高価なドレッサー、可愛いらしいクローゼットやシンプルだけど清潔な女の子らしい机、調和を乱さずそれでいてゴージャスなベッド等。
しぃちゃんのセンスの良さを余すことなく発揮した女の子、女の子した雑誌に出てきそうな部屋が出来上がっていく。
うん。とても女の子らしい部屋だ。
「陽菜乃、本当にそれこの部屋に置くの? かといって他に置くとこないけど」
眉間にしわを寄せて、しぃちゃんが愚痴る。
あっそんなに眉間にしわ寄せちゃったら......。
「なに?」
「あ、いえ......」
「陽一も、ちょっとは考えて買えばいいのに、せめてお洒落な一体型とか、所詮あいつには無理か」
身も蓋もない言われようである、まあこの状態じゃ仕方ないか。
そこには、この部屋には、というかこの高級マンションのどの部屋にも似つかわしくない、ハイエンドユーザー必達ミドルタワー型のパソコンセットがこれでもかと存在をアピールするかのように鎮座していた。
「あっ、でもこのタワーの上に、こうして」
俺は、いそいそと清流父さんに買ってもらった大切な、くまちゃんを座らせる。
「ぼくもきまった場所ができて、うれしいくまよ!」
くま語で喋ってみた。
「ここすごく居心地がいいくま」
「ママほらっ! くまちゃんすごく喜んでるよ!」
「・・・・・」
しぃちゃんは何も語らずに、むんずとテディベアを掴むと部屋を出ていく。
「ええっ!? ぼくこの部屋にいたいくまよ」
後を追って、俺も慌てて部屋を飛び出す。
「くまちゃんは、ここに居てもらうから」
昨日見掛けた場所に戻すと、きっぱり言い切った。
「パソコンは、そうね......今日帰りに可愛いカバーでも買ってくるわ」
「今から出掛けて、晩まで帰って来ないけど一人で大丈夫? 昼はサンドイッチ作っておいたからね」
「はい!!」
俺は力一杯、元気よく返事をした。
「――なんか怪しいわね」
えっ!? やましいことなど一つも、これぽっちもないつもりですが、何か問題でもあるとでも......。
「――ゲームするつもりなんでしょうけど、五日後に入試問題あるんのだから勉強もするのよ」
「はぃ......」
「なんか、やたら返事が小さくなったわね」
「はい!」
俺の気合いが入った返事に満足げに頷く。
「ゲームするなとは言わないけど、節度もってするのよ、晩ごはん作るとかは、まだ無理と思うけどせめて最低限の家事してくれてたら嬉しいかな、判った?」
「はい! かしこまりましたです隊長!!」
しぃちゃんは、まだ不服そうな表情をしていたが時間が来たのか渋々出掛けて行った。
俺の時間きたー!
家事とかなんかは、とりあえず後回しだ。
女の子になってしまったことで様々なものを準備する必要もあるし、習ったり勉強しなきゃいけないのは判っているけど、ほら......ちょうど春休みで経験値増量キャンペーンとかしてるし、もうちょっとで憧れの五次職になれるしさ。
この前解放された新街行かないとだし、その前に皆の羨望を集めに集めたあのレアアバターも着たいし、五次職用の武器、防具も新調しなきゃだし、あっ戦闘用にMP回復用の料理、HP回復用の薬とかも用意しないと。
うほっ、する事一杯有りすぎて、どれから手をつけたらいいのやら。
こんなことなら俺が二人いればよいのになあ......そうすれば手分けして色々なことが同時に出来るし、で面倒な経験値、スキル上げやらは仮に呼び名俺Bにしてもらい、その間に俺は、優雅に新ダンジョンの攻略と......あれ?そうすると、俺Aと俺Bは同アカウントでIN出来ないのか、なんだ意味ないじゃん。
そんなことより、このハイスペックPCとハイグレードモニター&スピーカーで写し出されるであろう美しいゲーム画面と心躍るBGMの数々......心震えます!
ソシャゲも手軽でいいけど、やっぱり落ち着いて出来る家ゲー最高!
うん? 何故か大事なこと忘れてる気がする。
俺は、パソコンを起動させ、ネット環境、セキュリティ関係が問題ないことを確認するとゲーム会社のHPに飛び、その中から『The Course of Gate』と銘じられたゲームを選び、OPのBGMを口ずさみながら意気揚々とIDとPWを打ち込む。
そうだ、新しいパソコンだからDLし直さなきゃだね。
それ、ポチっとなっと
『error』
な、なんだと!!capsがlockされてるわけじゃないよな、いやIDにも問題ないよな......もう一度慎重にPW打ち直すか。
『error』
出鼻を打ち砕かれた気分だ......。
俺A、俺Bとかいってる場合じゃないんじゃない。
うん? 俺A...俺B...俺...A...俺...B...俺...もしかして俺Bなの?
――陽一だ......あいつがINしてるんだ。昨日の神林さんとの一件で、とてもじゃないけど気持ちが昂って、寝るどころじゃなかったはず。
キャンペーン中だし、ぶっ通しでやってるんじゃないの?
も、も、もしかして、俺を差し置いて五次職すでになってんじゃないだろうな。
俺が、どれだけ楽しみにしてたか判ってるのか、あいつは......。
もどかしくスマホを取り出すと陽一に電話を掛ける、なかなか出ない、寝落ちなんかしてたら絶対許さん!
永久の眠りをプレゼントしてやろうとも。
やっと繋がった電話の向こう側から、感じが似ているがまだ聴いたことがないゲーム中のBGMが漏れ聴こえる。
嫌な予感が急上昇し、自然に声が上擦る。
「あっ、よ、陽一くんですか、つかぬこと聞きますがいいですか、もしかして、もしかしてとは思いますが、ゲーム中とかではないですよね、違いますよね」
違うと言え、この野郎!
期待を裏切ってくれるのが陽一、興奮を隠そうともしない。
『もちろん! やっぱ五次職良いわ、あっあのレアアバター着てみたけど、性能も段違いだし、なんたって見た目がいい! みんなの見る目が熱いのなんの激熱通り越して鬼アツってやつ? いやいや灼熱までいっちゃってたか......それでさ、Chronoくんが五次職用の武器創ってくれたんだけど、またこれがすごく格好よいのよ......うん? 今オーナー達と新街行ってるんだけど、ゲートキーパーが強くて強くて、もう参りましたって感じ♪』
「・・・・・」
『一旦出直して、職とスキル見直そうって話になったんだけど......って? どうした......えっ、もしかして泣いてる!?』
「ひっ......ぐすっ......うっ、うわーん、ひどい......ひどすぎるよ......くすん」
俺は、陽一の非道さに思わず号泣してしまった。
『えっ! な、な、なんで泣いてる!?』
俺は、涙ながら自分の身になって考えてみろ!
声を大にして叫んでいた。
どうやら俺のことをすでに、ただの従姉の女の子としか思っていなかった陽一も、やっと理解してくれたみたいだ。
――というかただの従姉の女の子ってあんまりな扱いじゃない?
『わ、悪い、まじごめん』
一応謝るがまるで誠意が感じられない、なんで俺なにも悪いことしてないのに謝らないとダメなの、みたいな。
まあ俺も考えてみたら陽一がインしてなかったら、何も気にせず同じようにして、後から陽一に泣きつかれてたやも知れない。
あっ 俺って自分の事しか考えられない、他人のことを思いやれないヒドイ性格なんだなと改めて思う。
その時、俺の脳裏に孝の爽やかだが、少しニヒルに笑う姿が唐突に浮かんだ。
こんな嫌な性格なのに......孝のやつよく飽きずに俺なんかの親友続けてくれてるよ。
孝、俺が本当の女の子になってしまったって知ったら、なんて言うだろう。
「たかし......」
囁くように、その名が自然と口から紡ぎ出されると、なんとも切ない気持ちになり胸に少しだけ痛みが走る。
ゲームのことを一時忘れて物思いに更けていたのか、陽一の呼び掛けを完全に無視していたことに気付く。
『おーい! 聞いてるか、でどうするよ?』
「あ、あぁ? ごめん、やっぱりアレ出すきゃないしょ」
『!!......まじか......アレの封印解くのか』
「う、うん」
『そうか......まあ、それもしゃあないか、総合的なスペックは、このアカ以上だしな......でギルドは、やっぱりここに入るん?』
「出来ればそうしたい......居心地いいし」
『判ったオーナーには、話つけとくよ、どうせみんな一回戻って色々準備しないとだし』
「ありがとう、DL終わり次第、すぐ溜まり場向かうから」
『じゃ後でなー、武器防具、料理とかは用意しとくよ』
昨日ほど陽一とシンクロすることがなくなった。
きっとこの十時間ほどゲーム三昧だった陽一と昨日まるまる一日を女の子として色々な経験をした俺とで、リアルの経験値とスキルに交わることのない別次元の時間軸が生じたせいかも知れない。
俺は電話を切ると、封印されし2ndアカウントのIDとPWを打ち込んだ。
さすがハイスペックPC、マンションの通信環境も整っているからか、ものの10分ほどでDLが完了した。
「さてっと......」
俺(陽一)がプレイしているこのMMOは、二キャラ同時に操作出来ることを売りとしていて、ひとつのアカウントで六キャラまで育成できる。そのため片や戦闘へ、その裏で採取や狩猟などの素材集めが出来たり、もちろん戦闘職同士であれば一緒にパーティーを組んで戦闘も出来るようになっている。
元々このセカンドアカは、生産職をメインに育成していたが、ある事情により二キャラだけ戦闘特化で育成された。
実はメインアカより多くの時間を費やしたんじゃなかろうか。
画面には、三人の男キャラ、三人の女キャラがマウスを合わせると色々なポーズを披露してくる。
俺は一人の女キャラを選択すると、複雑な気持ちと、これから繰り広げられるであろう、まだ見ぬ冒険に想いを昂らせマウスをクリックした。
この話のゲームは、2013年春にサービスが終了してしまった、愛して止まなかったMMORPGをモデルにしています。
ゲームの世界観は、そのままにシステムとかは、かなりのアレンジする予定です。
とりあえず次話も続きます。




