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その4・私、王子と対面するのこと

 私――というか宝岩は、『神の恵み(マナ)』の一種である日の光で大きくなっていく。宝岩に記録されている情報によると宝岩は空から降り注ぐ『神の恵み』の余剰分を集める機関らしく、私が集めなければ余った『神の恵み』が暴走する可能性があるのだとか。ついでに暴走したら街が王蟲の森になったりもののけプリンセスっぽい動物が大量発生したりする。試しに与えなくて本当に良かった。

 ところで、私は今お城の中心に安置されている。屋根付き一戸建ての廟が建てられていて日光なんて浴びられるはずがなく……そろそろ大気中の『神の恵み』が許容量オーバーする頃なんだよな。大丈夫だろうか? 一応私の安置されている廟は風雨を防ぐだけのつもりだったのか壁がなく、周囲の『神の恵み(マナ)』を吸収するには問題なかった。でも直接と間接では差が開いてしまうもので、この国が建国されてから早二百年ほど過ぎた現在は今にも水が零れそうなコップの状態だ。

 でも私にはどうしようもないし放置してれば良いやと思って気にせずにいたら、各地で動物の巨大化や人里の樹海化が頻発し始めた。未知の怪物と急激な森林化により人々は恐慌状態に陥り、『きっと王家が何か悪いことをしたに違いない、聖霊様の罰なのだ!』とか言い出したらしい。良いぞ、もっとやれ! 原因の半分はその通りだ!

 現在の王は小心者で、建国であるあのエルと性格がそっくりだった。自分に自信がなく、そのくせ巨大な権力に酔った節がある。甘い言葉を吐く者しか身近に置かず、それを諌めた者を左遷したり蟄居させたり、殺さないだけましだがかなり情けない男だ。だから、その息子である王子も似たような性格をしていると思っていたんだ。父の背を見て子は育つと言うし、似たり寄ったりの坊ちゃんだとばかり思い込んでいた。

「聖霊よ! もし私の声が届きますならば、どうか、どうかご降臨ください!」

 それが思い違いだと分ったのはまあ、その王子様が私に直談判に来たからに他ならない。どうやら肉体派らしい彼は引き締まった体つきに軸のぶれない歩き方をした青年で、今の王より好感が持てる。彼は私を見上げて声を張り上げ、民草が無為に命を散らしていることを切々と訴えた。人間止めて二百年も経ったからだろう、人間に対する同族意識と興味が失せていた。だけど――助けを求めてくる者を無視するほど非道なつもりないし。

「私を呼んだのは君だね?」

 さも今気付いたと言わんばかりに言えば、王子は迷いなく頷いた。長いこと宝岩の中で引き籠っていたから元の姿を忘れてしまった……仕方ない、微妙に覚えている妹の姿を借りれば良いや。

「貴方様が……ハッ!! ご無礼を!」

 私が現れたのに立ったままだったからだろう、王子は一瞬呆けた後跪いた。そのつもりがさっぱりなかったとは言え私は建国に関わった聖霊様なのだから。深々と頭を下げたまま王子はさっきと同じことを繰り返し言う。真面目な性分なんだなぁ。

「各地では樹海が広がり、巨大化した獣が人を襲っております……聖霊様、どうか我らに力をお貸しください! このままでは我が国は滅びてしまう!」

 ガバッと顔を上げて懇願する王子にちょっとビビる。王子ってばかなりの美形じゃないか。私は美形が苦手なんだよ妹のハーレム思い出して。近寄るなシッシッシ!――とかやったら泣くだろうな……。いくら私が美形嫌いでもそれとこれは別だよなぁ。

「樹海の拡大も獣の巨大化も私の本意ではない。でも、君に力を貸してあげたいのは山々なんだが私には戦いの力はないのだよ」

「そんな……!」

 私が癒し専門だということは意外に誰も知らない。私の加護が付いてるんだ――!! とハッスルしたヘタレ王エルは戦争で勝って国王に昇りつめた。だから戦の守護聖霊(ほぼ神様みたいな扱いを受けているけど)とか国の守護聖霊だとか言われ、癒しの部分は忘れられてしまったのだ。

「だが私とて出来ることがある。私を覆うこの廟を解体し、私を日光の下に晒しなさい。そうすれば私がどうにかしてあげよう」

 こんなに真剣に民を思っている人なんだから助けてあげるべきだろう。民草のために心を砕いている王子には好感を持てるよね。よしよし、お姉さんが何とかしてあげようではないか。私が放置した結果だとかそういうのは気にしない方向で。

「聖霊様のお気持ちは有難く、そのお優しい御心に縋りたいのは山々。ですがこれは人がせねばならぬこと……聖霊様に頼り切っては我々は努力を忘れてしまう」

 なんか恰好良いことを言い出した! でも先に助けてって言いだしたのはそっちじゃなかったっけ!? ほんの数分前のことのはずなんだけど、どうやら私は耄碌したらしい。二百年も生きているからか記憶力にガタがきたんだろう。なんてこった……。

「二百余年の沈黙を破り私の前に姿を現してくださったことには感謝の念に絶えませぬ。ですが御身を煩わすことは出来ますまい――御前、失礼いたします」

 ……言いたいことだけ言って出て行ったよあの人。自分が力を貸してくれって言ったくせに、こっちが貸そうとしたら断わるのかよ。どっちだよ。困っているんじゃないのかよ。人の言うことを聞かないのはエルの血なのか? 思い込みで突っ走るなよ!

 私の行動範囲は周囲百メートルで、そして何の因果かは知らないが、私の置かれている廟の周囲百メートル四方は庭と神殿(といっても小さいものだけど)しかない。性根の腐った神官共の前に姿を現したくなんてないし――どうしろというのだ。














 そして数年後、あの軍人王子は右目を失って帰ってきた。流れ作業で王位を継ぎ、一生を巨大化獣(いつの間にか魔獣と呼ばれるようになっていた。可哀想に)や王蟲の森化した山林(いつの間にか死の森と呼ばれるように以下略)でアドベンチャーするのに費やした。人の話を聞かないとこういうことになるんだなと心から思わされた。

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