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泉都の物語 癒

ーーおお

 広がる景色に思わず感嘆の息を漏らすカンナ

 目前に広がるのは、霧の立ち込める温泉街、至る所から湯気が上がり、温泉独特の匂いがツンと鼻孔を刺激する。

 街ですれ違う人たちは皆浴衣を羽織り、温泉に入ったことで頬を赤らめている。鹿人随一の癒しの街の名の通り、皆が表情を崩し幸せそうだった。

 そんな人たちですら、カンナとすれ違う時は顔を強張らせ、腰低くお辞儀をする。

 これがどうにも過ごし辛い、せっかく二人で温泉街を楽しみに来たのに、とても申し訳い気持ちになってしまう。

「そのうち慣れるよ」

 カンナの心情を察して、シズクが慰めの言葉をかけてくれるが、自分は一生慣れる気がしない。

 昨日もそうだ、本来はカンナとは縁のない人たちが、皆カンナに対し腰を低くし、最大限の経緯を払う、ただの村娘から始まり、水都の商人との縁談、そのあと奴隷になり、神の花嫁になる。この数か月で随分な出世である。

 それが良かったのか悪かったのかは今はわからない、少なくとも、ここに来るまでに自分は汚れすぎた、温泉にいくら入ろうとも決して流しきれないほどの穢れが。


 ーーまた.....

 最近はそう、少し前までは考える余裕さえなかったが、ここ数日は随分と落ち着いている、そのせいで考える余裕ができて不要なことをよく考える。

 せっかくシズクと二人であの居ずらい屋敷を抜け出してきたのに、これでは意味がない。

 また落ちる、ネガティブな感情に際限は無い、経てば経つほど自分の心を苛んでいく。

 そんなことを考えているよ、突如唇に柔らかいのもが押しつけられる。

 感覚を現実に戻し、柔らかいものの正体を認識すると、それは、温泉のマークがついた白いお饅頭だった。

「カンナまた変なこと考えてたでしょ、はい、これ、さっき屋台で買ってきたの、温泉饅頭だって。甘いもの食べてすっきりしよ」

 一口サイズに作られた温泉饅頭をシズクから食べさせてもらう。

 すこしもっちりとした皮の中には、大粒の粒餡、噛むとぷつりとつぶれ、口の中に甘味が広がる。その割には甘すぎず、皮に練りこまれた塩味が、餡子も甘さをすっきりさせてくれる。

 野外で作られるため温泉の匂いが微かについた饅頭は絶品だった。

「おいひい」

「よかった、よかった」

 こころなしか、カンナに食べさせた側のシズクも幸せそうだ。


 温泉饅頭で頭をすっきりさせた後は、昨晩女中におすすめされた温泉に向かう。

 教えてくれた女中によると、ここの温泉の売りは椿露天風呂で、温泉の中には椿の花が敷き詰められ、花の香りを楽しみながら、お酒を楽しむことができるそうな。

 お酒に関しては、あまり嗜むことのすくないカンナだが、椿風呂というのはとても興味がそそられた。

 そもそも金持ちならともかく、普通の民家に、お風呂など無い、人が入る分のお湯を沸かすにはそれなりの量力が掛かり、召使を雇える程の家でなければ、お風呂は入れず、水洗いが基本である。

カンナも今までの人生で生きてきて、お風呂というものに入ったのはただの一度きり、両親に連れられて大きな街にいった時に入っただけ。あの芯まで温まるような入浴はとても気持ちがよく、あれ以来お風呂には入っていないので少し恋しく感じていた。

 そのことを昨日領主に話すと、カンナたちの為に貸し切りにしてくれると言っていたが、流石に申し訳なかったので断った。


 そうして、シズクとの会話を弾ませながら石作りの道を歩くこと半刻、街のはずれにある温泉についた、看板のは『香花』と彫られ、建物も歴史を感じさせる古風な作りだった。

 赤を基調とした水都の建築になぞらえて作られた建物は、街のはずれにありながらも存在感を放つ。

建物の中からは賑わう声が聞こえ、とても繁盛しているように見える。

 カンナも楽しみになり、さっそく店の扉を開けるが、カンナが店内に入った途端に訪れるのは長い静寂、皆が一斉に時を止め、カンナを見つめる。

 ーーまただ......

高揚していた気分が、一気に下がるのを感じる。

 ふてくされているカンナを他所に、つきあたりの階段からものすごい音を立てて、恰幅のいい女性が駆け下りてくる。

 恰幅のいい女性は、カンナの前で跪き、カンナに対し質問する

「これはこれは、カンナ様、この度は当温泉になにか御用でしょうか?」

「...えっと、昨日ここをお勧めされたから、温泉に入りに来たんだけど」

「そうでございましたか!、それではすぐに準備させていただきます1」

 そう言うとまたどこかへと凄い音を立てて走り去ってしまった。

 カンナはすでに投げやり状態になり、半ば諦めかけていた。


 




 「............」

  シズクがジーと自分の体を凝視してくるものだから、カンナは思わず頬を赤らめる。お互いに衣服を脱いで裸ているせいで、かなり寒い。それでも、シズクはカンナの体を凝視したまま動かない。カンナはすでに羞恥の限界だった。

「あの、シズク、そんなにジロジロみられると恥ずかしいんだけど.....」

「..........」

「ねえ、シズ...」

「傷」

「あっ....」

「傷、すごく増えてる」

「.....それは」

 脱衣所のタオルを体に巻いて、シズクから傷を見えないように取り繕うが、すでに手遅れ。

「その傷、きえないんだね」

「うん.....」

 それは、数か月にわたってつけられた拷問の痕、首から下はそれはそれは酷いものだった。背中には刃物でつけられたような一文字の深い傷があり、体のところどころは赤黒く変色していた。普通に生きていては決して付けられることのない生生しい傷たち、それを見るだけでシズクにはカンナがどれ程の苦しみの中にあったかは、容易に想像が付く。

 対して自分の体はどうか、カンナに庇われ、傷一つないきめ細やかな肌。自分の分の傷までカンナに押し付けてしまっている自分に腹がたって仕方がなかった。

「カンナ、私、責任とるから」

「え?責任ってなんの?」

「全部カンナに押し付けた責任」

「それは、私が勝手にしたことだよ、シズクが責任とる必要なんてないよ」

「ううん、私の責任、だから、もし、カンナが誰のものにもならなくても、私はずっとそばにいるから」

 最後まで一緒にいてくれる、その言葉に思わず涙しそうになったが、ここで大事なことを思い出す。

「でも、シズク、私、すでに『ハク』の....」

「そいつの名前をださないで」

「はい」

 万物を射殺さんとする目でにらまれて、口の噤む。普段のおひとやかシズクからは考えられない程の覇気に、自分に向けられたものではないとわかっていてもたじろいでしまう。

「...あいつは、いつか....」

 全鹿人の神に対して何やら不吉な言葉が聞こえたきがしたが、カンナは何も聞かなかったことにした。これ以上はシズクの琴線にふれそうだったからだ。


 一悶着はありはしたが、カンナたちは無事に露天風呂の扉を開る。

 「「わぁ」」

 二人の声が重なる。

 目の前に広がる光景に二人は目を光らせる。床下が見える程に、信じられないぐらい透明な温泉、そこに散りばめられた紅の椿、温泉と花の香りが入交り、所どころには机と傘が配置されており、ほかの鹿人たちも湯舟につかりながら昼酌を楽しんでいた。

 街のお風呂などくらべものにならない温泉に感動するカンナとシズク、花の香りの包まれながら温泉に浸かると、体の芯まで癒されるよう、それこそ、体が溶け出し、湯舟と一体になるような感覚に、すこし酩酊する。

 まだ日は上りきっておらず、今日はまだ早いというのに、昼酌を嗜む人が大勢いるのもわかるきがする。少しだけ脳の理性が落ち、皆で心おきなく過ごせる場所には、酔いというものが欲しくなる。

 せっかくなのでカンナたちも、お酒を飲むことにした。

 

 豪華な陶器に入れられて運ばれてきたお酒は、ここの温泉に勝るとも劣らない程の透明度を持つそれはそれは美しい酒だった。

 トーおお

 広がる景色に思わず感嘆の息を漏らすカンナ

 目前に広がるのは、霧の立ち込める温泉街、至る所から湯気が上がり、温泉独特の匂いがツンと鼻孔を刺激する。

 街ですれ違う人たちは皆浴衣を羽織り、温泉に入ったことで頬を赤らめている。鹿人随一の癒しの街の名の通り、皆が表情を崩し幸せそうだった。

 そんな人たちですら、カンナとすれ違う時は顔を強張らせ、腰低くお辞儀をする。

 これがどうにも過ごし辛い、せっかく二人で温泉街を楽しみに来たのに、とても申し訳い気持ちになってしまう。

「そのうち慣れるよ」

 カンナの心情を察して、シズクが慰めの言葉をかけてくれるが、自分は一生慣れる気がしない。

 昨日もそうだ、本来はカンナとは縁のない人たちが、皆カンナに対し腰を低くし、最大限の経緯を払う、ただの村娘から始まり、水都の商人との縁談、そのあと奴隷になり、神の花嫁になる。この数か月で随分な出世である。

 それが良かったのか悪かったのかは今はわからない、少なくとも、ここに来るまでに自分は汚れすぎた、温泉にいくら入ろうとも決して流しきれないほどの穢れが。


 ーーまた.....

 最近はそう、少し前までは考える余裕さえなかったが、ここ数日は随分と落ち着いている、そのせいで考える余裕ができて不要なことをよく考える。

 せっかくシズクと二人であの居ずらい屋敷を抜け出してきたのに、これでは意味がない。

 また落ちる、ネガティブな感情に際限は無い、経てば経つほど自分の心を苛んでいく。

 そんなことを考えているよ、突如唇に柔らかいのもが押しつけられる。

 感覚を現実に戻し、柔らかいものの正体を認識すると、それは、温泉のマークがついた白いお饅頭だった。

「カンナまた変なこと考えてたでしょ、はい、これ、さっき屋台で買ってきたの、温泉饅頭だって。甘いもの食べてすっきりしよ」

 一口サイズに作られた温泉饅頭をシズクから食べさせてもらう。

 すこしもっちりとした皮の中には、大粒の粒餡、噛むとぷつりとつぶれ、口の中に甘味が広がる。その割には甘すぎず、皮に練りこまれた塩味が、餡子も甘さをすっきりさせてくれる。

 野外で作られるため温泉の匂いが微かについた饅頭は絶品だった。

「おいひい」

「よかった、よかった」

 こころなしか、カンナに食べさせた側のシズクも幸せそうだ。


 温泉饅頭で頭をすっきりさせた後は、昨晩女中におすすめされた温泉に向かう。

 教えてくれた女中によると、ここの温泉の売りは椿露天風呂で、温泉の中には椿の花が敷き詰められ、花の香りを楽しみながら、お酒を楽しむことができるそうな。

 お酒に関しては、あまり嗜むことのすくないカンナだが、椿風呂というのはとても興味がそそられた。

 そもそも金持ちならともかく、普通の民家に、お風呂など無い、人が入る分のお湯を沸かすにはそれなりの量力が掛かり、召使を雇える程の家でなければ、お風呂は入れず、水洗いが基本である。

カンナも今までの人生で生きてきて、お風呂というものに入ったのはただの一度きり、両親に連れられて大きな街にいった時に入っただけ。あの芯まで温まるような入浴はとても気持ちがよく、あれ以来お風呂には入っていないので少し恋しく感じていた。

 そのことを昨日領主に話すと、カンナたちの為に貸し切りにしてくれると言っていたが、流石に申し訳なかったので断った。


 そうして、シズクとの会話を弾ませながら石作りの道を歩くこと半刻、街のはずれにある温泉についた、看板のは『香花』と彫られ、建物も歴史を感じさせる古風な作りだった。

 赤を基調とした水都の建築になぞらえて作られた建物は、街のはずれにありながらも存在感を放つ。

建物の中からは賑わう声が聞こえ、とても繁盛しているように見える。

 カンナも楽しみになり、さっそく店の扉を開けるが、カンナが店内に入った途端に訪れるのは長い静寂、皆が一斉に時を止め、カンナを見つめる。

 ーーまただ......

高揚していた気分が、一気に下がるのを感じる。

 ふてくされているカンナを他所に、つきあたりの階段からものすごい音を立てて、恰幅のいい女性が駆け下りてくる。

 恰幅のいい女性は、カンナの前で跪き、カンナに対し質問する

「これはこれは、カンナ様、この度は当温泉になにか御用でしょうか?」

「...えっと、昨日ここをお勧めされたから、温泉に入りに来たんだけど」

「そうでございましたか!、それではすぐに準備させていただきます1」

 そう言うとまたどこかへと凄い音を立てて走り去ってしまった。

 カンナはすでに投げやり状態になり、半ば諦めかけていた。


 




 「............」

  シズクがジーと自分の体を凝視してくるものだから、カンナは思わず頬を赤らめる。お互いに衣服を脱いで裸ているせいで、かなり寒い。それでも、シズクはカンナの体を凝視したまま動かない。カンナはすでに羞恥の限界だった。

「あの、シズク、そんなにジロジロみられると恥ずかしいんだけど.....」

「..........」

「ねえ、シズ...」

「傷」

「あっ....」

「傷、すごく増えてる」

「.....それは」

 脱衣所のタオルを体に巻いて、シズクから傷を見えないように取り繕うが、すでに手遅れ。

「その傷、きえないんだね」

「うん.....」

 それは、数か月にわたってつけられた拷問の痕、首から下はそれはそれは酷いものだった。背中には刃物でつけられたような一文字の深い傷があり、体のところどころは赤黒く変色していた。普通に生きていては決して付けられることのない生生しい傷たち、それを見るだけでシズクにはカンナがどれ程の苦しみの中にあったかは、容易に想像が付く。

 対して自分の体はどうか、カンナに庇われ、傷一つないきめ細やかな肌。自分の分の傷までカンナに押し付けてしまっている自分に腹がたって仕方がなかった。

「カンナ、私、責任とるから」

「え?責任ってなんの?」

「全部カンナに押し付けた責任」

「それは、私が勝手にしたことだよ、シズクが責任とる必要なんてないよ」

「ううん、私の責任、だから、もし、カンナが誰のものにもならなくても、私はずっとそばにいるから」

 最後まで一緒にいてくれる、その言葉に思わず涙しそうになったが、ここで大事なことを思い出す。

「でも、シズク、私、すでに『ハク』の....」

「そいつの名前をださないで」

「はい」

 万物を射殺さんとする目でにらまれて、口の噤む。普段のおひとやかシズクからは考えられない程の覇気に、自分に向けられたものではないとわかっていてもたじろいでしまう。

「...あいつは、いつか....」

 全鹿人の神に対して何やら不吉な言葉が聞こえたきがしたが、カンナは何も聞かなかったことにした。これ以上はシズクの琴線にふれそうだったからだ。


 一悶着はありはしたが、カンナたちは無事に露天風呂の扉を開る。

 「「わぁ」」

 二人の声が重なる。

 目の前に広がる光景に二人は目を光らせる。床下が見える程に、信じられないぐらい透明な温泉、そこに散りばめられた紅の椿、温泉と花の香りが入交り、所どころには机と傘が配置されており、ほかの鹿人たちも湯舟につかりながら昼酌を楽しんでいた。

 街のお風呂などくらべものにならない温泉に感動するカンナとシズク、花の香りの包まれながら温泉に浸かると、体の芯まで癒されるよう、それこそ、体が溶け出し、湯舟と一体になるような感覚に、すこし酩酊する。

 まだ日は上りきっておらず、今日はまだ早いというのに、昼酌を嗜む人が大勢いるのもわかるきがする。少しだけ脳の理性が落ち、皆で心おきなく過ごせる場所には、酔いというものが欲しくなる。

 せっかくなのでカンナたちも、お酒を飲むことにした。

 

 豪華な陶器に入れられて運ばれてきたお酒は、ここの温泉に勝るとも劣らない程の透明度を持つそれはそれは美しい酒だった。

 豊賀という名前の、果実味のある香りが特徴なのだと、持ってきてくれた従業員が言っていた。

 確かに、麝香葡萄の様な香りのするお酒で、すっきりとした甘みがあった。

 シズクと乾杯をして口に含むと、葡萄酒の様な甘やかな味わいで、透き通るようなくちどけだった。

 

その後も、二人で酒を飲みかわし、会話を楽しむ。

 それが終わりを告げたのは、シズクがのぼせてしまい、倒れてしまった時だった。この時、既に時刻が15時をすぎていた。

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