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俺たちの本気バラエティ!

4回目の企画書

作者: 空腹原夢路
掲載日:2026/02/07

『お昼の校内放送の時間です。今日のBGMは──』


放送室のマイクに向かって、俺は原稿を読み上げる。


毎日同じ。決まった時間に、決まった挨拶をして、決まった曲を流す。


城戸玲、高校二年。放送部部長。


部長って言っても、やってることはBGM係だ。


放送が終わると、顧問の田村先生がニコニコしながら言った。


「城戸くん、今日の選曲いい感じだったね」


「ありがとうございます」


「落ち着いた雰囲気で、昼食の邪魔にならなくて良かったわ」


昼食の邪魔にならない。


それが、この放送部の方針だ。


「学校生活を邪魔しない、心地よいBGMを届ける」


田村先生が部員に言い続けている言葉。先輩たちもそれを忠実に守ってきた。


でもさ。


「先生、俺ちょっと思ったんですけど」


「なあに?」


「BGMって、誰も聴いてなくないですか?」


田村先生が目を丸くした。


「聴いてるわよ。心地よいBGMがあるから、みんなリラックスできるの」


「いや、それはそうなんですけど。もっとこう、みんなが『聴きたい』って思う放送にしたくないですか?」


「……城戸くん、また何か企んでるの?」


「企んでないですよ! ただ、ちょっとしたアイデアがあって」


「また今度ね。今日は片付けて」


話を逸らされた。


まあいい。今日じゃなくても、チャンスはある。



放課後、俺は友達の山本と学食でダベっていた。


「お前さ、まだ放送部で何かやろうとしてんの?」


山本がポテトをつまみながら言った。こいつは中学からの友達で、俺のバラエティ好きをよく知っている。


「当たり前じゃん。BGM流すだけとか、つまんねえもん」


「でも顧問がそういう方針なんだろ?」


「方針は変えられる。先生を説得すればいい」


「お前、そういうとこだけは自信あるよな」


「だって、人を説得するのは得意だし」


山本が呆れた顔をした。


「で、何やりたいの?」


「大喜利」


「大喜利?」


「そう。お題出して、生徒から回答募集して、面白いやつを放送で読む。シンプルだろ?」


「シンプルだけど……お前がMCやんの?」


「俺は読むだけ。面白いこと言うのは投稿してくれる奴ら」


「他力本願じゃん」


「他力本願じゃねえよ。俺は場を作る係。面白いことを言うのは、そういう才能がある奴に任せる。適材適所」


山本はポテトを口に放り込みながら、首を傾げた。


「お前、面白いこと言えないの自覚してんだ」


「うるせえ」


分かってる。俺には、笑いを生み出す才能がない。


中学の文化祭でコントやった時、痛感した。台本通りにやっても、空気が微妙だった。「まあまあ面白かったよ」って言われたのが一番キツかった。


でも、諦められない。


バラエティが好きなんだ。人が笑ってる空間が好きなんだ。


だから、俺は「場を作る側」になる。


「まあ、頑張れよ」


「おう。見てろって」



次の日、俺は田村先生のところに行った。


「先生、ちょっといいですか?」


「なあに、城戸くん」


「これ、企画書です」


A4用紙一枚。『校内放送・大喜利コーナー新設の提案』。


田村先生は受け取って、ざっと目を通した。


「大喜利コーナー……」


「週一で、昼の放送でやりたいんです。お題出して、生徒から投稿募集して、面白いやつを読み上げる」


「うーん……」


「金かかんないし、俺が全部やります。先生の手間は増えません」


「それはありがたいけど……」


田村先生は困った顔をした。


「ちょっとリスクがあるんじゃない?不適切な回答が来たらどうするの?」


「事前にチェックします」


「下ネタとか、誰かを傷つける内容とか」


「読みません。俺がフィルターになります」


「でも、保護者からクレームが来たら……」


「大丈夫ですよ。笑いは人を幸せにするんです」


田村先生は苦笑した。


「城戸くんの情熱は分かるんだけど……ごめんね、今回は見送りましょう」


却下。


まあ、予想通りだ。一回で通るとは思ってない。


「分かりました。また来ます」


「え?」


「企画書、直してまた持ってきます」


俺はニッコリ笑って、放送室を出た。



その日の夜、俺は自分の部屋でテレビを見ていた。


ゴールデンタイムのバラエティ番組。MCはベテランの芸人。ゲストは旬の俳優。


「……あー、もったいねえ」


俺は思わず声に出した。


ゲストの俳優がエピソードトーク始めたのに、MCが途中で遮った。せっかく面白くなりそうだったのに。


この俳優、喋り慣れてる。最後まで任せても大丈夫なタイプだ。MCが余計なことしなければ、もっと盛り上がったのに。


こういうのが分かるんだよな、俺。


誰がMC向きか。誰がボケ担当か。誰がいじられて輝くか。


見てると、なんとなく分かる。


でも、分かるだけだ。


俺自身が面白いことをできるわけじゃない。


だから、場を作るしかない。面白い奴らが輝ける場を。


……校内放送の大喜利、絶対やりたいな。


俺はベッドに寝転がって、天井を見上げた。


田村先生、何を気にしてたっけ。


不適切な回答のリスク。保護者からのクレーム。


要するに、「何か問題が起きたら困る」ってことだ。


じゃあ、問題が起きない仕組みを作ればいい。


いや、待て。


仕組みを作っても、田村先生は納得しないかもしれない。


あの人が本当に気にしてるのは、「リスク」じゃなくて「責任」だ。


何か起きた時に、自分が責任を取らなきゃいけない。それが嫌なんだ。


じゃあ、責任を俺が全部被ればいい。


「俺が全部やります。何かあったら俺の責任です」


……これで押してみるか。



翌週、俺は田村先生に二回目の企画書を持っていった。


「先生、企画書直してきました」


「早いわね……」


田村先生は企画書を受け取った。


今回は、「責任の所在」を明確にした。不適切な回答があった場合の対応手順。問題が起きた時の責任は全て城戸が負う。


「……城戸くん、気持ちは分かるんだけど」


「何かあったら俺の責任です。先生には迷惑かけません」


「そういう問題じゃないのよ」


「え?」


「そもそも、大喜利って必要かしら?」


来た。本丸だ。


「校内放送の役割って、学校生活のサポートでしょう? 連絡事項を伝えたり、BGMを流したり。大喜利は、その役割から外れてない?」


「……」


「楽しいコンテンツは、文化祭でやればいいのよ」


正論だ。


校内放送は「サポート」。大喜利は「娯楽」。確かに、役割が違う。


「……分かりました」


俺は引き下がった。


でも、諦めたわけじゃない。



その日の放課後、俺は放送部の先輩、三年の木下先輩のところに行った。


「先輩、ちょっと相談があるんですけど」


「おう、なんだ城戸」


木下先輩は去年まで部長だった人だ。田村先生との付き合いも長い。


「田村先生って、どうやったら説得できますかね」


「何を企んでんだお前」


「大喜利コーナーやりたいんです。でも、『校内放送の役割から外れてる』って言われて」


木下先輩は腕を組んで考えた。


「あー、田村先生な。あの人、『役割』とか『意義』とか好きだからな」


「ですよね」


「逆に言えば、『意義』があれば通るんじゃね?」


「意義……」


「大喜利が学校生活に役立つ理由。それを説明できれば、田村先生も納得するかもな」


なるほど。


大喜利が「サポート」になる理由か。


「あと、田村先生、生徒が楽しんでるの見るの好きだぞ。文化祭の時とか、すげえ嬉しそうにしてたし」


「そうなんですか?」


「ああ。だから、『生徒のため』ってアングルで攻めるといいかもな」


「……ありがとうございます、先輩」


俺は放送室に戻って、企画書を書き直した。



三回目。


「先生、また来ました」


「城戸くん……本当にしつこいわね」


田村先生は呆れ顔だ。でも、嫌そうじゃない。


「今回は『目的』を書き足しました」


企画書の冒頭。


『目的:昼休みの息抜きコンテンツとして、生徒の午後の学習効率向上をサポートする』


「息抜きのサポート……?」


「勉強ばっかりじゃ疲れるじゃないですか。昼休みに笑って、リフレッシュして、午後の授業に集中する。大喜利はそのサポートになると思うんです」


田村先生は企画書を見つめている。


「……なるほどね。意義としては分かったわ」


お、いい反応だ。


「でも、やっぱり心配なのよね」


「何がですか?」


「失敗した時のこと。投稿が全然来なかったら? 面白い回答がなくて、滑ったら?」


「…………」


「『あのコーナー、寒いよね』って言われたら、放送部全体の評判に関わるでしょう?」


確かに、その通りだ。成功する保証はない。


「……それは、やってみないと分からないんじゃないですか?」


「だから慎重になってるのよ」


田村先生は企画書を俺に返した。


「もう少し考えさせて」


三回目──保留。


却下じゃない。でも、OKでもない。


あと一押しだ。あと一押しで通る気がする。



その日の夜、俺はベッドに寝転がって考えた。


田村先生が気にしてるのは「失敗のリスク」だ。


投稿が来ない。面白くない。滑る。


でも、それって最初から完璧を目指すから怖いんだよな。


……そうだ。


最初から「お試し」って言えばいいんだ。


失敗したら打ち切り。それでいい。最初からそういう条件にすれば、先生も気が楽になるんじゃないか?



四回目。


「先生、また来ました」


「城戸くん……もうこれで最後にしてよね」


「今回はお願いがあります」


「お願い?」


「お試し期間をください。反応が悪かったら、すぐ打ち切りでいいです。でも、一旦やらせてください」


「…………」


「失敗したら俺の責任です。先生には迷惑かけません。だから、チャンスだけください」


田村先生は黙っている。


俺は続けた。


「生徒が楽しんでくれたら、先生も嬉しくないですか?」


田村先生がちょっと笑った。


「城戸くんって、そういうとこ抜け目ないわよね」


「褒め言葉として受け取っときます」


「褒めてないわよ」


でも、田村先生の表情は柔らかくなっている。


「……分かったわ。お試しでやってみましょう」


「マジですか!?」


「ただし、反応が悪かったら即打ち切り。いいわね?」


「はい! ありがとうございます!」


俺は思わずガッツポーズした。


四回目で通った。やっぱり諦めなくて良かった。


で、意気揚々と始めた大喜利コーナーだったんだけど。


最初の週、投稿ボックスに入ってたのは三通。


しかも、二通は下ネタで読めない。残りの一通は「わかりません」って書いてあった。ふざけてんのか。


仕方ないから、俺が自分で考えた回答を読んだ。


反応は、無。


誰も聴いてない。廊下歩いても、誰も校内放送の話してない。


「やべえな……」


二週目。投稿は五通。でも、面白いのはない。


三週目。四通。相変わらず微妙。


このままじゃ打ち切られる。


「山本ー、お前も投稿してくれよー」


「嫌だよ、俺面白くねえし」


「じゃあ誰か面白い奴紹介してくれよ」


「知らねえよそんな奴」


ダメだ。面白い回答が集まらない。

なんで投稿が来ないんだ?


お題が悪い?俺の読み方が悪い?


……いや、違う。


投稿するハードルが高いんだ。


名前を書いて投稿するってことは、「面白いことを言った奴」として名前が出る。それって、目立ちたくない奴にはキツいよな。


変なこと書いて、「あいつ寒い」って思われたくないもんな。


俺は投稿用紙のフォーマットを変えた。


名前欄を「ラジオネーム」に変更。本名じゃなくていい。匿名でOK。


これで投稿のハードルが下がるはずだ。



翌週。


俺は投稿ボックスを開けた。


少し増えてる。八通。


でも、内容は相変わらず微妙……


ん?


一通だけ、違うのがあった。


ラジオネーム「キラーUMA」。


お題は「こんな体育教師は嫌だ」。


回答。「ランニング中、生徒を追い抜きながら『これが俺との差だ』と言ってくる」


俺は吹き出した。


なにこれ、めっちゃ面白い。


体育教師が本気で走って、生徒を抜き去る。振り返って真顔で「これが俺との差だ」。大人げないけど、うちの教師とか絶妙にやりそうなんだよな。


他の投稿とは明らかにレベルが違う。


俺は急いで放送で読み上げた。


『今週のベスト回答!ラジオネーム「キラーUMA」さん!』


読みながら、また笑いそうになった。


放送後、廊下を歩いてたら、聞こえた。


「今日の放送、面白くなかった?」


「キラーなんとかってやつ?」


「そうそう、体育教師の。ウケた」


聴いてる奴がいる。


俺は心臓がドクンと跳ねた。


これだ。面白い回答があれば、聴いてくれる奴がいる。


キラーUMA。


こいつ、誰だ。



翌週も、キラーUMAから投稿があった。


その次の週も。その次も。


毎週、確実に面白い回答を送ってくる。ハズレがない。お題に合わせて方向性も変えてくる。


大喜利コーナーは、田村先生から正式に継続OKをもらった。


「反応いいみたいね。他の先生からも褒められたわよ」


「そうですか?いやー、俺の企画力のおかげですね」


「……あなた、図々しいわね。投稿した生徒が面白いだけじゃない」


図々しいかもしれない。でも、事実だ。


いや、違うな。


このコーナーが成り立ってるのは、キラーUMAのおかげだ。


俺が企画を作っても、面白い回答がなければ意味がない。キラーUMAが毎週面白いネタを送ってくれるから、コーナーとして成立してる。


俺は投稿用紙を見た。


「二年、ラジオネーム『キラーUMA』」


学年は同じ。二年生。


二年に、こんな面白い奴がいるのか。


会いたい。


こいつと組めれば、もっと面白いことができる。


俺の「人を見る力」と、こいつの「笑いを作る力」。


合わせたら、最強じゃないか?


キラーUMA。


キラー……UMA……。


ユーマ?名前がユウマってことか?


いや、考えてもしょうがない。直接探した方が早い。


俺は立ち上がった。


放送室を出て、二年の教室に向かう。


「なあ、二年で『ゆうま』って名前の奴、知ってる?」


知り合い片っ端から聞いて回る。


絶対見つけてやる。


こいつと組んで、もっとでかいことやりたい。


校内放送なんかじゃ収まらない。もっと大きな場所で。


俺の頭の中には、もう次の企画が浮かび始めていた。

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