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朝露の村、ロゼ

 馬車から少し離れた、開けた場所で二人の青年が剣を交えていた。


「ハァァァッ!!」


剣士技能ソード:ダブルスラッシュ】


「……ッ!!」


騎士技能ナイト:フリック】


 海は気合を込めた声が朝の澄んだ空気を震わせ、少し遅れて金属の擦れる音が湖面を微かに揺らすが、バティストの巧みな重楯タワーシールド捌きによって、剣士が最も初めに習得する“慣性を無視して繰り出す切り返しの二連撃”を行う技能スキル、【ダブルスラッシュ】を見舞う。

 だがバティストは騎士の基本技の一つである“敵の攻撃の瞬間に楯で払う”【フリック】によって、相手に攻撃が通る瞬間に力を込めようとする一瞬の虚を突かれ、衝撃と共に剣を払われてしまい、ガラ空きになった首元へ剣先を突き付けられる。


「……ッ、降参です」


 海がそう言うと、バティストは剣先を引いて鞘に戻す。


 全く敵わない……レベルどうこう以前に、そもそも地力が違い過ぎる。

 やっぱり前衛系だと、どうしても勝つ想像が見えてこないぞ……。


「やっぱり守護騎士ともなると手も足も出ないです……」


 海は少々自虐的にバティストに話すと、喋れないバティストは海の背中を一発叩いた。

 レベル差からか、その力強さに海は思わず、つんのめる。

 バティストはそんな海を即座に支えて転倒するのを未然に防いだ。


「朝の稽古に誘いに来ず、何をやっているかと思えば、稽古でもつけていたのか、バティスト? どうだった?」


 セリアの問いにバティストは肯定の頷きを返し、身振り手振りでセリアに対して何事かをバティストは伝えた。

 それからセリアは考えるように一考の後、抜剣して海に切っ先を向ける。


「少し見てやろう、魔法使い殿?」


「なんでそうなる……?」


 ようやくレベルの差というものを感じ、打ちのめされて断念しようとした前衛職の稽古をせねばならぬのか?

 そんな疑問を余所よそにセリアが斬りかかる。


 ……ッ!!

 いきなりかッ!?


補助技能サポート:動体視力強化】


 そんな文句を内心で垂れ流しながらもバティストと打ち合った際に発動を終えた技能を再度使用し、未だ右手に握ったままの剣で咄嗟に受け、瞬間に衝撃が伝わる。

 手にする金属の剣は約2kg、海が握り慣れているカーボン製の約300gほどの重量であるテニスラケットよりもかなり重い。

 確かに約2000gと約300gは約7倍に届かない程度の重量で、2、3度振り回す程度ならば問題はないだろう。

 だが、同質量の打ち合えば重量と速度によって、とんでもない衝撃となって腕に衝撃を伝える。

 ラケットを握り続けたからこそ鍛えられた握力が剣を落とさせなかっただけなのだ。


「ほう……今の不意を狙ったはずの一撃を受けるばかりか、剣を落とさないのか……確かに素人ながら根性と素質はあるようだな」


 そもそも海の元々の動体視力は悪くはない。

 むしろ、テニスによって球を視認する動体視力、コートを駆ける持久力、テニスラケットを握り続ける胆力は前衛として必要な最低限の基礎程度ならば、十分に満たしているといっていいだろう。

 相手の攻撃を視認させるのはやはり動体視力であり、戦闘を続けるのに必要なのは持久力。

 剣を落とさぬ胆力は命を救うだろう。

 前衛としてでも海はある程度の適性を持っているのだが、海の行なってきたのはスポーツという競うための運動であって、この世界のような戦うための動きではない。

 が、辛うじて海が剣を振り回せる要素はもう一つある。


補助技能サポート:マルチウェポン】


 技能という存在だ。

 この技能によって海は使ったことない近接系武器全般……今回は長剣の取り回しをある程度、マシな物にすることができる。


「ふむ……初めてでこれならば意外と良い剣士に成れるかもしれんな……次は少し強く行くぞ!」


 セリアがそう言って、先程よりも更に力を込めた連撃を加えてくる。

 それを海は防戦になりながら受け止めていく。

 その度に両手で持つ剣を通しての衝撃が重く響き、都合7合目にして海の手から剣が弾き飛ばされて明後日の方向にあった木の根に剣が無用の傷を付けて地面に転がった。


「7合か……剣の心得が無いにしても良くやった。 しかし、お前の体捌きは争うというより、何かこう、競うようなものを感じるな? それがお前を支えたものの正体だろうが、早く戦うための感覚を掴んでおくんだな。 次があれば、また見てやろう」


 セリアはマリー皇女以外、自他共に辛口の評価をする。

 そのセリアが素質有りと海を賞賛し、剣を鞘に収めて馬車の方へ行ってしまう。

 海はそんな称賛をそっちのけで、負けた悔しさよりも必死に防いでいたからこその精神的負担によって地面へ倒れ込み、荒い息を吐いた。

 それを見ていたバティストは地面に転がっていた海の剣を拾い、寝転がっている海の傍らに剣をそっと置いて同じくセリアの方へと歩いて行く。

 恐らく独りになりたかったのを察してくれたのだろう。

 バティストは言葉こそ話せないが、意外と面倒見が良いことを知った。


 本当の戦いなら、死んでた……。

 魔法が使えれば、もうちょっとマシな戦いもできる、よな……でも、そんなのは言い訳だ。


 バティストにしても、セリアにしても、これは稽古の範疇でのことであり、勝ち負けの話を持ち出すのはお門違いだということを解っていながら、あえて厳しい見方を海はする。

 これからのために、自分を守れるのは自分自身なのだから。


 取り敢えず、汗でも流そうかな……。


 誰もいなくなって数分。

 ようやく落ち着いて整いつつある呼吸を取り戻したが、たった数分の剣の打ち合いで、海の全身は汗にまみれていた。

 思い返せば身震いする。

 今まで直接、剣を持って接近戦をしたことはなく、真剣での稽古。

 しかも対峙したのは人型の魔物ではなく、正真正銘の人間。

 もし手元が狂ったら?

 もし逆に何かの手違いで斬られたら?

 そんな“もし”によって筋肉は萎縮し、頬はずっと引き痙っていたことだろう。


 圧倒的なレベル差があったからこそ、ここまで一方的に攻め続けられただけだろうが……。

 剣も銃も法律で禁じられてる日本から来た俺が、そもそもなんの怪我もなく戦えていたこと自体が幸運だったんだ。


 海は服ごと湖に入る。

 すると、外の気温よりも多少冷たいと思わせる水温と肌に張り付いたなんとも言い難い衣服の感触を感じ、上から順に衣服を脱いで湖面に届いていた枝に脱いだ服を絞ってから全てかけておく。

 春先程度の気温だが、雲一つ無い晴天。


 湖のほとりで、ひと泳ぎしていれば、ある程度は乾くだろうし、半乾きでも焚き火に戻って温まっているうちに乾くだろ……。


 海は湖を泳ぐ。

 だが、海も日本人。

 全裸で湖面を泳ぐのは流石に恥ずかしく、潜水で外から見え難いだろうと思いながら水中を湖の外縁部に沿って泳いでみる。

 湖の水は澄み、ある程度の透明度で水中でも見ることができた。

 人魚族マーフォークならば、ずっと潜って水中に居られるだろうが、海は人間であり、息苦しくなり始め、急いで湖面に浮上し、また潜るを繰り返す。

 とは言っても一番深い場所に行く訳ではなく、精々が湖底に足を着ければ首までしか来ない程度の浅瀬の部分だ。

 そうしている間、湖中に差し込む日の光が微妙にズレていることを水中で感じて湖から上がることに決める。

 というのも、海が異世界で時計のない生活を数日こなしてみると、これが意外と太陽の位置などで大まかな時間把握ができるようになっていた。

 人間はどうやら望む、望まぬ構わず、周囲の環境に適応していく動物だということなのだろう。


 サバイバルしてるよなぁ……そういえば、そろそろエジェリーやマリーも起きた頃か?


 肌を滑る水を感じながら一気に上へ上へと水を掻き、苦もなく水面へと顔を出し、新鮮な空気を肺一杯に吸い込んむ。


「ぷは……っ」


 澄んだ空気は海が住んでいた地方都市よりも断然に清々しい。

 それを感じた後、すぐに目に入るであろう顔を濡らす水を両手で拭いつつ、服を引っ掛けた木の枝へと水滴を湖面へと滴らせながら近づいていく。

 肩、胸板、鳩尾みぞおちへそと徐々に外気に晒され、ついに水に浸かっている部分が、ふくらはぎの部分まで下がる。

 長らく水に浸かっていたからか、海は初めから吹いていた微風に身震いしながら引っ掛けておいた服を手に取ろうとして、カサリという茂みを掻き分ける音と共に突如現れた。

 現れたのは朝食を知らせに来たエジェリー。


「ぅえ……?」


「うわ、マジかッ!?」


 流石に予想外だったのか、エジェリーは思わず変な声を残し、視線は海の下半身へと注がれて硬直した。

 それと同時に海は当然の驚愕と共に再度、湖へ飛び込んだが、水は浅く、申し訳程度の影にしかならない。

 そして――――


「ぎ」


「ぎ?」


 謎の音を口から発したことを海はオウム返ししてしまいうが、次の瞬間に怒号が飛んだ。


「ぎゃああああぁぁぁぁ――――ッ!! 変なもの見せるなぁぁぁぁッ!!」








 朝食を済ませ、また改めて海は御者をする。


補助技能サポート:御者】


 片道数時間を走る内に上がった技能練度スキルレベルと昨日でなんとなく馴染んできた手綱を手繰り目的地へと進む。

 ただ、昨日と違うとすればその頬。

 ようやく薄れてきたが、赤い紅葉が咲いていた。


 なんで見られた俺が殴られるんだ……普通は逆だろ……?


 むっと不機嫌そうな顔をするしかない。

 思い返しても腹が立ってくる。

 何より、朝食の席で他の3人の内、2人は明らかに笑っていた。

 確かに裸を見られたのは男である海にとって気恥しいが、別段見られたからといって女とは見られることの重みが違う。

 男の裸を見たところで喜ぶ人間など、そう多くはないと思っている。

 だから見られたことより、笑われた事の方に腹が立った。

 小休止を数回ほど挟んで日の光が真昼に達しないほどの時間に海達は朝霧の村『ロゼ』へと到着した。

 だが様子が些かおかしい。

 朝霧の村と銘打っているだけあって『ロゼ』の特産品は潤沢な水辺に群生するハーブで、【状態異常:毒】を回復させる『朝露の雫(ツユクサ)』を採ることができる。

 この『朝露の雫(ツユクサ)』を乾燥させて潰し、丸薬状になっている物が市場に流れるのだ。

 ともかく、規模は村と言いながら街に近いどの大きさと言えるが、海にとっての街と比べるとやはり小さく感じてしまう。

 しかし、そんなことよりも一番気になることは海ですら村全体が殺気立っていたことに気付ける事だった。

 村人の男達は手にお世辞にも手入れの行き届いているとは言えない剣や槍などを持っている。

 馬車の中からも、小窓から伺う女性陣が困惑していた。


「これは何の騒ぎでしょう?」


「さあ? 祭りっていう雰囲気じゃないわよ?」


「村全体がまるで戦時のような様相ですね……」


 セリアの言うように、これから戦うための準備しているようにも見えた。

 とてもではないが、話を聞けるような状況ではない。

 海達一行は『ロゼ』の宿へと向かう。






「それじゃあ何? この『ロゼ』に、ゴブリンキングが来るっていうの?」


 馬車を納屋へと止めてバティストと共に海が宿屋へ入るとエジェリーの声が聞こえてくる。

 どうやら海とバティストが居ない間に村の殺気立っている経緯を宿屋の主人から聞き出している途中らしい。


「ええ、その通りでさあ……村の自警団が近くのゴブリンの巣を潰しに出たんですが、ただのゴブリンの巣じゃあなかったんで。 どうやらゴブリンを従える魔物……ゴブリンキングが居まして、なんとかゴブリン共を振り切って自警団が帰ったんですが、仲間を殺されたゴブリンキングが村に向かってるらしいんでさあ」


「ゴブリンキングか……ここから王都へ早馬を出したとしても手遅れだろうな……」


「ええ、その通りで……」


 王都へゴブリンキング討伐の依頼をすれば、この『ロゼ』を救うべく討伐隊が組まれることは間違いないだろう。

 しかし、王都へは片道だけで一週間はかかる。

 その間に『ロゼ』はコブリン共に蹂躙され尽くされ、廃墟となる可能性は高い。

 ならばと自警団の連中が立ち上がるのは当然の流れだったのだろう。

 マリーは海とエジェリーへと向き直って口を開いた。


「追加の依頼を。 私が探す人がいるかもしれない以上、『ロゼ』を守ってくださいませんか? もちろん、王国で討伐隊を編成するほどの案件です。 成功のあかつきには、王国から支払わせます。 出し渋るようなことは私の名に誓ってさせません。 どんな手段でも報酬は支払わせます」


 マリーとしてではなく、一人の皇女の毅然とした態度で海とエジェリーへと依頼を追加する。


「私は良いわよ。 困っている人がいれば見捨てるつもりないし、報酬が出るんなら一石二鳥だわ。 それに、できる限りマリーの力にもなりたいもの」


 エジェリーは深く考えるまでもなく、困っている者を見捨てることを良しとせずに了承の意を決する。

 だがやはり海は渋い顔をして答えを渋った。


「ゴブリンキングがどの程度の強さなのか、率いているゴブリン達の数がどれくらいなのか、それがわからないのに返事ができる訳がない。 戦力差が上回っているか、それとも均衡しているのならともかく、劣勢で勝てると思えるほど俺は楽観主義者じゃないぞ」


 少数対多数の戦いでも圧倒的な個がいれば十分に覆せるかもしれない。

 だが話を聴く限り、圧倒的大多数との戦いともなると話は、そう単純に個人で覆し得ない戦略レベルの話となる。


「つまり、お前は勝てる戦いしかしないと言う訳か?」


 セリアは海の言い分に対して見過ごせるはずもなく突っかかる。


「そうは言わない。 でも不鮮明な情報で挑んで負けました、じゃ終わらない話だと言ってるんですよ。 まともに戦える人間が『ロゼ』にどれだけ居るかを把握している訳ではないでしょう? 元々の戦う人間は自警団と呼ばれる集まりで、その他は戦ったことのない男達。 武器すら、ろくに手入れされていないのは俺だって見ればわかります。 逆に聞きますけど、彼らに死ねというんですか?」


 警察は自警団、『守護騎士団ガルディアンシュヴァリエ』が軍隊みたいなものだということくらいはわかるし、すぐに駆けつけられないなら戦うしかないって言うのも確かに納得できる。

 でも、逃げられるのに戦う意味がない。

 命が無事ならば後でどうとでも立て直すこともできるはずだ。


 海の考え方は最もではあるが、この世界に至ってはその考え方は通用しない。

 その考え方は次への余裕がある者だからこその発想であり、『ロゼ』を守るために戦う者達には、この場所こそが全てなのだ。


「そうだ。 有事の際は、自分で身を守らなければならない。 この程度のことは常識だろう」


 他の場所でも確かに生きていけるかもしれない。

 でも今まで暮らしていた場所を見捨てられる訳がないし、愛着もある。

 なら、そのために命を賭けて戦うことは当たり前だと彼らは口を揃えて言うだろう。

 その事に、海は理解することができない。


 なんだそれ、解らない。

 命あっての物種のはずじゃないのか?

 俺が……間違ってる、のか?


 海は混乱する。

 だが、この場においては海の考えこそ少数派なのだ。

 それ故に、今まで培った海の常識のほうが異端なのだと揺らいでしまう。


「理解できていないのですね……ならば、カイ・クロイ。 貴方がここで戦う理由を私が作ります。 そのために戦いなさい」


 マリーは海へと近づきながら言う。


「何を言――――」


「――――ん」


 そんなマリーへ向けて言葉を発するが、不意に口を塞がれたために続きを言えなくなる。

 その口を塞いだのはマリーの唇だった。


「――――ッ!?」


 なんでキスされてるんだ?!


 海は更なる困惑に物事を正常に考えられなくなった。

 普通ならばキスくらい、どうということはないが、心の隙とでもいうタイミングでの不意打ちだった。

 これ以上ないくらいに、心を乱されたのだ。


「これは手付です。 私は貴方の物になります……だから貴方は私を守るために戦いなさい」


 それは命令。

 マリーが王族として暮らしていて初めて行なった、彼女を知る者達からみれば到底、有り得ない高慢な物言いだ。

 マリー・クリスティーヌ・プロヴァンス・ラ・メールにとってクロイ・カイという人物は、言ってしまえば異星人のような人間だった。

 王族とは敬われ、かしずかれ、尊ばれる者。


 今までも、そしてこれからも、それはずっと変わらない物だと信じて疑わなかったけれど、でも、それが私は我慢できなかった。


 もっと踏み込んだ付き合いというものに憧れたのは、そんな王族の不自由さが原因だろう。


 誰かと本音で語り合いたい。

 友達が欲しい。


 でも数日前、それは覆された。

 確かに言葉遣いは敬意を払わないといけないから、という建前で敬語を使われていたが、接してみれば間違いなく敬意の欠片も見受けられない。

 嫌味、皮肉は当たり前、挙句の果てに直接、肌を撫で回すという不敬振り。

 上の姉達にそんなことをすれば、不敬罪で牢屋に繋がれるなりするだろう。


 でも、ほんのちょっとだけ嬉しかった。


 ロック鳥のおかげで死にかけた時、薄れる意識の中で見た必死な横顔。

 ギルド長を手玉に取った見事な手腕、記憶力、機転で切り抜けた計算高い顔。

 でも触れ合って見れば助けたのは偶然だから、もう関わらないという慎重と臆病な顔。

 それが初めに興味を持った出来事であり、これからのマリーに必要な者かもしれないという打算が先だった。

 初めての友達と呼べるエジェリーの我侭わがままに、自分の意見を曲げて付き合う彼女にしか見せない表情もあれば、こちらを誘うような蠱惑的な表情に掴みどころのない魅力を感じることに気付いた。

 そして、今朝。

 海を呼びに行ったのはエジェリーだけではなく、マリーもだった。

 手分けして別れて探していて、先に見つけたのはマリー。

 海の居た地球とは違う、透き通った湖を見慣れぬ泳法で優雅に泳ぐ海。

 エジェリーには水を見渡すことができる能力が生まれ付き有って湖底の海をすぐに見つけたのだ。

 異国の容姿は、ただそれだけで、どこか神秘的な魅力を醸し出していて、まるで黒真珠のような黒い人魚のようだった。

 目を奪われていたのかもしれない。

 だが、海は明らかにエジェリーの方しか見ていなかった。

 それが同じ女として腹立たしく有り、悔しいとも思ってしまう。

 どうしてそんな事を思ってしまうのかと思考を巡らせてみる。

 出会って数日なのに、どうしてそこまで惹かれてしまうのかと。

 なんだかんだと理由を付けて手元に置いておきたいとさえ思っていた。

 疑問は、たった一つの事実に思い至ってしまえば一瞬で単純な答えに辿り着く。


 恋……ああ、これが恋なのか……。


 切っ掛けは単にエジェリーに嫉妬しているから対抗したくなっただけだったのかは解らない。

 だから自分の物にして徐々に確かめていけばいい。

 そう思ったから実行してしまおうと思っただけの事。


 永いキスから唇を離して一息。

 呆然とするギャラリーをよそにマリーは言う。


「返事は私の依頼が全部済んだ後に。 今は戦の準備をしましょう」


 マリーは先程のキスが嘘のように毅然とした態度で宿に荷物を預け、自警団の本部へと向かってしまうのだった。

最近、また忙しくなってきたので、更新が遅れてます。

申し訳ない。


感想、アドバイスなどお待ちしてます^^

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