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十八話 朝食の物語

イチャイチャの幸せから地獄に叩き落とすのが趣味です。

カンナとシズクが目覚めたのは、オオウメから朝食が運ばれてきたと声を掛けられた時だった。

「ほら、そろそろ起きなか、あんたたちの朝食、あたしが食っちまうよ」

 豪快な手つきで体を揺さぶられ、睡魔から解放されるカンナ不思議に思う。自分の横でまだシズクは寝入っている。自分のことを抱き締める冷んやりした手が肌」、肌を通して伝わってくる、では自分とシズクしか居ないこの空間で自分のことを起こそうとする女の声は一体誰なのか?

 目を半開きにし、周りの景色し目を通すと、髪を短く切り揃えた妙齢の女性がこちらを覗き込んでいるではないか。

「誰?」



 自分のことを起こしてくれたこの姉貴肌な女性はオオウメを言うらしい、シズクが自殺しようとしたのをとめ、自分のことも治療してくれたのが彼女なのだとシズクが教えてくれた。

 シズク以外にここに鹿人が居たことが信じられないが、シズクも自分も助けてもらって感謝もしない程カンナは薄情ではない。

「あの、昨日は私のことを….

「ああ良いからそういうの、ここに来たからには助けあいだ、感謝されるようなことはしていないよ」


 ーーかっこいい人だ

 こんな場所にきてここまでの精神を保っていられるのは、とてもすごいことだ。周りの少女からも彼女への信頼が透けて見える。

 怨讐に満ちた瞳で自分のことを睨むシズクからそっと目を逸らし、オオウメに尊敬の眼差しを向ける。


「ほら、あんたも腹減ってんだろ、ちゃんと食いな」

「あ、ありがとうございます」


 冷たいスープと、硬いパンを貰い口に含む。

 ーー美味しくない

シズクの作る逸品を毎日食べ、下の肥えたカンナにとってこの朝食はとても味け無かった。冷めたスープは本来温かく作られているせいもあって冷めた後では、スープ本来の甘さをちっとも感じない、硬いパンは水分を失い食べれば食べる程顎が疲れ、喉が渇く。

 何よりシズクの料理にあってこの朝食にはないもの、それは暖かさだった。この人の為に、美味しく食べてもらう為に、そんなシズクの料理には“あたりまえ“に存在するそれが、この朝食にはちっとも感じられない。こんなご飯は初めてだった、シズクが料理を持ってくるようになるま前、母親の作る料理にも、大衆食堂で出される料理にも、暖かさは含まれていた。こんなに身も凍るような朝食を食べるのは初めてで、思わず顔を顰める。


「カンナ、はい、あーん」

 カンナの横から、シズクの手が差し出される。流石の自称カンナマスターことシズク、カンナが顔を顰めながら朝食を食べているのを見るないなや、その原因に気づき、自身の取れる最大の手を持って解決する。

先程までの冷めたスープが、シズクの手から差し出されることによって、これ以上ない逸品に化ける。観衆の目があることなどお構いなしに差し出されたスープを口に運ぶ。

 ーー美味しい!

 本来冷たいはずのそれは、不思議な暖かさを帯び、カンナを内側から温める。

 次々運ばれてくるシズクの手をカンナは拒まず受け入れる。口に運ぶごとに多幸感が溢れ、気持ちを昂らせる。

 抗い難いその感情をもっと受給する為に、さらにシズクとの距離を近づける。まるで、口まで運ぶ時間ですら煩わしいと言わんばかりに。

甘すぎる媾いを見せられている観衆はたまったものではないが、それも、スキンシップをとるのが信じられない程の美少女たちである。旧時代のヴィーナス像をも彷彿とさせ、その幻想的な風景に少女たちは思わず劣情を抱きかねない。



そんな胸焼けするようなスキンシップが半刻程続き、おおかた朝食を平らげたところで改めて自己紹介に入る。

「初めまして、カンナって言います。北の辺境の村出身で、シズクと一緒にここに連れて来られました。昨日はみなさんにお世話になりました」

「ああ、あたしはオオウメ、ここでは最年長で、みんなの取りまとめ役をやってる」

「私はスザク、剣都ザンテツ出身よ。特技は剣術、まぁこんなところに居たんじゃ宝の持ち腐れだけれど」

「あ、あたしスズメって言います。綿都ムラユキで生まれました。カンナさんたちとは丁度1日違いでここに連れて来られました」


 ここに居る少女たちは大体20人程度、みんな顔が整っており、ジズルドの趣味が伺える。しかし殆どの少女たちの顔色は死人の様に青い。

 この中で、まともな顔をしているのはカンナを含め、シズク、オオウメ、スザク、それと意外にもスズメだけだった。

 スズメだけはカンナたちの一日にか違わず、その日はジズルドも隣の領地のことで立て込んでおりスズメに構う暇がなかったのだと。

 まだ苦痛を知らない潔白に身、それ故に、1日違いでここへ来たカンナの状態を見てスズメは震え上がった。後々自分も同じ目に遭うと思うと夜も眠れず、目元には大きなクマを作っていた。

 カンナは時間が許すだけ他の少女たちにも質問した、オオウメがここで見てきた少女たちの悲行、ズザクの過去など、辛い過去も、使えそうな知識もなんでも聞いた。

 この現状に身を置いても未来は無い、現状を打開する為にカンナは知恵を絞る。


 

 

 丁度自身のお腹が昼の訪れを告げる頃には、ある程度考えがまとまってきて一つの解決策が思いつきそうになった時、外からカンナに対して呼びかけがかかった。

「領主様がお呼びです」

 感情の無い声で看守が告げる。その手には手枷が握られており、ジャラジャラと不気味に音を立てる。

 昨日の恐怖が思い起こされ、恐怖に足が竦みそうになるのをグッと堪える。

 幸いジズルドに呼ばれたのは自分だけ、自分の何よりも大切なシズクでも、みんなの心の支えであるオオウメでも、無き友人の娘に会いに行くと言ったズザクでもなく、まだ潔白な体のスズメでもない。その事に少し安堵した。

 彼女たちの中で自分は一番価値が低い、自分が責苦に耐えるだけで他の少女たちは無事でいられる。その事実がカンナの足を前へと進める。

 抵抗の意志なしと判断した看守はカンナに手枷を嵌める為に牢に鍵を開ける。

 

 牢の前に足を進めるカンナを止める手が一つ

「待って!カンナ、行っちゃだめ!また昨日みたいに酷い目に遭っちゃう、今度こそカンナ死んじゃうかも!」

 シズクの手だ、迷いなく進むカンナ見て必死に止めようとする。後ろに倒れそうな程強い力でカンナの腕を掴むシズクに説得を試みる。

「大丈夫だよ、シズク、私は死なないし、きっと死なせてもらえない。どうせ死な無いなら私が行った方が得でしょ」

「そう言う事を言ってるんじゃないの!カンナ一人に背負い込ませたくないって言ってるの!」

 シズクの意志は固い、テコでも連れて行かせてもらえない。このままだと、シズクも一緒に付いていきそうだ、それはカンナにとっては最も最悪の結末。

 だから、少し申し訳なく思いつつ、シズクのことを力いっぱい振り払う。

 カンナにされた行いが理解できないとだかりに唖然とするシズクは地面に尻餅を付いて転倒する。

 その隙に看守はカンナに手枷を嵌め、牢の鍵を閉める。

「カ、カンナ!?行っちゃだめだって、待って!置いていかないで」

 地面から立ち上がったシズクは鍵のしまった牢越しにカンナに訴える。



 看守はそんな声を無視して、カンナを暗がりから地上へと連れ出していく。

 まだシズクの叫びは消えない。

 ーーごめんね、シズク

 泣き出したい気持ちを抑えながらも、これから待つ苦行に備えてカンナは気持ちを切り替え覚悟を決める。

 

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