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プロローグ

  

 もう春とはいえ、まだ肌寒い深夜の境内で、俺と親友の上原(うえはら) (たかし)は、これから咲き誇るであろう桜木の根元に、唸り声をあげてひっくり返った。


 別に伊達や酔狂でこんなことしてるわけじゃないのだけど......。


 長く苦しい受験勉強も終わり、希望の大学にどうにか合格して春休みを満喫していた俺は、今日は飲み明かすぞーと孝に誘われ、初めて飲んだわりに口当たりも良く痛飲しまくり、今割れるような頭痛に悩まされている。


 ――未成年がアルコールなんて摂ってはいけません......。


 横を見ると孝も、飲むのは慣れているといった割りに酔ったのか、整った顔をなにかに耐えるかのように歪めて、桜の木の隙間から見え隠れする夜空を見上げていた。


 孝......その爽やかな目元、端正な口元に、染めてもいないのにサラサラの髪の毛は涼やかな茶色、ハーフといっても通じる日本人離れした佇まい、身長も165cmしかない俺より10cm以上は高いんじゃないだろうか。


 こんな絵に描いたようなイケメンが俺の親友なんてね。


 もちろん俺と違って孝はモテる、でも不思議と特定の彼女を作らない、俺も在学中は三回ほど女の子に仲介頼まれたけど、そのことごとくを、こいつは大した理由もなく断っていた。

 そんなこともあり、一時期は俺と怪しい関係にあるんじゃないって根も葉もない噂が立ったこともあったけ。


「おぃ! こんなところで女の子が、そんな無防備な格好で寝てたら襲われるぞっ!」


 孝の切迫した声が遠くから聞こえた気がする。

 

 えっ......女の子なんて、どこにいるのだろう。


 そういえば頭の何処かで女の子の囁くような声が聞こえる。

 なにを言ってるんだろう、ラ、ス......小さくてよく聞き取れない。


 俺は瞬間的に寝てしまっていたようだ。

 目を開けると、孝がにやにや笑いながら俺を見ている。


 顔が真っ赤になったのが判ったけど仕方がない。


「孝! 俺に向かって女の子って禁句だと判ってるん!? それともなにかな、喧嘩売ってるのかな」

 出来る限りの怒りを表し怒鳴るが、悲しいかな、虚勢を張ってるとしか思われない迫力の無さ。


「ふっ・・・やっぱり陽一は可愛いわ」

 お、お前、真顔でそんなこと言うなよ。

 だから、変な噂が立つんだろう。


 孝が俺のことを女の子扱いするのは、別に今に始まったことじゃない。


 小学校から腐れ縁だった俺達は、よくつるんでイタズラやら他校の子たちと、喧嘩なんかに明け暮れていた。


 そんな普通にやんちゃだった男の子の俺は、ある時急に一ヵ月ほど小学校を休むと、それを境に大人しいあまり騒がない子どもに変じたらしい。


 孝は当時、陽一が宇宙人に連れ去られて改造されたって騒いでいたっけ。


 俺には、その時の記憶が曖昧で今一つ元気に暴れ回っていた事が、遠い別の誰かの記憶のように実感がない。


 そして中学校に入ると、孝は見違えるように背が伸び、男らしい顔つきに変わっていった。


 対する俺は、顔の造りが良いのも原因だが、喉仏の薄い童顔、背の低い中性的な容姿で、もろ女顔。


 体育の時間に半ズボン履いてると、足に毛が生えていないことを特に気にしている俺に向かい。


「よいね! 本当に椎木(しぎ)くんって足、肌ツルツルで細くて綺麗な形しているよね! なかなか女の子でもいないよ」


 なんて女子に褒められる? ことも多々あったけ。


 そんなこともあり、孝は何かあると俺をすぐに女子扱いする。


「うん? なんだ、お姫様は王子さまのキスでやっぱり目覚めたかったのか?」


 ニヤリと笑い、顔を近づけ唇を寄せてきた。


「な、な・・・ふざけんな!」


 孝は、クスクスそれは楽しそうに笑う。


「陽一見てると、本当飽きないわ、真剣面白いし、またそこが楽しい」


 俺は、ガバッと起き上がる。


「ふざけんな! もうお前とは二度と口聞かないからな!」


 なんとも子どもぽぃ捨て台詞を吐くと、孝に向かって中指を立てて、背中を向け全力疾走で鳥居を抜けた。


「――お大事に、陽一また電話するから」


 孝の声が風に乗り聞こえたような気がする。


 ※※※


 家にたどりついた俺は、酔った勢いで走ったことも影響して、かなり意識が朦朧としていた。


「成人するまで二度と酒なんか飲むかよ!」


 なんて思っても後の祭りなんですけどね。


 意識が混濁した半分起きているのか、寝ているのか夢うつつな状態、色々な映像がとりとめもなく流れていく。


 女の子が俺を見ている、次の瞬間には幼い感じの男の子を俺が見ている。


 なんだろうこの締めつけられる心情は、たしかに何処かで見たような気がするのに......。


 ふと記憶が鮮やかに甦る。

 たぶん小さな頃の俺だ。


 俺が俺を見ている・・・なにかとても切ない気持ちがする。


 ......ワ......ラ......ス


 不思議に胸を打つ旋律が聴こえる。


 突然それは起こった。


 ドックン.....ドックン


 心臓をいきなり鷲掴みされたかのような衝撃


 ドックン.....ドックン......ドン!!


「がはっ!!」


 俺が今まで感じたことのない凄まじいまでの衝撃が心臓を直撃する。


 今日何回目だろうか......子供扱いされようが、やっぱりお酒じゃなくジュースでも飲んでおけばよかったと後悔して意識を手放した。


 ※※※


 夢うつつに妙に醒めた達観とした意識。


 どうやら俺は今までの人生のダイジェスト版を見るというか体感しているようだ。


 俺の両親は共働きで、小さい頃はよく母の年の離れた妹、静華叔母さんが俺とふたつ違いの妹、菜々子の面倒を見てくれていた。


 小さな頃からよく女顔と言われていたし、御多分にもれず幼稚園の頃、最初に告白されたのも男の子からだった。


 そういえば、それの反発で小学校に入ると元気に人一倍、暴れ回っていたんだっけ。


 ――中学生の頃、私服で電車乗ったら痴漢にもあったよな。


 夢の中のことなのか、めまぐるしく次々と場面が変わっていく。


 高二の頃そこそこ仲の良かった女の子に

「椎木君って、俺て一人称似合わないよね♪」

「!」

「どちらかと言うとボクッ(はーと)だよね♪」

 なんて冗談では決してなく真顔で言われたこともあったけ。


 確か草食系男子の中でも『女友達扱い彼氏にはまずしたくないランキング』に常に上位ノミネートしてたよな。


 てかっ、どんなランキングじゃい!


 そんな思い出が映画のフィルムのように次から次へと流れていった。


『なんかこれって走馬灯ですかい!?』


 えっ!マジですか。


 俺もしかしてし、ここで死んじゃうの!?

 もしかして急性アルコール中毒ってやつなのか。


 父さん、母さん、菜々子......孝、ごめん。


 急激に意識が覚醒し、次の瞬間、身も心も引き裂くような衝撃が襲う。


 文字通り俺が二人になったかのような痛みが全身を走り抜ける。


 ......ワ......ラ......ス


 薄れゆく中で不思議な旋律を耳にする。


 そして俺は完全に意識を失った。


 

初投稿となります。

稚拙な内容をつらつら書いていきますが、宜しくお願い致します。


 7/17大幅に内容修正しました~


 12月に文章表現など修正しました。

 (大まかな内容は変わっていません)

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