泉都の物語 登
泉都トウジロウ、地下から湧き出る天然温泉が売りの、観光地。お偉い方にも人気のある有名な湯治街は今、かつてない程の大歓声に見舞われていた。
カンナたちはとうとう泉都トウジロウの城門の前へとたどり着く。温泉地ならではの硫黄の香りを、あちこちからあがる白い湯煙。
村から出ることの少なかったカンナはともかく、商人の娘であるシズクや、領主の娘であるスザクも、感嘆のため息を漏らしていた。
「カンナ!温泉地だよ温泉地!ねぇちょっとだけここでゆっくりしてこうよ」
特にスズメの興奮ぐわいは異常だった、まだ13ということもあるが、城壁の中から漂う賑わいに、興奮冷めやまぬ様子だった。
スズメは、ここ数日で、かなり元気を取り戻していた。きっと、今の状態が素なのだろう。カンナには少し手のかかる妹ができた感じだった。
「いいんじゃない、カンナ、ここまでの長旅でみんな疲れてるし、ここで休息しても」
「そうだね、じゃあゆっくりしようか」
次はスズメ以外の少女たちからも歓声が上がる。ここまできってやっと緊張の糸が途切れたようで、彼女たちに本来の明るさが戻る。
それに、なんだかんだで初めて見る温泉地、カンナも少しだけ楽しみにしていた。人間の街にいたときをは別、みな思い思いの楽しみを見出しながら、泉都トウジロウに入る。
泉都トウジロウに入ったカンナの目前には、両手を地面に付き平服の姿勢をとる領主の姿があった。
ーーなんで?
カンナは今の状況に戸惑いを隠せないでいた。彼はこの街の領主、この場において最も権力を持つ彼が、ただの村娘の前で地面に手を付き、自分から放たれる言葉を待っていた。
いや、地面に手を付き平服しているのは彼だけではない、少なくともカンナの見渡す限りの鹿人たちが、身分、年関係なくカンナを前にしてひれ伏している。
先ほどまで、活気を見せ、城門の外まで賑わう声が響いていた泉都は、今、静寂に満ちていた。聞こえるのは、温泉の流れる微かな水音と、優美な風の靡く音だけ。
この状況に動揺を隠せないカンナも、驚きのあまり言葉を発しなかったので、この静寂は一向に終わらない。
一言も言葉を発しないカンナを見かね、領主はおそるおそる言葉を発する。
「あの、貴女様は、『ハク』様の”番”であらせられる、カンナ様で間違いないでしょうか?」
「そうだけど」
「おお!やはり!生きている内に”番”様にお会いすことができるとは、私はなんと幸福なのでしょう!」
ーーええ.......
正直ドン引きではあるが、彼のとの会話の後で、後ろに控える民の姿勢がより低くなったのをみると、彼の言っていることは間違いではないのだろう。
「水都からの伝令で、こちらに神鹿の番様がいらっしゃると聞いて、かねてより待ち望んでおりました。歓迎の準備もしております、さあ、お連れ様と共に、私の屋敷へ、是非お越しくださいませ」
ここまで歓迎の意を示されては、さすがに断るのも申し訳なかったので彼に付いていくことにしたが、カンナの顔は少し暗い、他の少女たちも、先ほどの歓喜どこへやら、緊張で身を縮めていた。この状況で平常な物など、元々高貴な生まれのスザクぐらいである。
「つかれたー」
神鹿と契約し、驚異的な身体能力を手に入れたはずなのだが、すでに動けないぐらいにぐったりしていた。
「お疲れさま、カンナ。大変だったね」
そう言って、シズクが茶をもって泉都トウジロウ、地下から湧き出る天然温泉が売りの、観光地。お偉い方にも人気のある有名な湯治街は今、かつてない程の大歓声に見舞われていた。
カンナたちはとうとう泉都トウジロウの城門の前へとたどり着く。温泉地ならではの硫黄の香りを、あちこちからあがる白い湯煙。
村から出ることの少なかったカンナはともかく、商人の娘であるシズクや、領主の娘であるスザクも、感嘆のため息を漏らしていた。
「カンナ!温泉地だよ温泉地!ねぇちょっとだけここでゆっくりしてこうよ」
特にスズメの興奮ぐわいは異常だった、まだ13ということもあるが、城壁の中から漂う賑わいに、興奮冷めやまぬ様子だった。
スズメは、ここ数日で、かなり元気を取り戻していた。きっと、今の状態が素なのだろう。カンナには少し手のかかる妹ができた感じだった。
「いいんじゃない、カンナ、ここまでの長旅でみんな疲れてるし、ここで休息しても」
「そうだね、じゃあゆっくりしようか」
次はスズメ以外の少女たちからも歓声が上がる。ここまできってやっと緊張の糸が途切れたようで、彼女たちに本来の明るさが戻る。
それに、なんだかんだで初めて見る温泉地、カンナも少しだけ楽しみにしていた。人間の街にいたときをは別、みな思い思いの楽しみを見出しながら、泉都トウジロウに入る。
泉都トウジロウに入ったカンナの目前には、両手を地面に付き平服の姿勢をとる領主の姿があった。
ーーなんで?
カンナは今の状況に戸惑いを隠せないでいた。彼はこの街の領主、この場において最も権力を持つ彼が、ただの村娘の前で地面に手を付き、自分から放たれる言葉を待っていた。
いや、地面に手を付き平服しているのは彼だけではない、少なくともカンナの見渡す限りの鹿人たちが、身分、年関係なくカンナを前にしてひれ伏している。
先ほどまで、活気を見せ、城門の外まで賑わう声が響いていた泉都は、今、静寂に満ちていた。聞こえるのは、温泉の流れる微かな水音と、優美な風の靡く音だけ。
この状況に動揺を隠せないカンナも、驚きのあまり言葉を発しなかったので、この静寂は一向に終わらない。
一言も言葉を発しないカンナを見かね、領主はおそるおそる言葉を発する。
「あの、貴女様は、『ハク』様の”番”であらせられる、カンナ様で間違いないでしょうか?」
「そうだけど」
「おお!やはり!生きている内に”番”様にお会いすことができるとは、私はなんと幸福なのでしょう!」
ーーええ.......
正直ドン引きではあるが、彼のとの会話の後で、後ろに控える民の姿勢がより低くなったのをみると、彼の言っていることは間違いではないのだろう。
「水都からの伝令で、こちらに神鹿の番様がいらっしゃると聞いて、かねてより待ち望んでおりました。歓迎の準備もしております、さあ、お連れ様と共に、私の屋敷へ、是非お越しくださいませ」
ここまで歓迎の意を示されては、さすがに断るのも申し訳なかったので彼に付いていくことにしたが、カンナの顔は少し暗い、他の少女たちも、先ほどの歓喜どこへやら、緊張で身を縮めていた。この状況で平常な物など、元々高貴な生まれのスザクぐらいである。
「つかれたー」
神鹿と契約し、驚異的な身体能力を手に入れたはずなのだが、すでに動けないぐらいにぐったりしていた。
「お疲れさま、カンナ。大変だったね」
そう言って、シズクが抹茶を入れて持ってきてくれた。
「ほんとに大変だったよ」
事実、カンナが解放されたのは、日が沈んでからしばらくたった後である。屋敷に招待されたカンナを待っていたのは歓迎とは名ばかりの拷問、会食立ち並ぶ大広間でこの街に来ていたお偉い方、挙句の果てには、カンナの噂を聞きつけた近くの街の領主までが”番”の姿をお目にかかろうと駆け付ける始末である。
そんなお偉い方と、挨拶と、しばらくの間団欒を交わし、おわったらまた次へ、次への繰り返し。それがやっと終わったのは先程。
休憩室には、シズクとカンナの二人だけで、他の少女たちはとっとと観光に行ってしまった。領主自身も、用があるのはカンナだけだったので、 女中を付けさせて、送ってしまった。スズメたちは温泉に、スザクは鍛冶屋に行くといって、面倒事はすべてカンナに押し付けた、唯一残ってくれたのはシズクぐらいなものである。
そのシズクも、カンナの連れということで、先ほどまで一緒にお偉い方の対応に回っていた。
それでも、シズクはある程度こういうことに慣れているのか、終わった後も平気な顔で、カンナの為に抹茶を入れてくれた。
抹茶からは青々とした、少しナッツ風味のある香りが漂い、口に含むと、程よい苦みを甘味があり、とても美味しかった。
「なんか、落ち着くね、こうしてると昔に戻ったみたい」
「そうだね、最近は二人きりなんてなかったし」
そう言って、さらにお互いの距離を縮める。吐息させ聞こえてきそうな程、距離を密着させ、体温を感じ取る。
カンナを生贄に観光を楽しむ少女たちに若干の恨めしさは感じながらも、シズクと二人だけの時間を堪能する。自然とシズクの手を握り、二人して畳の上に寝転がる。 これまでの疲れが、一気に二人を襲う。
こんなにも近くにいるのに、お互いからは一言も言葉を発せられない。それでも、お互いの繋がる手を通じて自分の考えが伝わる。
今、カンナもシズクも、これまでの思い出の再生を行っていた、二人の出会いからここまでの旅路まで、つながりあう夢の様に、お互いに同じ映像を映し出す。
そして、意識は現在に戻る。辛いことも沢山あった、なんど死んでしまいたいと思ったことが、それでも今はこうして、二人無事でいる。
お互いに試練を乗り越え、さらに強くなってここにいる。障害を乗り越えた分、より二人の絆は強くなった、それが、これからの行動の活力になる。
これからはさらに試練の連続になるだろう、もしかしたら、こうしてゆっくりできるのは、ここが最後かもしれない、だからカンナは今この瞬間を噛みしめる。握る手にさらに力を籠め、視線を交差させる。
辛い思いでに涙した自分の雫を、シズクが舐め取ってくれる。カンナも、思わず目を細め苦笑いをする。」
「さっき領主さんに聞いたけど、明日は自由にしていいって、どこにいこうか?」
「私は温泉にいってみたいな」
「じゃあ、明日は二人で行こうね」
繋ぐ思いは、現在から未来へ、明日への幸福に思いを馳せながら、二人して思い瞼を閉じる。




