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その3・私、守護聖霊になるのこと

 青年の名前はエルというそうで、農民なのだとか。そのエルが何でこんな森の奥深くにやってきたかを訊けば、何やら口ごもり視線が私と地面をチラチラと往復する。女々しい奴だな……こういう時代の男ってものは『黙っておれについてこい』タイプじゃないの? 見た目は優男だし性格は軟弱で優柔不断だし、初めて出会った異世界人がこんなのだったと思うと泣けてくるね。身長だって高ければ良いというわけでなし、ただのひょろ長い兄ちゃんでしかない。

「その……好きな人が、いて。その人に何かプレゼントしたいんです」

「はあ」

 それがどうして私のところに来るのに繋がるんだ?

「だから綺麗な石をあげようと思って……」

「ふむふむ」

 綺麗な石ね、なるほど。女の子って物は綺麗なものを喜ぶもんね。エルの恰好から見るに文化レベルは古代。もうちょっと文化が発展すれば宝石だなんだと言うようになって来るんだろうけど、今のところ宝石は『他よりもちょっときれいな石』程度の認識らしい。カッティングの技術もないだろうし、宝石がちやほやされるまでまだ時間がありそうだ。

「だから、聖霊様の一部をください!」

「――は?」

 一部――ああ、この宝岩のことか。そうだよな、この岩綺麗だもんな。異常にでかいことを除けば女の子が喜びそうな色だし。よしよし、優しいお姉さんがここは一肌脱いで欠片をくれてやろうじゃないか。その欠片を基点に色々と周囲を見聞できるようになったら良いなーというこっちの都合は言わないことにして、聖霊になってから使えるようになった神通力で岩を砕く。細かい破片が散ったけどすぐに地面に吸収され、その地面からは私が踏んだ時のように草が急激な速度で成長し始めた。動物に与えたら凄いことになりそうだ――実験したら危険だろうな。某もののけのプリンセスのように巨大な獣が大量生産される気がする。そんなことをしたら私は本当にシシ神になってしまう。それは是非とも避けたい。でも今みたいに植物にばっかり『神の恵み(マナ)』を分けてたら王蟲の森と化しそうだ。与えない方が良いのだろうか……?

「これで良いかな?」

「あ、あっ有難うございます!!」

 我ながら良い仕事をした。自分の分身というか本体だからか、どうカットすれば一番綺麗に見えるかが分っていた。手渡せばエル君は嬉しそうに私の欠片を抱きしめる。さて、欠片と私の感覚は――繋がっている。システムオールグリーン。よしよし。

「ところで。私の姿を視認できたのは君が初めてだ」

 そんなのは嘘だ。

「と言うわけで君に私の加護を与えよう」

 もちろん嘘だ。

「その石を大事に持っていなさい。私が君を守護しているという証になるから」

 我ながらなんといけしゃあしゃあとそんなことを言えるものだ。数週間前までの私なら『嘘を吐くことに躊躇はないのか』と聞かれればあると答えただろうが、今の私はそんなことを気にしていられる状況じゃない。誰かと会話しなけりゃ理性を保っていらなれないのならコイツを使えば良いじゃない。

「せ、聖霊様……!!」

 感動のあまり泣き出したエルをぞんざいに慰める。

「よーしよーしこよしー」

「うっ、ううっ……俺、村でもヘタレって言われてて……!」

 その通りだと思う。それからエルの愚痴は続き、役立たずやら木偶の坊、ウドの大木、果ては無駄飯食らいとまで言われているのだとか。――つまりそこまで農民として絶望的だということで、ちょっとお兄さん生まれてから今まで何してきたのと訊きたくなった。お手伝いはしてこなかったの? してきたでしょ? なら何で出来ないの。体力がないならつければ良い、畑を耕すのが得意じゃないなら練習すれば良い。

「で、でもっ、俺っ!」

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら何か言い訳をするエルに、私はちょっとばかし失望した。文句を言うだけなら誰でもできるんだ。行動しもせずに嘆くだけの男なんて生きているだけで邪魔だ。無駄飯食らいと呼ばれる原因は本人にある。

 私はさっさとエルを追い出した。あんなのと会話するくらいなら次の訪問者を待つほうが何倍もマシだ。早く次の人が来ないかな。――と、そう思っていた時期が私にもありました。












『森の聖霊様の加護を頂いたんだ! 俺が!』

 誰が加護をくれてやると言った。――そういえば言いましたそんなこと。

『俺は王になる……この国を統一してみせる! 聖霊の加護は俺にある!』

 加護なんてしとらんっちゅーに。

 キングオブヘタレ・エルに渡した私の欠片を媒介にエルの周囲を観賞していたら、いつの間にかあのヘタレ野郎は私の加護のもとにとかほざいて戦争を始めやがった。わたしの一部を削って作ったからあれ自身に癒しの効果があったらしく、私を使って怪我人を治すことで人気を得ていった。畜生私の欠片を返せ。くれてしまったものはもうどうにも取り返せないけど、こんなことになるなら私だってあんな奴に野郎とは思わなかったさ。好きな女の子にやるんじゃなかったのかよ。なんで途中から配下に加わった美少女と乳繰り合ってるんだ?

 そしてエルは国を建て、ご丁寧にも私の暮らす森を伐採して首都にしやがった。城の真ん中に安置された私はおいそれと人の前に姿を現すわけにもいかず、またあのクソヘタレ男が死ぬまでは姿を現してなんかやるもんかと怒り心頭で岩の中に隠れてやった。そしたらまた『俺の前にだけ姿を現してくださったんだ』とか言い出したから呪い殺してやろうかと真剣に思い悩んだ。でも一応私は『神の恵み(マナ)』の一部であって癒しと命の象徴だから呪殺できなかった。ちくしょう。

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