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1話 加筆 (5/4)

あー!!! 私とした事が…。

名前を言うのを忘れてましたです。

こうなったら、スライディング土下座しかないですよね。

そうすると膝をガン!ってモロに当てちゃうんでもの凄く痛いんですよ。膝だけで済めば良いけど、もし脛に当たったらって考えると冷や汗物です。

私の名前は、早乙女 桜。年は……聞かないで下さい。そうですよ、じょ、女性に年を聞くなんてだめですよ。


短大卒業後、紆余曲折を超えこの就職氷河期の最中に何とか、(本当に何とかだよ)無事に就職出来ました。ただ、本当にこの会社って大丈夫なんでしょうか。

いえね…私が元々採用通知をもらった会社は、入社一日目で銀行不渡り…つまり、倒産したんです。

学生課とハローワークに泣きついて紹介してもらった先の会社は、入社前日にマルコーに入られ、入社どころの騒ぎじゃなくなりました。

学生課の方からもこの時点で、すでに『またかよお前〜。来るなよな』みたいな目で見られちゃいましたね。

それでハローワークに通い詰めること一年。

頑張ったよ私。

資格も取れるだけ取ってやるって、意気込んでたし。死ぬ気で勉強もした。

その結果、資格の欄がなんとか埋まりました。書けないくらいの量の資格を取れるだけ取ったので、そうなったのだが…。

そして八年まえの四月。ようやく、本当にようやくって感じで、就職出来ました!

きゃー!!

就職出来た時は隣近所交えて、もう物凄いどんちゃん騒ぎ。何かを切っ掛けにしてみんなお酒が呑みたかったんだろうけどね。

みんなに喜んでもらって、恥ずかしかったなー


職場では、みんな(影で)からトンちゃんとか、プヨちゃんと呼ばれています。

それって…。

はい。

そうです。

このぷっくりした手。

顎?!どこだよそれ?!

首?お前にあるのか?そんなもの?!って言われるくらい太ってます。


ご想像の通り、私の制服のサイズが物語っています。

なんと私の制服だけ、特別サイズだからです。

15号。

でーんとしたこのヒップが三桁。歩く度に床が揺れると言われてます…。


そんな私にも可愛い時代があった。



私が産声を上げたのは、湿気?なにそれって言うくらいに湿気とは無縁のフランスの片田舎。

何でも、ここは私の両親が出会った場所なんだって。


わーなんてロマンチック。(棒読みなのは許してね)


クラリネット奏者の父であるセシルジーク=ルフィンスキーと音楽学院の生徒だった母、早乙女 藤子の間に産まれた私は、幼い頃から音楽に囲まれすくすく育った。


『子供は音楽の良し悪しが分からないだろう』なんて不届きなことを言う大人もいたが、幸いなことに私の両親は進んで私に様々な音楽を聴かせるチャンスと場をくれた。


最大限に幼い私に素晴らしい音楽の恵を与えるチャンスをくれたのは、私の才能を見いだしてくれた祖母だろう。


ロシア系フランス人の祖母ソニア=ルフィンスキーはオペラ歌手で、若い頃はバイオリンを弾いていたらしい。


『ソニア。どうしてヴァイオリニストにならなかったの?』


子供は時として正直すぎる。

私もそんな子供だった。


ソニアはそんな私の不躾な質問にも笑って答えてくれる不思議な人。


『私には才能がなかったから…』なんて言ってたけど、ソニアは私にも音楽の世界を教えてくれた。

才能がないなんてない。だって、ソニアは本当に教え方が上手だったもの。

ヴァイオリニストとしての運はなくても、彼女は講師としては優秀だった。


『まあ、本当に音がキラキラしてるわね。素敵よ』


ソニアはいつも褒めてくれた。子供って褒められると得意になる。だからもっと褒めて欲しいから頑張る。

もちろん私もそうだった。

そんなソニアに教えてもらっていた私。私がすぐにバイオリンを好きになるのは自然の流れ。魚が教えてもらってもないのに泳げるのと一緒。

まあ、私は魚じゃないけどね。




 私が初めて音楽の素晴らしさに触れたのは、ソニアに連れて行ってもらったルッソ=マックーニーのコンサートだった。

真っ暗になった劇場でこれから何が始まるんだろうかとワクワクしていたことを今でもはっきり憶えてる。

並べられている沢山の椅子に座り始めるペンギンの軍勢。みんなタキシードに蝶ネクタイを嵌めてるから、つい幼い頃の私はオーケストラの人達を見ては、ペンギンさんみたいだと言っては、ソニアからは、そのペンギン達の前で指揮棒を振る人は何に見えるのかしらねなんて笑われてた。

最初、指揮棒とか言われてなんのこっちゃと思ってたけど、偉そうな白髪の男性が合図をするとペンギン達がそれぞれ楽器を構える。

それを見てると、シンデレラに出て来る魔法使いが歌いながら振っている魔法の杖みたいに見えて来た。


「ソニア。あの人は、良い魔法使いなのね」


「あら?どうしてそう思うの?」


「だって、ここがとってもドキドキして、ワクワクして笑顔になって来るの」


胸に手を当ててそう私が言えばソニアは私を見ると微笑んでた。


「そうね彼は本当に魔法使いみたいだわね」そう呟いた。

「?」

「なんでもないのよ」


彼が醸し出す音楽はどんな色に染まるんだろう。

高鳴る胸を押さえると思わず身を乗り出して、ルッソの一振りに見入った。

心が鷲掴みにされる。

心臓がサンクチュアリの鐘の音のように踊りだす。

彼の指揮するカルメン幻想曲を聴いて、子供ながらも音楽の色に圧倒されたのは今でも昨日のように憶えている。

全身が総毛立つと言うのはこう言うことかと、幼心にもそう実感した。


『…音が妖精みたいに踊ってる。』


思わずそう呟いた私にソニアも『妖精…そうね。ルッソはね、音楽の魔法使いとか、妖精王とかよばれているのよ』そう頷いてた。


今まで観客に音の魔法を使っていた魔法使いが客席に向かって、ウィンクを投げて来て、子供心にもドキッとしたことは今でも憶えてる。


音楽の魔法使い…。

すごい。

そんな人の音楽をまた聞きたい…。


幼い私のこころの中にはルッソの音楽で満ちあふれてた。



誤字の訂正と加筆をしました。

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