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『完璧すぎて可愛げがない』と婚約破棄されましたが、帝国の魔力供給・経済・外交を全て停止して隣国へ移住しますわ。――今更「戻ってきてくれ」? どこのどなたかしら?  作者: 桐谷ルナ
第2章 帝国買収編:元婚約者は炭鉱送りでしたかしら? ――北方の女帝による無慈悲な再開発計画

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第16話:計算通りですわ。貴国の国債、すべて買い占めておきましたの

レムス王国の王都、その黄金色に輝く議事堂。

 そこには、かつてないほどの緊張と、えた絶望が漂っていました。


「……何かの間違いだ! 我が国の国債が不渡りだと!? そんなはずがあるか! レムスは大陸随一の軍事大国なのだぞ!」


 円卓の中央で、ジュリアン王子が狂ったように叫びました。

 彼の前には、国内の主要銀行、そして周辺国の大商会から届いた「一斉回収通知」が山積みになっています。


「申し上げます! 我が国の軍事予算を支えていた『レムス王立債』……その六割を保有していた謎の投資組合が、今朝一斉に全額の早期償還を要求してきました! さらに、彼らは市場に保有分の国債を叩き売り、レムス通貨の値打ちは紙屑同然に暴落しております!」


「だ、誰だ……その投資組合の正体は誰なんだ!」


「……わたくしですわ、ジュリアン様」


 重厚な扉が左右に開き、真っ直ぐに伸びた赤い絨毯の上を、私がゆっくりと歩みを進めました。

 隣には、漆黒の礼装に身を包んだシグルド様。彼の放つ圧倒的な「強者」の気配に、居並ぶ大臣たちが次々と椅子から転げ落ちます。


「エ、エルゼ……!? 貴様、本当に……っ」


「あら。……『アシュバッハ国際投資組合』。名前くらいは、お聞きになったことがあったはずですけれど? ……もっとも、あなた様はマリアンヌ様という『安っぽい駒』を動かすことに夢中で、ご自身の足元がどれほど脆い氷の上にあるか、お気づきにならなかったようですわね」


 私は、ジュリアンの目の前で、一冊の「資産差し押さえ目録」を広げました。


「レムス王国が誇る新型魔導戦艦。……その動力源である『魔導機関』の特許は、昨日付でわたくしが買い取りました。……さらに、王都へ食糧を運ぶ全輸送ギルドの債権も、わたくしの手の中に。……今この瞬間、この国でわたくしの許可なく動かせるものは、あなた方の『無駄に回る舌』くらいですわ」


「な……な、なんだと……っ! そんなことが許されるはずがない! これは経済侵略だ!」


「侵略? ……心外ですわ。わたくしはただ、正当な市場取引を行っただけ。……あなたが帝国を内側から腐らせ、わたくしを追放に追い込んだ際、わたくしへの『慰謝料』として、貴国の未来を予約させていただいただけのことですもの」


 私は、扇子を閉じ、ジュリアンの喉元を指し示しました。


「ジュリアン様。……あなたはわたくしを『正妃にしてやる』とおっしゃいましたわね。……ふふ、笑わせてくださる。……債務超過で倒産寸前の会社の社長夫人に、誰が好んでなりたいと思いますの?」


「う、ぐ……っ」


「シグルド様。……この国の『清算価値』、おいくらでしたかしら?」


 シグルド様は、冷徹な笑みを浮かべ、手元の報告書を読み上げました。


「ああ。……土地、資源、人口。すべてを合算しても、君への負債の半分にも満たないよ、エルゼ。……差し当たって、この傲慢な王子が着ている贅沢な服と、その王冠を剥ぎ取って競売にかけるのが、最も効率的な『債権回収』の第一歩だろうね」


「左様でございますわね。……あ、そうだわ」


 私は、絶望に震えるジュリアンの耳元へ、死神の囁きのように声を寄せました。


「ジュリアン様。……あなた様がマリアンヌ様に持たせた『毒薬のリスト』。……あれ、わたくしがわざと流した『偽情報』だったことに、最後までお気づきにならなかったのね。……わたくしを嵌めたつもりが、実はわたくしの引いたレールの上で、自国の首を絞める準備をさせられていただけ。……これが、本物の『知略』というものですわ」


「あ……あ、ああ……あぁぁぁっ!!」


 ジュリアンは、椅子から滑り落ち、床を掻きむしりながら絶叫しました。

 自分が「天才」だと信じて疑わなかった自尊心が、エルゼ様という「真の怪物」の前に、粉々に砕け散った瞬間でした。


「さて……レムス王国の運営権も、シグルド様の『北方の龍の箱庭』に統合いたしましょう。……リィン、直ちに接収作業を開始しなさい。……逆らう者は、一人残らず経済的に抹殺して差し上げなさいね」


「御意に、エルゼ様」


 私は、一顧だにせず議事堂を後にしました。

 背後では、怒り狂った民衆が議事堂へ押し寄せ、無能な王族を糾弾する怒号が響き始めていました。


「……エルゼ。これで二つの国が、君の指先ひとつで消えたな」


 馬車の中で、シグルド様が私の腰を引き寄せ、慈しむように髪を撫でました。


「あら、シグルド様。……消えたのではありませんわ。……『正しい持ち主』のところへ、戻ってきただけですもの」


 私は、窓の外で崩壊していく旧世界の残骸を眺めながら、最高に優雅な気分でワインを口にしました。


 準備は、すべて整いましたわ。

 次は……わたくしたちを「悪役」と呼んだこの大陸すべてを、わたくしの計算式の中にひれ伏させて差し上げます。

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