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『完璧すぎて可愛げがない』と婚約破棄されましたが、帝国の魔力供給・経済・外交を全て停止して隣国へ移住しますわ。――今更「戻ってきてくれ」? どこのどなたかしら?  作者: 桐谷ルナ
第1章 深淵の祝宴と帝国の黄昏(タリスマン)――「可愛げ」の代わりに、国の心臓(システム)を返していただきますわ

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第3話:あら、それはどの口がおっしゃるのかしら?

「……ふ、ふふ。ようやく大人しくなったか、エルゼ!」


 私が背を向けたのを「敗北」と勘違いしたのでしょう。エドワード殿下の声には、隠しきれない歓喜が混じっていました。

 彼は隣に寄り添うマリアンヌ様の肩を抱き寄せ、勝ち誇ったように会場を見渡します。


「皆も見た通りだ! この冷酷な女は、自らの罪を認め、逃げ出そうとしている! 衛兵! 直ちにこの女を捕らえ、地下牢へ――」


「あら、お待ちになって、殿下」


 私は、止めていた歩みをゆっくりと戻し、再び彼らの方を向きました。

 扇子を閉じ、その先端でエドワード殿下が握っている「偽造された毒薬の購入リスト」を、心底汚らわしいものを見るような目で見つめます。


「……何か言い残すことでもあるのか?」


「いえ。ただ、殿下がその『お粗末な紙屑』を根拠にわたくしを裁こうとなさるのが、あまりに滑稽で。アシュバッハ公爵家の教育を受けた身としては、あまりの程度の低さに眩暈がいたしましたの」


「なっ……紙屑だと!? これはマリアンヌが命懸けで入手した、貴様の罪の証拠だぞ!」


「そうですわ、エルゼ様! わたくし、怖くて震えながらもお部屋を調べさせていただいて……そこに、このリストがあったのですもの!」


 マリアンヌ様が、わざとらしく肩を震わせます。

 私は、くすりと小さく笑いました。


「マリアンヌ様。わたくしの執務室には、許可なく入った瞬間に発動する『強制排除の結界』が三層にわたって張り巡らされています。……そんな紙切れを拾えるほど、あなたは優秀な魔導師でいらっしゃったのかしら?」


「え……? それは……ええと、たまたま結界が解けていて……」


「あら、おかしいですわね。その結界の鍵は、世界に二つ。わたくしと――」


 私は、パチンと指を鳴らしました。

 すると、会場の壁一面に、巨大な魔法陣が浮かび上がります。それは「記録の魔石」に刻まれた記憶を、空中に投影する最高位の映写魔法。


「――この国の治安維持を司る、近衛騎士団長の執務室にしかございませんのよ」


 映し出された映像に、会場からどよめきが上がりました。

 そこには、真夜中の執務室で、必死に「エルゼの筆跡」を模倣してリストを偽造しているマリアンヌ様の姿が、鮮明に映し出されていたのですから。


「な……な、なんだ、これは!?」


 エドワード殿下の顔から、急速に血の気が引いていきます。


「映像は嘘を吐きませんわ。……マリアンヌ様。あなたが毒を購入したという薬師の証言も、既に入手済みです。あなたが『自作自演』のために購入した毒は、致死量には至らない、ただ腹痛を引き起こす程度の安物でしたわね?」


「ち、違うわ! これは捏造よ! 魔法で誰かが化けて……っ!」


「さらに申し上げましょうか? あなたがその毒をマントの裏に隠して、昨夜、エドワード殿下ではなく――隣国の工作員と密会していたことも、わたくしの隠密がすべて記録しております」


 映像が切り替わります。

 マリアンヌ様が、帝国の軍事機密が記された書状を、怪しげな男に手渡している場面。

 その男の首筋には、敵対国の紋章が刻まれていました。


「……マリアンヌ……お前……?」


 エドワード殿下の腕が、ガタガタと震え始めます。

 彼が「真実の愛」と信じ込み、私の代わりに王妃に据えようとしていた女は、ただの「愛に飢えた令嬢」ではなく、国を売ろうとしていた売国奴だった。


「殿下。あなたは『可愛げ』という目隠しをされ、敵国の手にこの国を差し出そうとなさった。……これこそが、不敬罪を通り越した『大逆罪』にあたるとは、思い至りませんでしたの?」


「う、嘘だ……嘘だ! 私が選んだ女性が、そんな……!」


「あら、まだ信じられなくて? では、とどめにこちらを差し上げますわ」


 私はリィンから受け取った、国王陛下の印章が押された一通の書状を高く掲げました。


「これは、昨夜のうちに陛下より賜った『婚約解消承認書』です。理由は――第一王子エドワードの無能による、国家安全保障上の危機。および、アシュバッハ公爵家への不当な貶め。……つまり殿下、あなたは今この瞬間をもって、わたくしの『婚約者』ですらありません」


 会場に、今日一番の静寂が訪れました。

 さっきまで私を罵っていた貴族たちが、蜘蛛の子を散らすようにエドワード殿下から距離を置きます。


 彼らが次に見たのは、エルゼ・フォン・アシュバッハという「被害者」ではなく、

 すべてを把握し、王すらも動かして、この場を支配している「真の強者」の姿でした。


「さて……ゴミ掃除の第一段階は終了ですわね」


 私は、崩れ落ちるように膝をついたエドワード殿下を見下ろし、冷たく微笑みました。


「ですが殿下。わたくしが怒っているのは、そんな些細な冤罪のことではなくてよ?」


「……な、何だと……?」


「わたくしがこの帝国に捧げてきた『知性と資産』。それを、あなたのような無能が『可愛げがない』の一言で切り捨てたこと……。その重みを、今から物理的に教えて差し上げますわ」


 私は空を見上げました。

 宮殿の天井、魔力を循環させている巨大な中枢。


「リィン。……アシュバッハの灯火を、すべて回収しなさい」


「御意に、エルゼ様」


 その瞬間。

 キィィィィィィン……という、耳鳴りのような高い音が会場に響き渡りました。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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