目覚め
「うっ」
「うう......んっ」
「はっ!?」
カーテン越しから淡い春の日射しを布団に受け、俺は目覚めた。
あんなに痛かった頭も、特にというかスッキリくっきりと気分爽快なんですけど、俺って実は酒に強かったんだね......。
――なわけないと反省してみる。
「うう......ん」
「!!」
布団の中、俺の背中側でなんだか声、しかも苦悶の呻き声が聞こえる。
まるで二日酔いで頭が割れそうですよとアピールしているかのようなくぐもった声。
『もしかして孝!?』
でもここは、確かに俺の部屋だよな。
見上げると見慣れた天井も見える。それに孝とは昨晩たしかにあの神社で別れたはずだ。
じゃあ誰なんだと怖々思いながら、声が聞こえた方に顔を向けた。
その瞬間、黒くて細長い何かが俺の顔にバサバサっと降りかかってくる。
「ふひゃ!?」
びっくりして布団をはね除けて立ち上がる。
それにあわせるように黒いものも左右に別れて垂れ下がった。
『うん? これってもしかして髪の毛?』
俺はよく女と間違えられるのが嫌で髪は、かなり短くしていたけど。
『ーー髪だよな?』
ちょっと引っ張ってみる。
「い、痛たたたっ!」
どうやらカツラとかじゃないみたいで自分の髪を引っ張った痛さについ声を上げてしまった。
それにしてもこの髪の毛って無駄に長くない?
どうやら俺のへそぐらいまであるみたいだ。
「へっ......へそ!?」
なんというか俺はそこで何も着てないことに気が付いた。
そしてへそが見えていることで、髪に隠れてはいるが実は非常に気になる存在が見え隠れしていることにも......。
ちらっと下を向いて、慌てて目線を在らぬ方向に向ける。
なんだろう。好きな娘が前屈みになった拍子に見るとはなしに見てしまった。そんな罪悪感。
いやいやいやいや、いくら女顔とはいえれっきとした男ですから!
「二日酔いで幻覚でも見てる! うんそうだ!」
妄想だから現実逃避じゃないんよ? うんうん!
「うう~ん」
現実逃避気味に納得しているおれの耳にまたもや呻き声が聞こえる。
忘れていたが、そういやこの部屋には誰とは知らない人がもう一人居たんだっけ?
俺がそちらに目を向けるのと声の主も時を同じくして、こちらに寝返りをしたため顔の確認が出来た。
「!!」
どうやら孝ではないようだ。
その顔は、よく知っているはずなのに、本当なら鏡とかじゃなければ、直接顔を正面から見ることなど一生できないはずなのに......。
「ってか! 俺だよなっ!!」
そこに苦悶の表情を浮かべて寝ているのは、どうみても俺にしか見えない。
「どうなってるんだよ」
怖々と近づいてしゃがみ込む。
正面、真上から見下ろそうとして顔を近付けたところ、突然そいつがカッと目を開いた。
そして......。
「ギィヤアアアア」
絶叫して、そのまま立ち上がったものだから、もろ俺の顔面に頭突きを喰らわすこととなった。
「がはっ!?」
目の前がチカチカする、涙と鼻の奥がツーンとなって口に何か錆び臭いものが流れ落ちてくる。
そういえば俺、凄く髪長くなって顔半分以上隠れていたかも知れない。
こいつの名誉のために言えば、同じ状況なら俺も間違いなく絶叫している。
だってホラー大嫌いですし......とはいえ頭突きはないわ。
そいつは、アワワッ 言いながら尻餅ついて布団の上をのけぞっていく。
「ちょっと、朝からなんなのよ」
叫び声が聞こえたのか、妹の菜々子と母さんが何事かとリビングから飛んできたらしく、二人の呼び掛けが部屋の外から聞こえてきた。
12/6 文章修正しました。