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装備を揃えよう~入門編~

   

 よく晴れた春の日差しの中、舞花母さんが運転する車が街を駆け抜けていく。


 行先は高井戸ベルパークふくごうしょうぎょうしせつ


 俺は後部座席で、しぃちゃん


 一ノ宮 静華 現3☆歳 バツイチもとい未亡人 一児......どうやら俺の母の横に座っている。


 見た目バリバリのキャリアウーマン、実際そうなんだけど、その余すことのない彫刻のように整った美貌は、冷厳なイメージを持たれてしまうのか、私ってモテたことないんだよねーとちょっと前までウソぶいていた。


 それは愛しそうに休むことなく俺の右手を握々しているけど。


 対して左手側には


「ほぇーやっぱ陽菜乃ちゃんってすごく色白いよね」


 俺の指を一本一本、顔の前に持ってきては、美味しいものを見る勢いで菜々子が吟味している。


 ――なんで吟味しているかは聞かない方がいいだろう。


 まさか何処かのイカれた博士のような趣味はないはずだ。


 しかし、こうして見ているとしぃちゃんと菜々子は、とても良く似ている。


 二人が親子ですと言えば大抵の人は何も疑うことなく信じ、親御さんにそれは良く似て美しく育って将来が楽しみですねといって褒め称えるだろう。


 そんなこと考えていたら


「ひゃいん!?」


 こ、こいつ、今さらりと俺の指と指の間舐めやがった!


「うん、ひなたの味がする♪」


 ヤ、ヤ、ヤバいマジで妹が変態道に堕ちて逝ってる?


「あっ!菜々子だけズルい!」


 しぃちゃんは、更に俺の方に密着して右ほほに熱々のキスをした。


「ふむ! とろけるような肌触り♪」


「くはっ」


 こいつら絶対あそんでいる!


「そういえば陽菜乃......」


 しぃちゃんは二人から揉みくちゃにされ息も絶え絶えの俺に、満面の笑みを浮かべて言い放つ。


「陽菜乃って、まだ私のことママって呼んでくれてないよね」


 さも当然のように言い切った!


『うん? ママ? 何それ美味しいの?』


 言われた意味が......。


「!!」


 な、なんちゅうハードル高いこと言うねん!


 息も絶え絶えのHP一桁の俺に、なおかつ最終秘奥技を被せてくるとは......こやつやりおる!


 躊躇している俺に更に追い討ちを掛けてくる。


「陽菜乃がママって言わない限り、今日は誰にも何も買って上げないかも」


 あっ......みんなの視線が凍てつき突き刺さってくる。


 特に舞花母さんの視線はバックミラー越しでも寒風吹きすさぶ。

 

 はい、はい、言えばいいんでしょ言えば


「......ま......ま」 OK?


「なに、なに? 何か言った? ねえねえ菜々子にはなにか聞こえた?」


 菜々子は、ぶんぶんと首を左右に激しく振る。


 そのままずっと首を振って酔えばいいのに。


 チラっと助手席を見やるとバックミラー越しに陽一が『ヤレ』と言わんばかりに首を上げアイコンタクしてきた。


『そ、そうだな俺たちの野望のためにも......これぐらいで負けちゃダメだ......行くのよ陽菜乃!』


「やぁとぉママに逢えて、ひなの感激! ママラブ大好きっ ママラブ大好きっ(はーと)」


 あっ逝った......俺逝きました。


 何か大切にとっていたものを無くしたそんな気がした。


 寒々とした空気を乗せ、車は一路、高井戸ベルパークへと向かう。


※※※



 この五人がパーティーを組んで出掛けることになったいきさつ。


 俺としぃちゃんがリビングに戻ると舞花母さんが待っていて、それは頼もしそうにニコッと笑う。


「静華やっと良い顔になったわね」


 そして親指を立てた。


 母さんのGJなんて初めて見たかも


 くつろいだ空気がリビングを満たす。


「「そういえば母さんは今日なんで休みだった?」」


 またしても陽一とハモった。


 しぃちゃんは、俺と陽一をキョロキョロ不思議そうにみている。


 そして菜々子は、クスクス笑うと


「スマホの調子が悪くてさー母さんがそれなら機種変してくれるって、で休暇も残っているから空いている今日買いに行こうってことになったのよ」


 ドヤっと勝ち誇ったように陽一を見る。


「「!!」」


 えっ? 聞いてませんけど......前に換えた時、俺と菜々子同時だったのに、あれ? もしかして今回、菜々子だけってこと?


 俺と陽一は、うろんな目を母さんに向けた。


 あっ母さん、陽一と目を合わせない......うん?


「あああっ!?」


 今回に限っては俺だけが声を上げた。


 これに気がついたのがたぶん俺だけだったからだろう。


「そういや俺、携帯とか......あれれ財布とか......着るものとか、ぶほっ! 住むとこ......えっ、もしかして何も持ってないってこと!?」


 ちょっとパニックってしまった。


「なんなら私が貸そうか? 利子はトイチか体で払ってくれたら・い・い・よ♪」


 菜々子がベタな対応しやがった。


 こいつには、何があろうと借りちゃダメだ。


 あっ、なんか涙目になってきた......陽菜乃の記憶をかなり思い出してからか、俺は妙に泣き虫になってしまったようだ。


 俺は半泣きでうろたえる。


「あーそんなことなら私が全て買って上げるから、だから泣くな我が娘!」


 よしよしと俺の頭を撫でると、しぃちゃんはおもむろにキラキラと光輝くカードを取り出した。


 ま、まぶしい何この神々しさ


「よし! 今日の気分は最高潮! みんなに好きなの好きなだけ買って上げるなり!」


 拍手喝采する俺たちの中、今日一番の拍手と満面の笑みを浮かべ、目をキラキラ輝かせている人がいる。


「キャアア! さすが我が妹 よっ! 男前ならぬイケメン女史! 最高!」


 黄色声を上げて、愛想を振りまく舞花母さん......貴女、たしか彼女の姉だったよね?


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