表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

石の記憶 過去編

作者: 羽柴るい
掲載日:2026/05/18


雅美が初めて水晶を見たのは、雑誌の中だった。

今思えば、少し胡散臭い雑誌だったのかもしれない。

開運特集、前世診断、超能力体験談。

そんな記事の隅に、小さくパワーストーンの広告が載っていた。

けれど当時の雅美には、それが妙に綺麗に見えた。

カットされた水晶。

光を反射する透明な石。

宝石とは違う。

もっと静かで、冷たくて、不思議なもの。

「なんか良いことあったら面白いな」

その程度の気持ちだった。

まだスマホもない時代。

ネットも一般的ではなく、知らない世界は雑誌の向こう側にしか存在しなかった。

だから、小さな広告写真一枚にも夢があった。

雅美は通販の申し込み用紙を書き、郵便局で振り込みをした。

届くまでの時間さえ楽しかった。

数日後、出版社の封筒が届く。

少し厚みのある茶封筒。

振ると、中で小さく硬い音がした。

部屋へ戻って封を切る。

透明な袋の中に、小さな水晶が入っていた。

その瞬間の輝きを、雅美は今でも覚えている。

あの石が本物だったのか、今では分からない。

ブラジルでは水晶などトラックで運び出されるほど採れると、後になって知った。

もしかしたら、ただの安い加工石だったのかもしれない。

それでも、あの時の雅美には本物以上に見えた。

当時、若い人間の周囲には、不思議なものが溢れていた。

前世。

波動。

天使。

新興宗教。

オカルト雑誌。

けれど雅美は、特別何かを信じていたわけではない。

駅前で勧誘されることもあった。

それすら、街の風景の一部みたいな時代だった。

ただ、水晶は綺麗だった。

手のひらに乗る小さな神秘。

退屈な日常の中に、少しだけ違う光を落としてくれるもの。

今みたいに、検索すれば世界中の石が出てくる時代ではなかった。

アクセサリーショップも、フリマサイトもない。

だからこそ、雑誌の粗い写真ですら特別だった。

雅美は夜、蛍光灯の下で水晶を透かして見た。

何か特別な力があるような気もしたし、ただ綺麗なだけの気もした。

結局、その石で人生は変わらなかった。

超能力も開花しない。

運命の仲間とも出会わない。

ただ時間だけが過ぎていった。

それでも何十年後かに思い返す。

あの頃、世界は今より少しだけ不思議だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ