装備を揃えよう~上級編~
コーディネートしてもらったドット柄のワンピース一式を着た俺は、あの後さらに何着か洋服や靴、小物類を購入してもらい今は、しぃちゃんと施設の外れにある家具エリアに向かっていた。
買った荷物は一括して宅配便で送ったため手ぶらになったこともあり、初めて履いた女性用ブーツも今のところ靴擦れせずにすんでいる。
そんなことより......ちょっと、いやかなりヤバい状況になってきたかも。
俺が青白い顔して、さっきから黙っていることに楽しそうに話し掛けていたしぃちゃんがハタッと気がつく。
どうしたの調子でも悪くなったの!?
それは慌てて確認してきた。
「・・・・・」
恥ずかしいけど、そろそろ限界が突破するのにカウントダウンがはじまっている。
こ、ここは言わねばなるまい!!
「ト、ト、トイレ」
俺はこの世の終わりが近付いていますと言わないばかりにウルウル泣きそうな目をしぃちゃんに向けた。
そうなのだ......女の子になってしまってから気恥ずかしく、朝から一度も行ってなかったのだ。
「――もしかしてずっと我慢してたの!?」
弱々しくコクンと頷く。
「なんで我慢するかな! もしかして朝からってことないわよね?」
再び小さく頷くことしか出来ない。
「ちょっと......早く行くわよ!」
俺の手を慌てて引き近くのトイレを目指す。
あっ......そんなに引っ張られると、慣れないブーツが引っ掛かっちゃうよ。
俺はこれでもかと内股になりながら、しぃちゃんに手を引かれ、どうにかトイレにたどり着いた。
急いでトイレの中に駆け込むと、二つある個室は使用中で、なおかつ二人の、陽一と同じ年頃の女の子が順番待ちをしている。
『お、お、終わった俺......逝きます』
「ゴメンなさい! この娘、もう限界らしくって先に使用させてもらっていいかしら」
ああっー! ママ、この時ほど貴女の娘であったことを感謝したことはありませんとも。
俺はしぃちゃんのスーツを、ぎゅっと掴み、背中に半分隠れたような格好で二人の女の子を半泣き状態で見つめた。
女の子たちはポカーンとした顔で俺たちを交互に見ると、徐々に顔を真っ赤にしていくが、何も言ってくれない......この子たちも我慢しているのか。
「いいかしら」
強くもう一度鬼気迫る勢いでしぃちゃんが言葉を発する。
やっと夢から覚めたような表情を浮かべ
「あ、はい、どうぞ、どうぞっ......しゅり! かなえ! ちょっと早く出てあげて!」
凄い勢いで個室に呼び掛けてくれる。
どうやら友達ち四人で来ていたみたいだ。
すぐに、なんなのといった感じで手前の扉が開くと、女の子が一人出てきた。
「――すみません」
俺は皆にペコペコ頭を下げ、出てきた女の子とすれ違って個室にフルスピードで飛び込んだ。
「ふぅー」
勢いよく出る音が恥ずかしく、最後まで水を流しながらしていると先程までは余裕がなかったため、今になって女の子として用足ししてることに改めて羞恥心が芽生えてきた。
『やっぱり全然違う』
なんだろうこのキレの無さ感、出尽くした感のなさは......。
最後は、きれいに拭くんだよな。
そう考えるとまた顔が赤くなってくるのが判ってしまう。
必要以上にペーパーを取って折り畳み、丁寧に拭き取る。
「ふぅー」
もう一度溜め息を吐き出していると、割り込ましてもらったことを思い出した。
『やばい! 早く出ないと』
パ、パンツ履かなきゃ
先程は急いで脱いだため、あまり意識していなかったが透けるような真っ白な太ももにクルリんと裏返る縞々を、捲り上がったワンピースの狭間から見た瞬間、俺は鼻の奥に違和感を覚え、少しして唇に鉄の味がする何かを感じとった。
鼻をトイレットペーパーで押さえながら扉を開けると、しぃちゃんと四人組のうち三人が待っていてくれていた。
もう一人は隣の個室に入っているはず......。
「ごめんなさい、割り込まして頂きありがとうございます」
丁寧に礼を言ったが、鼻を押さえているためか実際に発したのは
「ほめんなちゃいー、わりこまちていたたきありかとうごちゃいますぅ」
みたいな不明瞭な発音となってしまった。
ツボにはまったのか、それには待っていた四人も大爆笑となった。
『うっそこまで笑わなくっても』
俺は半泣きになりながら......というか陽菜乃なってから半分ぐらいはいつも涙目なんだけど、上を向きながらポロポロ涙を流してしまった。
「あっ、ごめんなさいね......笑っちゃたりして、鼻痛むからこちらに替えて」
涙と上を向いていたためハッキリと判らなかったが、一人の女の子が可愛いらしいハンカチを差し出してくれたのが目の隅に写った。
しぃちゃんも笑い過ぎたことに反省したのか
「あー! 綺麗なハンカチが汚れるから、陽菜乃のこれ使いなさい」
携帯用やわらかティッシュを取りだし俺に渡してくれる。
いったん適当に鼻に詰めて、もう一枚を適度な大きさに千切って丸め、鼻に詰めようとしたところ、大き過ぎて入らないことに気が付いた。
そうか陽一とは違うんだ、でもまあどうにか入りそうだ。
俺は鼻がかなり膨らんでしまったが、とりあえずは入ったことに安心して皆の方を向くと、目が点になっている人や驚愕の表情を浮かべている人の姿がみえる。
『あっもしかして、俺やってはいけないことをやってしまった人ですか......そうですか』
もちろん再び大爆笑されたのは言うまでもないことだった。
俺以外がひとしきり笑った後、二人に呼び掛けてくれていた女の子が個室から出てきて合流すると、一緒にトイレから出て、改めてお礼を言った。
「もう鼻大丈夫?」
あ、この声はさっきのハンカチの人
そういえばどんな人かはっきり見てなかったよな
振り向いた俺は
「えっ! 神林さん!?」
思わず驚きの声を上げてしまった。
そこに居たのは、俺がついこの間まで在籍していた桜坂高校の二年時の同級生......俺たちの憧れであり演劇部のスター神林 朱里が、柔らかな笑みを浮かべて立っていた。




