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冒険者としての一歩

「古代人って……なに?」


 海はエジェリーの説明を簡潔に聴いた。

 それはチュートリアルには含まれていない情報だ。

 それはつまり、このチュートリアルという物が数千年も前の時代を基準にした技術なのだという事を意味している。


「古代人って言ったら古代人よ……私達、普通の人間よりも強くて、何でもできる今は居ない人間の事! お伽噺に出てくる1人でドラゴンを倒せるくらいの人種! ああもうッ!!

 大和の国の魔法使い(ウィザード)だと思ってたら、昔話に出てくるような古代人だったなんて、とんでもない奴を拾って来ちゃったわ……」


 エジェリーは事の重大さを知らない海を置き去りに、苛立った言葉をブツブツを呟いた。


 良くも悪くも古代人が居たからこそ、各国は各国の特色を色濃く残しながらも並々ならない繁栄して同時に戦争が起こった。

 そして、古代人が一斉に消えた事で急激な繁栄が無くなった代わりに戦争も無くなった。

 だが此処に古代人が居る。

 古代人とは圧倒的な力があるからこそ、各国の王には従えられなかった。

 もちろん低レベルの古代人ならば従える事は可能ではあったのだが、強制すれば高レベルの古代人数人が王国の大隊を叩き潰したなどということもあったという記述もある。

 それからギブアンドテイク……つまりは金銭や希少なアイテムなどを対価に戦ってもらっていたようだ。

 たった一人……されど普通の人間とは意味も価値も違う古代人とは、繁栄と闘争を個人でも巻き起こすというような意味を持つという事だ。


 これは間違いなく国が動く問題よ……最悪、私も巻き込まれる……。

 早朝とはいえ、転移門ゲートの起動を他人に見られたし、完全に灯の消えていた水晶核コア・クリスタルの灯が消えない以上は隠しようもなければ避けられようもないわ。


 エジェリーは最下層の爵位持ち――――いわゆる成り上がりではあったが、ある程度の学はある方だ。

 だからこそ解る。

 監視されるか、疎まれるか、国に抱え込まれる程度なら可愛いと言えるが、人間とは欲深い。

 しかも過去の歴史書に名を残す、古代人の『度を越した力』や『繁栄の技術』は脚色ではないか?と疑いたくなるほどのものだ。

 故に現代の者達は一笑に伏して力で抑えつけに来る可能性もある。

 そう言った輩は、目の前の自分の価値と状況を呑み込めていない海を捕え、突然消えた古代人がどこに行ったかという問いをかける。

 それも最悪、死んだ方がマシという拷問をされるかも知れない。

 そこで、ふとエジェリーは気が付く。


「アンタ……私に誘拐されたとか、記憶喪失とか言ってたけど、まさか……」


 確信はない。

 だがレベルの低いという理由で古代人が誘拐されるのをむざむざ許すのだろうか?

 海が、海の家族が、恐らく古代人であるであろう者達がそのような間抜けな事になる前に襲撃者を八つ裂きにする可能性は本当になかったのだろうか?

 それに魔法を扱えるのに記憶喪失というのもまた可笑しい。

 忘れたというのなら、それこそ挙動不審になるか、錯乱でもするはずだ。

 海の方を見れば別段おかしなところはない。

 いや、むしろ普通過ぎることが不自然だ。

 今までの海を見ていて感じていた違和感は、あまりにも落ち付き過ぎていたという事に尽きる。


「あ、ごめん。 それ嘘」


 その不信感をすぐに問い詰めようとしたことを感じたのか、海はあっけらかんと自らの嘘をバラしてしまう。

 すぐに、エジェリーに向けて取ってつけたように『ごめん』と言葉を付け足すがもう遅い。


「ああもうッ!! なんて日よッ!!」


 早朝の街の路地裏にエジェリーの声にならない声が響いた。

 そして、狙われ続けるなんてまっぴらごめんだとばかりに頭を抱えるエジェリー。


 どうすればいいの?

 一緒に居られたのを見られた以上、別れても私狙われるわよね?


 国外逃亡?

 灯台下暗し?

 それともいっそ隠遁するか?


 これからの取るべき展望を想像するも、どれを選んでも次にはもう絶望的な状況ばかりが次々に浮かんでは消えていく。


「あー……それなんだけど、古代人って冒険者になれるよね? たしか……」


「え?」


 唐突に、海は頭を抱えて、う~う~唸っていたエジェリーに問いかける。

 問われたエジェリーは質問の意図が掴めず、つい呆けた声を出してしまう。


「冒険者ギルドで冒険者になれば、国でもそう簡単には手出しできないんじゃないかな~と思うんだけど……」


 海はエジェリーが海の素性やこれからの問題を考えている内に自分で身の振り方というものを考えていた。

 どうやら古代人らしい自分は、“とんでもない存在”であるらしい。

 どの程度の“とんでもない”かは不明だが、やりようによっては国の最高権力者にギブアンドテイクでしか交渉の余地がない程度には。

 しかし、それは数千年前までの事で、それはつまりこの時代の権力者達には通じない可能性が高い。

 数千年以上という単位は過去の出来事に対して十二分に背ひれ尾ひれが付き、都合の良い悪いに限らぬ部分を忘却するには十分過ぎるのだ。

 つまり『古代人など御伽噺の産物だ。個人でこのような力を持つはずはない。だから捕まえて都合の良い部分だけを利用しよう』と権力に物を言わせてくる可能性ばかりか、自分を助けてくれたエジェリーが人質になってしまうという事態も容易に想像できる。

 ならば昔から殆どの古代人がやっていた手段を使えばいい。

 冒険者ギルドとは国には属していない組織ではあるが、国の兵士の他に依頼という形で徴兵する時もある。

 この場合は冒険者自身の裁量に任されている。

 本来、冒険者ギルド自体が自由を尊重する気質なのも一因だ。

 今ある冒険者ギルドに所属する事で、国には積極的に与しないという事を証明し、実力が付くまでレベルを上げる事。

 仮に強引に国が冒険者となった海に対して手を出せば、冒険者ギルドへの侵害という形になるためにおいそれと手を出せないはず。

 自分自身、知らぬ存ぜぬで冒険者となり、古代人だという事も知らなかったで通せばバレても酷い事には成りにくいだろう。

 それで国が一応の納得をすれば、ある程度の時間ぐらいは稼げるし、古代人らしい自分は強くなれる可能性が高く、エジェリーを守りつつも自立できるはずだ、と。


「それよ!!」


 その手があったかとエジェリーは絶望に曇っていた瞳を一転、以前に例えた水宝玉アクアマリンの瞳を輝かせて、海の手を力強く引いてギルドへと駆け込む事になった。






「すいません。 コイツを冒険者にしたいんですけど!!」


 早朝という、ほぼ人が来ない時間帯であくびをしていたギルドの受付嬢はあくびが中途半端になって、微妙な気分になりながらもマニュアル通りの応対を始める。


「は、はい! 新規加入ですね?」


 エジェリーの尋常ではない剣幕に気落とされながらも必要書類の準備を始める。


「………………」


 しかし、海はギルド加入という急務よりも、受付嬢に視線が釘付けになっていた。

 その理由は単純明快。

 昨日は既に街が暗く、今日の今は早朝でエジェリー以外の人間を見た事がなかった。

 二十四時間開いているギルド内には、深夜早朝の時間帯は余程の事がない限りは人が居ない。

 だが当然、交代制で職員は詰めている。

 その職員――――今回は受付嬢だが、エジェリーにせっつかれている受付嬢の頭には本来、人間にもあって、人間には有り得ない物が生えていた。

 それは現代日本で言うところのコスプレをする方々や、洒落や冗談で宴会などに罰ゲームなどで装着している猫耳という物だった。

 受付のカウンターの奥を海はこっそりと覗き込めば、書類を準備している受付嬢の後ろ姿。

 そのスカート部分からフリフリとしなやかに動くのは見紛うこと無き猫の尻尾。


 触りたい……かも。


 この世界で言う獣人族の中でも猫族ワーキャットと呼ばれる人種だ。

 獣人ワーワイルドは、人間の次に『エフィーリア』に多い人種で小犬、狼、猫、兎や他にも様々な獣人が見られる。

 その外見的特徴は、大まかには獣の耳や尻尾が生えていること以外は人間とほぼ同じだ。

 能力的には五感が人間よりも鋭く、身体能力的にも人間族より強い。

 特殊技能として、ある一定のレベルを越えた者は半獣化となる事ができ、より獣に近づいた容姿――――半獣人に変貌する事ができる。

 友人に見せられたグラビアアイドルの写真集には、猫耳メイドのコスプレしたページがあって、友人はギャップ萌えが良いと絶賛していて海は微妙だと思ったものだが、実際にそういう人種が居て、自然にピクピクと動く耳や触り心地の良さげな尻尾は、何とも言い難い誘惑を振り撒いている、ような気がした。


「……い? カイってば?」


「ん? ああ、ごめん」


 危ない道に転げ落ちそうになった海を、エジェリーの声が救った。

 もしあと少しでも遅ければ、無意識的に受付嬢の耳や尻尾に手を伸ばしていたかもしれなかったことにハッと気が付き、内心でこれから気を付けるべき事だと心の隅に置いておく。


「必要事項を書いてって」


「……ありがとう」


 海はエジェリーに二重の意味で礼を言い、受付嬢から一度も使った事がない羽ペンとインクで姓名などを書類へと書き込んでいった。

 注意事項もしっかりと端から端まで可笑しな事がないかと確認も忘れない。

 契約書はどこで落とし穴があるかわからないし、抜け穴があったりもするからだ。

 書き込むべき事項は名前、年齢、性別、特殊技能持ちかどうか程度。

 驚いた事に、その書類は普通に日本語で書かれていた。

 この『ラ・メール』という国だけを見れば西欧風な雰囲気で、遠くにある本棚に納められている本は明らかにタイトルが英語というよりフランス語のような感じがする。

 中二病を患ったらしい文学系な友人が読んでいた書の文面とよく似ていた。

 記入を終えてみると不思議な事に読んでいた文面ばかりか、自身で書いたはずの文面までフランス語のような文面へと変化してしまったのだ。

 しかし、驚きつつも表に出さないように海は心掛ける。

 この現象も、チュートリアルによって知っていた。


 これが自動翻訳という奴か……。


 そもそも金髪碧眼の見た目そのままのはずの外国人なエジェリーと、何故普通に会話ができたのか?

 その答えは自動翻訳という『力』が働いているからだ。

 海は間違いなく日本語を話しているが、エジェリーにはフランス語のような言語に聴こえているのだろう。

 今海が日本語を読み書きしても、エジェリーや受付嬢にはフランス語に見える文字に見聞きできるというのが翻訳というこの世界の仕組みらしい。


「あら、魔法を扱える方なのですね? 珍しい……魔力はあっても扱えない人が多いですから。 はい、記入漏れはありませんね、クロイさん? 魔法技能持ちとの事ですので、こちらの走査水晶スキャン・クリスタルに手を置いて頂けますか?」


 転がらないように下の部分が平面になっている部分以外は球状で透明ながら少し濁った水晶カウンターに置と、ゴトリという相応の重さがある音が響く。


 胡散臭さー……。


 そう思った海は受付嬢からエジェリーに視線を移すも、さっさと言われた通りにしなさいよ、という視線を向けられて特に危険な訳ではないと思い直し、軽く水晶に掌を置く。

 すると、その頭頂部に置いた掌から水晶の硬い感触とヒンヤリとした温度が伝わるが、すぐに走査水晶スキャン・クリスタル自体が薄らと光り、じんわりと暖かくなった。


「はい、結構です。 レベル8……初心者で8って……得意な魔法属性は……ッ!?」


 走査水晶スキャン・クリスタルを覗き込んでいた受付嬢は海の初心者で異様に高いレベルに驚き、続けて見た得意属性を見た瞬間に驚愕に目を見開いて海の顔を見る。

 見つめられた海は思わず視線を逸らし頬を掻いた。

 よくよく見れば少し頬が赤いので照れている事が解る。

 それはさて置き、レベルは生き物の魂を吸収する事で上がっていくのが以前説明した通りの常識で素振りや走り込みなどの自己鍛錬では上がらない。

 だが、ステータス自体はそれ相応に少しづつ上がっていく。

 だからといって虫を何匹殺そうとも虫自体の魂が少な過ぎるのでレベルが上がる事はほぼ有り得ない。

 ならば何が効率良くレベルを上げる事ができるのか?と訊かれれば、魔物や人間が一番よくレベルが上がる。

 近しい姿のものの方が魂の吸収率が良いという見方もあるが事実かは定かではない。

 しかしだ。

 普通の人間ならば高くてもレベル3などが良い所。

 辺境の村などで魔物と戦ってきた者、兵隊を止めて冒険者になった者ならば有り得ない事ではないが、海は16歳。

 この世界で言うところの成人を超えているという事を考えれば若くして相応の魔物を屠った者であるという事に他ならない。

 海の日本人特有の幼さを残した容姿によって、2~3歳若く見られているため余計に受付嬢は驚いたのだ。

 更に驚く事は人間の王がいる国で生まれた魔法使い(ウィザード)は国に申請さえすれば公認で魔法学院へと通う事ができる。

 しかも学費を免除されて。

 その申請をすると学院を卒業後は国の魔法研究に貢献する宮廷魔法士か、軍の魔法士隊へ入隊する決まりとなってはいるが、どちらも通常の職よりもだいぶ良い待遇を受けられるし、実力次第では更に高給取りとなれるエリートの卵。

 そんな貴重は存在が、わざわざ冒険者になるというのだ。

 それを蹴って何故?と勘繰るのは仕方がない。

 しかも――――


「ぜ、全属性に適正有りって……なんて非常識な……んんッ、扱える人は中々貴重なんですよ……?」


 魔法使いには得意な属性が定められている。

 誰の師事も得ていない者ならば火、水、風、土の基本的な四属性魔法と補助をする魔法を扱う魔法を操る者の総称、魔法使い(ウィザード)

 この基本的な四属性の魔法は『エフィーリア』では才能さえあれば独学で誰もが扱う事ができるが初級程度の術。

 現代ではそれですら既に特殊技能扱いらしく、誰かに師事を受けるか魔法書などを独学で解読して新たな魔法を扱う事ができる事がほとんどなのだという。

 前者の誰かに師事を受けると言う延長として先程上げた魔法学院へ行く事が挙げられ、魔法学院を無事卒業出来れば上級魔法を扱う事ができる。

 しかも魔法には国によって特色があり、『ラ・メール』では水に関する魔法の研究が発展しているために水に関する魔法を多く覚えられる。

 もちろん、基本四属性とその派生として使える氷、雷、岩、重力、光、闇などの中級魔法も覚えられるし、更に才能があれば、それより上の上級魔法となれば戦略級の広範囲や高威力の魔法や時間、空間などの特殊属性の魔法などを扱えるようになる。

 それとは別に国別に特殊な術技体系の魔法を扱う職もあるという。

 話が逸れたが、つまりは全属性を扱えるという事は異常なほど才能があるという事なのだ。

 それを思うからこそ、受付嬢は内心で首を傾げるのだった。

 そんな一瞬、地が見えた受付嬢は咳払いをして接客用の態度へと変わり身する。

 何より、有望な冒険者の卵がギルドに入る事に否などなく、むしろ推奨するべきだと思い直しただけだからだ。


「ですが、それだけ有能な方が入って下さるのは冒険者ギルドでも嬉しい事ですので、詮索はしません」


 そう言って猫族ワーキャットの受付嬢はニッコリと笑う。


 流石は猫。

 猫を被る、なんて言葉もあるから接客態度も身軽だな……。


 内心そんな事を思いながらも海は、古代人という事は聴かれるまでは黙っている方向で手続きを終え、海は晴れて冒険者となったのだった。

 チュートリアルの情報について

 海の知識は太古の時代の物で、エジェリーや猫族受付嬢さんの知る近年の情報は含まれていません。


 現代人と古代人の差異について

 現代人とは言わばNPCやMobで、ある程度の制約、制限があり、それが時間を重ねて行くにつれて常識となってしまい、古代人というゲームで言うところのプレイヤーは、何でも魔法や技を覚えられます。


 術技の習得について

 主人公は魔法や技は基本的な物だけを始めから覚えています。

 術技を覚えるためには二種類の方法があり――――

 自分で覚える場合、魔法書や奥義書などを手に入れ理解する事で覚えられます。(相応のレベルに上がらなくては読めない)

 特定の誰かの師事する方法は覚えられるが時間が掛かります。(こちらは古代人が居なくなってから普及した覚え方)

 現在では後者が一般的ですが、古代人である主人公にとっては前者前者の方がやはり手っ取り早いです。


 ご意見、感想などは歓迎ですのでお気軽にどうぞ^^

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