その6・私、仕事を語るのこと
天地創造って言うと新興宗教みたいで嫌なんだけど、実際にこの世界を作ったのは神様なわけ。信じられない? 信じたまえ。そういうことになっているんだから。――で、ただ作っただけじゃ不毛な土地が広がるだけだから種を作ることにした。それが初めの植物。
次に作られたのは水にすむ動物で、それからハ虫類とか鳥類とかの卵生動物。最後に胎生動物を作って終わり――なんだけど、ただ作っただけじゃ同じことを繰り返すだけの機械みたいなものにしかならなかったんだよね。つまり生まれて育って交わって産んで死ぬ。ひたすらそれを繰り返すだけの世界には当然飽きが来るもんで、神様は『進化』を促すことにした。つまり種類を増やさせて多様化させようと思ったのさ。
でも放っておいても進化するわけない。そう『作っちゃった』んだから。だから全ての生き物に行き渡るように『一部の遺伝子情報を壊す』成分を光に混ぜて注ぐことにした。もちろんそれだけじゃ進化じゃなくて退化して行く一方だから『遺伝子を修正しつつ直す』成分も入れておいた。
壊す成分は量が少なくても問題ないけど、直す成分は壊す成分以上に必要だからどうしても過多になる。多すぎたら多すぎたで良いかなと思ったらしいけど、とりあえず自分が調整しながら進化を見守っていこうと神様は考えた。で、その調整するための基点が私が今憑いている宝岩だったりする。余った直す成分を吸収し、貯蓄することで大気中の直す成分――つまり『神の恵み』の濃度を一定に保っていた、のだけど。ある日、いつまでも神様自身が調整していたら自分の思ったような世界にしかなりようがないと気付いたらしい。そうだ、他人に任せよう! と。
長い年月一人ぼっちでも問題なさそうで連れてきても問題ない魂を探していたらしい神様は、ちょうどトラックに撥ねられて死んだ私に目を付けた。戦争を好むような人間でもないし趣味はネトゲの街作り、生にそれほどしがみ付いていない(ついでに今しがた死んだというオマケ付き)――本当にちょうど良かったらしい。
そして私は(何の説明もなく)聖霊様にされ今に至る。なんのフォローもなかったから始めこそあの野郎と思わないでもなかったけど、一度死んだ命だし生きている(?)分だけ儲けもんだと開き直ったら気にならなくなった。ただ人恋しかっただけで。数週間でエルが現れたのは本当に幸運だった……エル以外で私のところに来た人間いなかったんだよ、五年くらい。その点ではエルに感謝しても良いかな、その点だけは。
――とまあ、神殿関係者が秘匿しておきたいだろう部分や個人的な部分ははしょりつつ話す。少年もこの国を建てた高祖がとても残念な厨二病患者だったなんてことを知りたいとは思わないだろうし、もし話したとしてもただの愚痴になる気がした。
少年は難しい顔をして唸り、頭を掻きながら伏せていた顔を上げた。
「えっと……じゃあ、そのマナていうのが沢山余ったから、僕たちの体質が変わったってことですか?」
「うん、そうそう。でも体質が変わったというより新しい機関ができたっていう方が近いかもしれないな」
たとえば腕が二本から四本に増えるようなもんだよと言えば少年は恐怖で顔を凍らせた。――どうやら喩えが悪かったらしい。腕が四本ってのは怖いのか……顔が三つで腕が六本ある元武神を「アシュラたん萌え!」と萌えキャラ化している日本人でもなきゃ受け入れ難かったのかもしれない。私なら腕が四本あるならもう一つ顔を付けろと注文するけど、少年には怖い話でしかなかったみたいだ。
「あー……うーんと、少年は腕が一本じゃ不便だと思うよね」
とりあえずフォローしておこう。
「うんと、はい。不便です」
「そう。人間は腕が二本あるから色々なことができる。じゃあ三本あったら、四本あったら、もっと便利になるとは思わないかい?」
まあ、そんなことになったらマルチタスクが必要になってくるけど。右手と左手に別々の動きをさせようとするのは中々骨が折れる。しかし少年がそんな現代知識を知っているはずもない。頭に添えていた手を顎に滑らせ、少年はうーんと首を傾げた。大は小を兼ねると言いはするが大きすぎるのは逆に不便になるけど、今言いたいのはそんな話じゃない。
「思います」
「魔法を使えるというのは見えない腕が出来たようなものと考えれば良い。その腕をどう動かすかをちゃんと知れば力の暴走も起きないし今以上に便利になる」
なるほどと何度も頷く少年の旋毛を見ながら、さてこれからどうしようかと考える。何か呪文とかあった方が良いだろうなぁ……魔法の呪文とか、私に厨二病患者になれというのか? こっぱずかしくて穴掘って埋まりたくなるわそんなこと。教えると決心したならしたでもっと考えてから行動しろと怒られそうだが、どうせ私は元から行き当たりばったりなんだからさして気にするほどのことじゃあない。――とりあえず、今私がするべきことは。
「さて、だいぶん時間を食ってしまったようだな」
廟の外を見てみれば日はだいぶ傾いていた。おやつ時に少年がここに来たことを思うと長い間話していたようだ。もう夕食の時間だろうし、長時間姿の見えない少年をそろそろ神官が探しに来るかもしれない。今中途半端に行き当たりばったりな知識を与えるより明日話す方が良い。
「神官も心配しているだろう、お帰り。また明日教えてあげよう」
今晩は呪文をどうするかで悩まなきゃいけないから、とりあえず少年よ、帰ってくれ。
文字数は2222だそうです。キリ番って良いですよね。
少年の名前は依然募集中です。一つ候補を頂いて万歳三唱しました。ついでの主人公の名前も募集中だったりします。