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ただ生きるという苦楽。

作者: 藤田無徒

考えてみたことを文字列にしてみたのです。

つまらないことばかりを積み重ねて、指先すらまともに動かなくなっていくのが、つまりは『生きる』という意思表示なのだ、と知った頃。僕が見たのは、奇麗な花だった。とても美しい花だったけど、名前は知らない。調べもしなかった。ただ、記憶の中に咲いている一輪の花。空想の花。胡蝶が羽を休めたのかもしれない、花。


生きていくと、美しいと思う気力すらも奪われていくような気になる。僕は性格的に世俗のあれこれと正面からぶつかったりするのは苦手なのだけど、それらは生活を続けるにはどうしても必要なものらしいので、今日も世間と闘って、くたくたになって家路に着く。暗澹の帰路だ。まあ行きはもっと深い闇を歩んでいるようなものなので、幾許かは気楽なのが救いである。

しかしただ、ただ単に、こうして今を生きていくという苦楽。それは往路の苦と、復路の楽に集約するのではないだろうか。ぼろぼろの頭で、そんな風に、僕は想うようになった。


朝、薄ぼんやりとした光に目覚め、身だしなみを整え、朝日という暗黒を往き。

夜、雲に隠れて、形もあやふやになった月の下、重い身体を引き摺って、戻る。


そんな繰り返しを、何年も何年も積み上げて、『今の自分』を造り上げてきたような気がしてならないのだ。もちろんその中で、楽しく感じた瞬間、よかったと安堵した時間、そういった前向きな感情を抱いた時だってあった筈である。勘違いされがちだが、実の僕は暢気な性分なので、どんなに苦しくたって、それをその刹那だけ忘れたりもする。しかしどうしても、暗い気持ちは無意識の心の奥底に沈殿し続けていくもので。明るく振舞ってにこやかに接しながら、鬱憤や不条理やどうしようもない怒りを、狭い部屋に溜め込み続けるのているのだ。これじゃあどうやったって、まともでいるのは難しい。


だけど、まともじゃない人間はつまはじきにされてしまうから、僕は必死に普通を取り繕う。当たり前を当たり前に受け止められるように努力をする。閉じ込めた憂鬱を、せめて人前には出さない為に、無学な頭を働かせる。これは、途方もない、ひとつの闘争なのだと思ってみたりもする。自分でも、己がどれほど馬鹿なのかくらい、ちゃんと分かっている。それでも、これくらいしか僕の喪失を埋めてくれるものがないのは確かなのだ。


どこまで進み続けて、そこからどこまで戻り続ければいいのか分かれば、きっともうちょっとだけ楽になるのだろう。突き詰めて言えば、どう生まれてどう死ぬか。それこそが僕の悩みの根源なのである。僕の全てを壊していく原因なのである。僕は、こうして生まれたけれど、どういう道筋を辿って、死に向かえばいいのか。更に言えば、どこまでは生きていくために生きて、どこからは死ぬために生きればいいのか、が分からないのだ。だから、こうして『今』が亡羊と在る。不安定な今に、生きている。だからこそ、


「その中で、今日みたいにどうしても死にたい日には、あの花を想い出してみるんだ」


いつの日に見たのかも忘れてしまった、美しき花。その色合いを、手触りを、香りを、懸命に頭の中で組み上げ直していくのだ。僕がまだ、美しいものを美しいと思えるこころに住んでいた瞬間を取り戻しにいくのだ。


花が枯れて、僕は生きるにつれて美しさを感じる心すら失ってしまって、そうして僕の中にある何もかも、暗い気持ち、明るい気持ち、感情感性が、おしなべて平等なものになってしまったのなら、そのときのもしもの今日にこそ、僕は死のう。ひたすら笑顔を取り繕って、『グッド・バイ』と叫んで見せよう。せめて決別くらいは潔く、よきものでありたい。


「いつか、花を見た日があった。僕は美しいと想った」


目の前には、ただ、生きるという苦楽。


花を見に行く道の苦と、花を見て心を洗われた楽。



どうしようもないほどの長く永く続く道の真ん中から、僕が逃れることは出来ない。出来ないが故に、僕は今日も、あの花がまた芽吹くのを待つ。

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