装備を揃えよう~ 極 ~
「あっ そのクローゼット小さくて可愛いね」
「ちょっと新しい部屋には、このベッド大き過ぎ! すごく合うのに残念」
「見て! このドレッサー、アンティークで素敵! だがしかし値段高過ぎだよね!」
俺たちは、この春から新生活を始めるという神林さん達四人と家具エリアに来ていた。
ここは、この商業施設の中でも、かなりの面積を誇るエリアで数々の品を取り揃えている。
神林さん達も今日はここがメインで訪れたと、目を輝かせながら喋っていた。
しぃちゃんは、俺のものを値段も気にせず、次から次へと専属でついてくれている店員さんに、てきぱきと指示し購入していく。
ど......け......つっぃ!
――金銭感覚が普通の人の三倍以上は、しっかりしている舞花母さんとはびっくりするぐらいの違いだ。
しぃちゃんがひときわ光り輝くカードを取り出すと、まゆ美さん達は、それは羨望と憧憬をともなった眼差しでうっとりと見詰めていた。
そろそろ菜々子達と待ち合わせの時間だ。
菜々子のことだからちょっとでも遅れたら、なにを言ってくるか判ったもんじゃない。
神林さんと別れるのは非常に残念だけど。
「あの、ひなのちゃん......」
そんなことを考えていたら神林さんに呼びかけられた。
「ひなのちゃん、よかったら私と電話番号とラインアド交換してくれる?」
堪らないまでの、はにかみを見せながら聞いてきた。
「えええええっ!!」
今の言葉、俺に言ってくれちゃたのですか、俺ですか!?
実は、神林さんのラインアドはファンクラブのツテで既に陽一の携帯には登録されている......しかし発信される予定は未来永劫ない?
俺が発信されることのないラインアドを想像し、哀しみにくれているのを、教えることを戸惑ってると勘違いしたのか。
「あっ ごめんなさい......嫌だったら、別に無理にとは」
俺は神林さんの言葉を、首をぶんぶん振って途中でさえぎる。
「とんでもありません! こ、こ、光栄であります隊長!」
――隊長ってなんだよ、どこかのギャルゲーの幼なじみか!!
「ふふっ やっぱりひなのちゃん面白すぎるよ。私の妹となんか雰囲気がすごく似てて......二人が喋ってるの想像しただけで、萌えるかも」
神林さん、その笑顔で萌えるって......それだけでご飯三杯はいけますです。それにしても神林さんに妹居たのね。
「あっ そうだ! 実は妹もこの春から宮女に通うの!」
「!!」
あっ なんかすごく宮女に行きたくなって来た!
いや、是が非でも行きたい!!!
そして俺は重要なことを思い出した......スマホまだ持ってないし、新しい番号覚えてませんやん。
しくしく泣いている俺の代りに、しぃちゃんが事情を話してくれたので、神林さんはメモにラインアドと番号を書いてくれた。
「電話番号登録したいから後で掛けてね!」
きたの? きた? えっ来てしまった? 俺の電話デビューついにきたの!?
自慢じゃないが陽一だった時は、母さんとしぃちゃん以外に女の人に電話掛けたことないんだよね、菜々子なんて電話番号すら教えてくれなかったし......って自慢になってないじゃないこれ。
じゃー私も私もっと、まゆ美さん、佳苗さん、遥さんもメモに書いて俺に渡してくれた......泣いてもいいですか。
※※※
ヤバイ完全に遅刻だ、菜々子怒ってるだろうな。
俺としぃちゃんは、互いの手を取り合って出来るだけ早足で待ち合わせの場所に向かった。
「あっ! 陽菜乃おそいよ......ってなにそれめっさ可愛いやん!」
俺の姿を見つけた菜々子は、怒り顔から一転、興奮したのか怪しい関西弁を振り撒きつつ、俺達に笑顔で駆け寄って来た。
「うひょー! その服すごく似合ってる! チョーカーもアクセント効いてて、ブーツと良く合ってるよ! 陽菜乃ドット柄好きだったものね」
しぃちゃんが選んでくれた一式を、手放しで喜んでくれて俺は顔を真っ赤に染めてしまう。
「に、似合うかなっ......しぃ......マ、ママが選んでくれたから」
どもりながら照れくさそうに呟いた。
「うん! すごく似合う......でもママかっ......陽菜乃、ママとのデート楽しかった?」
菜々子はにやにや笑う。
「でもお姉ちゃんは、寂しかったな......寂しくて寂しく、うううぅぅ」
嘘泣きしやがった。
なにこのマエフリ、何故か俺の背中を悪寒が駆け上った。
見ると腕にもポツポツと鳥肌がたち始めている。
「寂しく哀れなお姉ちゃんを、もちろん慰めてくれるよね」
ダメだ、ダメなんだ、ここでウンって言うのは。
「――くれるよね」
本気こええぇー、目がしゃれなってねーよ。
「あ、はい」
ダメだ、負けちゃラメらあああー!? って俺、すでに負けてる?
「よし! じゃー行くよ!!」
菜々子は、俺の手をぎゅっと握る。
「陽菜乃、一緒に行こう!」
某アニメの名セリフとともに勢いよく駆け出した。
いや、お前そのアニメ見てないだろ......。
そんな俺達を、舞花母さん、しぃちゃんは慈しむような優しい微笑みで見送ってくれる。
あっ そういえば、神林さんとのこと自慢しようと思ったのに、陽一いなかったな。
『男・・・子・・・禁・・・制むやみに近づくことなかれ』
見える見えるぞ垂れ幕がっ!
しかし、よくよく見るとそこには
『ゆるかわ下着で彼氏もズッーCUNE!』
ゆるかわ......きっとキュンキュンくるんだね。
虚ろに周りを見渡す。
菜々子に連れて行かれたのは、お約束......何をもってお約束そくなのかは、この際おいといて日本語で言うところの『女性専用下着売場』......専用がついてることからも当社比三倍増しか何かなのだろう。
なにか先ほどから思考が停止しているのか、どうでもいいことをつらつらと考えている。
「ひ・・・な・・・の・・・陽菜乃! ちょっ......ちゃんと探してる!?」
あまりにぽぉーとしてたのか、菜々子がしびれを切らして聞いてきた。
うん、お兄ちゃんには刺激が強すぎるんだよ......判ってくれとは言わないけど、縞々でもいっぱいいっぱいなんだからさ。
「うわー、これ凄いことなってるよ!全身これ紐、っていうか拘束系!?」
うん、そうだね......凄いね。
「こっちは、ベビードールとガーターベルトが! あっバックで編み上げ出来るようになってる!」
すごい、すごい。
「うひょー、これなんて前からだと、そうでもないのに後ろ!Tバックでヘタしたら見えちゃう!?」
『・・・・・』
俺のあまりに反応が乏しいリアクションに
「これ、ドット柄で可愛いんじゃない? そのワンピとも似合いそう」
いたって普通のブラ・ショーツのセットを指差した。
あっこれは、普通に可愛いかも
「じゃ試着してみよう!」
「えっ!?」
妹よ、お兄ちゃんはもう限界を大幅に通り越してるのだよ。
俺は、本日三度目の鼻血を盛大に吹き出すと貧血になったのか、くたくたとその場に崩れ落ちた。




