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草食系男子ですが~高校卒業と同時にTSして女子高生にジョブチェンジしました!  作者: Ciga-R
第一部 装備を揃えよう!

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19/99

一日の終わり

 

「ふぅー」


 俺は、今日一番の長く大きな溜め息をつくと、琥珀色に染まったお湯を両手にすくい、バシャバシャッと勢いよく顔に注ぐ。


 ※※※


 商業施設を出た俺たちは、その足でしぃちゃんの馴染みの寿司屋に向かい、とろけるような一時を過ごした。


 舞花母さんは、最後までアワビ尽くしか、極上トロセットか悩んでいたが、しぃちゃんに両方頼んで半分づつしよう!と言われて納得したのか、あろうことか時価と表示されている至高『雲丹』単品まで頼んでいた。


 そうあれは、たしか高校入学のお祝いに、家族で珍しく回らない寿司屋に行った時のことだった。


 父さんが時価と書かれたウニを頼もうと、おやじさんに声を掛けたまさにその瞬間、目線から何を頼むのか察したのか、カウンターの下で目にも止まらぬ速さで、母さんの蹴りが父さんの脛をクリティカルしていたっけ。


 可哀想に父さんはギョッギョギョとうめき声しか出せず、それを聞いたおやじさんに『へい!ギョクが二貫ね......えっ三貫?』って、結局玉子しか食べさせて貰えなかったと記憶している。


 それ以来、椎木家ではウニの存在は封印されていたのに.....ここで自ら封を破るとは、母強し!


 陽一も菜々子も苦笑いを浮かべている、思い出すことは一緒なのだろう。


 寿司屋を出た俺たちは、そのまましぃちゃんのマンションまで送ってもらった。


 菜々子が三十分に一回はラインするから!既読にならなかったら泣くからね!なんて言うから目の前でブロック設定していたら、これみよがしに嘘泣きしやがったので常識の範囲内でやり取りすることで話がついた。


 陽一は、ぽぉとした表情でずっーーと違う世界の住人と化している。


 神林さんとのやり取りを思い出し、今頃は別世界の七色に光輝く大空を飛び回っているに違いない。


 見上げるような高層マンションに車は着く。


 夜だと最上階が、どこにあるのか見えないのですけど......。


「す、すごい所に住んでるんだね」


「うん? この土地一応は私の所有物だから、正確には一ノ宮の持ち物なんだけどね」


 なんか凄いことを、さらりと言われた気がする。


「本当は、プール、露天ジャグジー付きの最上階に住んでいたの......だけど、一人で住むには広過ぎるから」


 なんだかとても寂しそうだ。


「――そこは知人に貸して、今は三十階のひと部屋を使っているわ、3LDKなんだけど......それでもやっぱり広いわね」


 俺は何も言えず、しぃちゃんの手をギュッと握った。


 その手を、これもぎゅっと握り返してくる。


「ふふっ でも今日からは陽菜乃と二人だから、寂しくないわ」


 俺たちは、ロビーに入りセキュリティ扉を解除すると、警備員さんと顔馴染みなのか、しぃちゃんは今日から娘と暮らすことになったので宜しくねと俺をそれは嬉しそうに紹介してくれた。


 しぃちゃんは挨拶を済ませエレベーターを呼ぶ。


「いざっ 私達の愛の棲みかに帰りますか」


 俺の肩を嬉しそうに抱き小さく囁く。


 リビングから出入り可能なバルコニーに続く一面の窓から、月明かりに照された夜の街が、静かに美しく広がっている。


 感知式なのか自動で点いた照明が、最適な明るさに調整されていく。


 しぃちゃんに続いて、リビングに入った俺はキャビネットの上に鎮座した、あるものを見て息を呑み込んだ。


 そこに座っていたのは、年季の入った、しかしよく手入れされたテディベア。


 微かな記憶が再生される。


 清流(せいりゅう)父さんが、何かの用事でドイツに行った際に買ってきてくれた思い出の品。


「くまちゃん......」


 ネーミングセンスは、この際おいといて、それは陽菜乃にとっては掛け替えの無い大事な想い入れが詰まった幼き日の相棒。


「くまちゃん......だ」


 俺は、ぬいぐるみを手に取ると茶色のクルクルした毛先を優しく撫で付けた。


 いつまでそうしていただろう。


 しぃちゃんは、そんな俺を優しく見守っていた。


「陽菜乃、今日はもう疲れているんじゃないの? 眠くなる前にお風呂に入っちゃいなさい」

 

 きたの!? きたか、ついに来てしまったのか、この時が......。


 俺は一応入らなくて済む言い訳を口にした。


「今日なんかダルいし、しんどいし、このまま寝ちゃダメ?」


 なるべく気だるげに、心の底から疲れきった気配を醸し出す。


「駄目」


 もちろん一蹴された。


「何言ってるのよ! 陽菜乃! あなたは女の子なんだからお風呂入らないなんて、あり得ない、本当あり得ない! 疲れに良く効くウッディ系のバスミルク入れるから、チャチャと入りなさい」


 目がこれでもないくらいに真剣だ、ここは逆らっちゃいけない、しかしこのまま、ただで負けるわけにもいかない。


「はい、はぁーい」


 ふてくされ気味に応えた。


 ギラリとしぃちゃんの目が、気のせいではなく確かに鈍く光ったかのように見えた。


 しかし、あくまでも静かな口調で諭す。


「陽菜乃、貴女もこの春から高校生なのよ、そんな年頃の娘が、はい、はいとか、はぁーいとか言ってて恥ずかしくないの?」


 しまった、しぃちゃんは教諭じゃないけど学校関係者、しかも組織の長だったんだ。


 俺は、うなだれて自分のおかしたミスを恥じた。


「ごめんなさい......」


 ポンポンと俺の頭を優しく叩き


「今度から気をつけて、じゃお湯張ってくるわ」


 リビングから出る前に、一度こちらを振り返る。


「次、言ったらどうなるか判ってるわよね」


「はい!」


 俺は元気よく切れのある大きな声で返事をした。


 お風呂に入る前に習慣化しとくのよ、今日はママがして上げるからと、ドレッサーの前に座り髪をブラッシングしてもらっている。


 そういえば今朝、菜々子もしてくれたなっと思い出す。


「今は無理に女言葉使わなくっていいわよ」


 それは助かる。


「女の子って色々大変だな、なにかするにも準備やら後処理がいっぱいあるし」


 俺は鏡の前に座り、本音で愚痴った。


「ふふっ でもそれが慣れると大変とか思わなくなるものよ、歯磨きするのだって子供の頃は、大層な事だったでしょ?」


 そうだ、いつの間にか当たり前に出来るようになったんだけ......。


「実際、俺に出来るかな」


「そうね、女の子の身だしなみは、一通りは勉強した方がいいわね、まあ陽菜乃そこらへんは大丈夫かなっ」


 何を根拠にそのような......勉強。 そ、そうだ。


「考えてみたら、俺って戸籍とか宮ノ坂に入るとかって大丈夫なの」


「大丈夫よ、戸籍は元々なにも変更していないし、小、中学校は一ノ宮の地元で卒業したじゃない? 宮ノ坂は正規に合格したわ」


 俺に負担を掛けないよう断言されて、俺は頷くことしか出来なかった。


「あっ でも一応入試問題は解いてもらうわよ、大学受かったんだから余裕よね」


 いや、それはどうだろう......。


「髪も長くて綺麗だけど、ちょっと長過ぎるから美容院行く?」


 それは是非とも行きたいです。この際だからバッサリいっちゃいましょう。


「でもあんまり短くしたら駄目よ、短いのも似合うと思うけど、やっぱりママは、陽菜乃には長い髪でいて欲しいかな」

 

 しぃちゃんは、俺の髪を器用に頭上でまとめる。


「さあ、遅くなるからお風呂入って来なさい、髪、体の順番に洗うのよ」

 

「ふぅー」


 湯船の縁に腕を乗せ、俺は顔を注いだ後、一度大きく息を吐き、ゆったりとお湯に浸かった。


 湯船は、二人が十分に足を伸ばせるぐらい広い。


 お湯には、心地よい香りのする入浴剤が入っているのか徐々にリラックスした気持ちになってくる。


 なんだか非常に長い一日だった。


 ちょっと眠くなってきたかも......。


「陽菜乃、ひなの起きてる? もしかして寝てしまっているの!?」


『・・・・・』


「しかたないわね、ママも入るわよ」


『・・・・・』


 曇りガラスを開け、一糸まとわぬしぃちゃんがどうやら入ってきたみたいだ。


 俺はいまだに、寝ぼけているのか状況が頭まで伝わってこない。


「やっぱり、寝ちゃてたのね、いい加減のぼせるから湯船から出てらしゃい」


「は......い」


 俺は寝ぼけながら返事をすると、よたよたと湯船から出る。


 しかし途中で力尽きぺたんと床に座り込んでしまった。


「ちょっと陽菜乃、椅子に座りなさい」


「はぃ......ふわーあ」


 大きな欠伸をしながらも、どうにか椅子に座る。


 しぃちゃんは、そんな幼子みたいな俺の態度に、思うものがあったのか、涙を目に浮かべていた。


「もう、この子は......ひなの髪洗ったの?」


「まだ......と思う」


「シャワー掛けるわよ」


 しぃちゃんがぬるめに設定したお湯を頭に掛けると、さすがに俺も意識が覚醒したのか状況が......。


 えっ!!!


 なにこれ......。


 俺は椅子に座っている、そしてこのお風呂にも、ご多分に漏れず目の前には右隅に、小さく湯煙防止仕様と書かれたプレートの鏡が、設置されているようだ。


 髪にお湯が掛かってる状態だから、すぐに目を閉じたが何か色んなものが見えた気がする。


 しぃちゃんは、手の平にシャンプーを取ると丁寧に泡立て、俺の髪を毛先から順番に泡が髪に馴染むよう、もみ洗いしていく。


 指で円を描くように耳の上あたりを軽く、時には力強くマッサージされていると、密着しているからか、俺の背中に得もいわれぬ柔らかな物体が、つきず離れず接触してくる。


 目を閉じているせいか余計に背中へと意識が集中してしまう。


『......羊が一匹......羊が二匹......』


 いや、違うだろう俺! 寝てどうする!


 洗い終わった髪を、シャンプーがきれいに落ちるまでこれも丁寧に洗い流す。


『はあ、やっと終わった』


「あっ 駄目よ陽菜乃、次はリンスするから、まだ目閉じといて本当は、トリートメントした方がいいのだけど」


 まだまだあるのか......とりあえずリンスにいっちゃて下さい。


「リンスする時は、頭皮に付かないよう髪だけに馴染むよう付けるのよ」


 しぃちゃんは、リンス剤を満べんなく髪の毛に浸透させていく。


 全体が終わると、時間を掛けて洗い流し、髪を頭上でまとめ結いし用意していた蒸しタオルで手早く包み込む。


「はい終了、あとは上がったらしっかりドライヤーするのよ」


 女の子って大変だ、男だったら五分も掛からないのに。


 そこで俺は、不用意に目を開けてしまい、目に飛び込んできたリアルにしばし言葉も出なくなる。


 鏡には頭にタオルを巻き、そのタオルの間からお湯に濡れた髪がおでこ、上気した顔、か弱い肩に張り付いている。


 薄く紅色に染まった柔弱の決して大きくないが、美しい形をした二つのふくらみの頂きには、綺麗に色づく桜色の蕾が湯煙の中で見え隠れしていた。


 椅子に座っているため、ヘソの下に淡い茂みがこちらもチラ見えしている。

 その後ろには、しぃちゃんが中途半端にしゃがんでいるため、妙に艶っぽいポーズで惜しげもなく、全てを鏡の中で曝している。


 あっ、きたかも鼻からなにかが噴出する......きちゃったああ!?


 辛うじて今回は耐えられたみたいだ。


「ひゃっあ!?」


 急にしぃちゃんが背中に抱きついてきた。


「陽菜乃可愛いい! 可愛い過ぎ!! 今日は特別にママが余すことなく洗ってあげるなり!」

 いつの間にやら両手を石鹸で泡立て、目をキラキラ、いなギラギラさせ俺の許可なく体中を揉みしだく。


『なにこの暴走、しかも裏コードまで逝ってしまっている!?』


 ――しぃちゃん、菜々子もだけどキャラクター変わり過ぎだろう。


 というか、ぐいぐい当たっちゃてるんですが、そんなに押さえつけられたら、ぐいぐい、ぐいぐい。


『色即是空・・・空即是空・・・色即・・・』 


「ああんっ!?」


 ダメだ、活動限界だ、せっかく鉄分補給したというのに......。


 俺は、本日四度目の鼻血を大量に鏡にぶちまけ、しくしく泣き崩れた。

 

 しぃちゃんは、俺の髪をドライヤーで乾かし


「もう、本当にご免なさい! 何故かなにかが乗り移ったかのように自制が効かなくなって......」


 うん、かなりのビースト入ってたね。

 

「お詫びに、ゲームする時間、常識の範囲内だったら陽菜乃に任せるわ」


「えっ! 本当に......ママありがとう!!」


 俺の常識、しぃちゃんが考えてるような常識とは桁違うよ?


 髪もよく乾いたのか


「さあ、もう遅いしそろそろ寝ようか」

「うん」


 俺用のベッドが、まだ届いていないため、しぃちゃんの横に潜り込んだ。


「電気消すわよ」


 明かりの消えたベッドの中で、どちらともなく手を握り合う。


 しぃちゃんは、今日一日で色々なことが有りすぎた俺以上に疲れきっていたのか。


「おやすみなさい、陽菜乃」


 囁やき、すぐにスヤスヤ心満ち足りた寝息をたて始めた。


 俺は、そんなしぃちゃんが愛しく

「おやすみなさい......ママ」


 俺の本当の母であるはずの彼女の髪を心から優しく撫でながら、静かに目を閉じる。

 

 こうして俺の長い一日は終わり、陽菜乃としての新たなる生活が始まろうとしていた。



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