3話
あー、私とした事が…名前を言うのを忘れてました。
私の名前は、早乙女さくらです。
職場では、早乙女の音を捩って「トンちゃん」(これは影で)とか、地味桜と呼ばれています。
それって…。
……はい。
そうです。
私の制服のサイズと暗い雰囲気が物語ってるんだと思います。コレには私も文句は言えません。だって私の制服だけ、特別サイズの16号。普段着も全て3Lだし
制服を作る時に、13号までしかないから注文しなきゃならないって事で、特別費用として3千円給料から引かれちゃいました。
薄給の時期に3千円は痛い。しかも1着につきって、そりゃあないでしょう!って文句を言えば、痩せろと言われる始末。
別に私だって太りたくて太ってんじゃないわよ。
多分血筋だと思う。
誰だって好きでヒップが3桁になんてなりたくないよ。
血筋…。
そう、履歴書には書いてないけど、私には…私だけじゃないけど私達4姉妹には1/4だけだけど外国人の血が入っている。えへん。
あ、でも日本国籍もあるから、決して偽造文書じゃないよ。
痩せなきゃいけないんだろうけど、水だけ呑んでても太るんだよね…。
私も自分の身体のことを心配して医者にもかかった。医者が言うにはストレスが原因だって。
だってさー医者の指示通りにローカロリーの食事をここ何年も摂っているけど、体重計の数字はずっと同じ。本気で壊れているんじゃないの?っておもっちゃったわ。それに痩せるのは財布の中身ばっかり。だってさーオーガニックの物って本当に高いのよ。
え? 自分で育てれば良いじゃん?
あーのーねー。朝早くから仕事に行って、帰って来るのが運がよくてシンデレラの時間の私に植物なんて育てられない。
実家だったら大丈夫なんだろうけど…。今はまだ帰りたくない。
高校を卒業して、大学生になったと同時に私は家を出て1人暮らしを始めた。
今日も疲れた…。真っ暗な自分の1LDKの城に帰って来るとほっとする。
医者にも言われたけど、私のダイエットの妨げはストレスに寄る過食症だと言われた。とにかくそのストレスの原因を探りなさいって医者から言われてるけどね。
私のストレスの原因が何かって言うのは、すでに分ってる。
今のストレスの原因は絶対坂本真弓だ。
あの人のおかげで、昼飯もおちおち食べれないくらいの仕事が回って来るようになった。
おかげで食欲減退よ。
家に帰っても、フラフラだから食べるよりも寝たい。
私の家族は両親、私、そして三人の妹がいる。一番下はまだ高校生。
父は会社経営者でフランスに本社をおいている。父曰く、日本に愛しい人を置いて行けるわけないと言うことで父は母を伴って行った。
初めは家族で移るぞ〜なんて言われたけど、こっちは働いているんだから無理だし。それに私は気ままな1人暮らしなんだから、関係ないでしょって言っちゃったんだよね。それ以来ずーっと私は1人暮らし。実家には近寄りもしない。
別に姉妹の仲が悪いわけじゃないの。ただ私が目に入れたくないものが彼処にはたくさんあるから。それがちょっと苦しいだけ。だから家を出たんだ。
運がない時って言うのは本当についてない。
さくらにとって敵とも言える女子社員が総務から第二企画部に臨時で応援に来ることになった。
これが仲良しの胡桃沢 寧々だったら嬉しかったのに。そうは問屋は卸さなかった。
掲示板に貼られている辞令書を見て再度桜はため息をついた。
総務課 山田孝子を臨時応援社員として第二企画部に移動。
な ん で ?
神様…。あなたは早乙女さくらのことがキライですか?
そりゃあ、去年の初詣の時は5円しか賽銭に入れなかったよ。でも今年は奮発して100円も入れたんだからね。なのに…何でよ?
でなけりゃなんで、この彼女がここに来るわけ?
はぁぁぁぁぁぁ〜。
100年分のため息を吐いたさくらの背中コロコロと鈴を転がすような声が聞こえて来た。
「あーら。名前だけ可愛い早乙女さくらさんじゃないかしら?」
ピキッ!名前だけは余計だ。こいつ…私に喧嘩売ってるわけ? こっちだって負けてらんない。
「そう言う山田さんは、みんなにすぐに名前を憶えて貰えて良いですね。宴会の時とかも名字で呼ばれまくってますからね」
さくらの言葉に引き攣る女ー山田孝子。彼女とさくらは同期で総務課でも女子社員を束ねる人だったが、少しでも彼女の機嫌を損ねれば辞めたいと言わせるまでチクチクと重箱の隅を突くようにその人を攻撃する。
上司から見れば、それがまさかいじめだなんて見えないらしく、いつも彼女は上司から「山田女史は本当に面倒見がよくって助かるよ」なーんて言われている。
違うんです!!って何度も寧々と二人で声を大にしたかったけど、出来なかった。
その彼女が第二企画部にやって来る?
もし、これで坂本真弓と彼女がタッグでも組まれたら…。そう考えるだけでも恐ろしい。まあ、同族嫌悪って言葉もあるし、大丈夫かもって少しは楽観視してたんだけどね…。
まさか、こんなことになるなんて……。
後少しでお昼と言う時間に息を切らせて第二企画部にコピーを頼みに来た男がいた。コイツは確か……営業部の川崎 晋也。甘いマスクってみんな言ってるけど、ただ目がたれ目で口がアヒル口っていうだけのこと。
それのどこが甘いマスクなんだ? 口もフットワークも軽くそしてお調子者。そんなんで営業がよく勤まるな…いや、多分そんなんだから営業が勤まるんだろう。
でも、第二企画部を営業部の腰巾着と勘違いしている所は、ダメだね。大体、新倉さんが色んな頼み事を第二企画部に持って来るから、他の人まで右に倣えって感じで、持って来るんじゃん!
やっぱり元凶は新倉 浩之だったか!
「山田さーん。これとこれ、大至急コピーよろしく」
「はい。川崎さん」
「いいねー山田さんって綺麗だし。返事もいいし。やっぱり第二企画部の花だね」
「まあ、お上手なんだから川崎さんって」
なーんて笑顔で言ってるけど、営業部の川崎さんが第二企画部を出て行ってすぐにそのコピーしなきゃなんない書類をドン!って桜のデスクに置いて来たよ。
「早乙女さん、そろそろ痩せた方がいいんじゃない? あなたのその制服のサイズって特注だって知ってるわよね? じゃ、お昼を潰してこれをやって頂戴。坂本さん♪ 一緒にお昼どうですか?」
ムムムムム……。
ここで怒ったら負けなのか?
こんな時に限って二人の陰険ないじめのストッパーになる部長も課長もいない。
ふふんって二人で笑いながら社食に行ったよ。
信じらんない。
コピーって…。これって……。400部?
なんかのコンサートなんだ。ふーん…場所はキ◯◯ホールなんだ。凄いね〜。
コピーしながら、内容を見ていたさくらは背中に冷や汗が流れるのを感じた。
そこに書いてあったのは、もう見たくないと思っていた人の名前だった。
ー城島 玲。
私から全てを奪って消えた男。