博士の覚醒
博士は、興奮していた。自らのあらゆる情熱を注ぎ込んでつくりあげた電磁波伝播装置のスイッチを手に、博士は一人、邪気を含んだ高揚感を噛みしめていた。
博士を駆り立てていたのは、自らの計画が間もなく遂行されようとしているという、きわめて閉鎖的な高揚感であった。それは、長年の理想をただ純粋に追求しつづけた科学者としての誇りのようでもあり、また、ささやかな悪戯の成功を無邪気に喜ぶ幼子の、果てしなく純真な好奇心のようでもあった。
――さあ、やるぞ――
博士は神妙な表情でスイッチに指を添えた。
――ついに、ついに――
博士の興奮が乗り移るように、スイッチに添えられた指に徐々に力が込められていく……。
(電池残量がなくなりました。すみやかに充電をしてください)
あまりにも素っ気なく表示されたメッセージに、夏海はちいさく舌うちをした。
何よ、もう。あとちょっとでメールが送れるところだったじゃない。せっかく心を込めてメールを打ったのに。まあ、いいや。寝てる間に充電しておいて、明日の朝一番にメールを送ればいいんだし。
携帯電話に充電プラグを差し込んで、夏海は眠りについた。
研究室は、恐ろしいまでの静寂に包まれていた。妙に高揚した沈黙を縫うように、博士のくぐもった含み笑いがうっすらと漂う。
「クックック、ついに……ついに……!」
博士はまさに、恍惚の絶頂に浸っていた。積年の理想が、ようやく実現したのである。ただそれだけで、これまでの一切の苦悩と努力が一瞬にして甘美な達成感へと変わるのだった。
込み上げる高揚感にたえきれず、博士は頭上高く両腕を突き上げて、そして叫んだ。
「ついにやったぞ!」