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十七 抱涙の物語

ーー知らない天井だ

 冷んやりのした枕の上で目が覚める。少しずつボヤける目を直し、少し肌寒さを感じながらも意識を覚醒しようとすると、自分の頭に触れる優しい感触にもう一度眠気をそそられる。

寝てしまおうか、そう思い目を閉じようとするカンナがだ、視界が薄暗い天井から琥珀の宝石に変わりすぐに意識を覚醒させる。

「起きた?」

琥珀の瞳に自身を映し、カンナの眼前にふわりと舞う白銀の髪、シズクの膝の上で仰向けで眠る自分に顔を近づけてくる。

 頭を撫で、自分を寝かしつける正体がシズクだとわかると、とてつもない安心感を覚え心地いい至福の中でもう一度就眠に入ろうとする。

 視界のぼやけた目を再び閉じ、意識を深みへと落す。しかしそれを許さないのが現状のカンナの容体。

「い゙ぅ」

  目の次に覚醒した触覚がカンナの意識を深みから地上へと引っ張り出し、言葉にならない悲鳴を上げさせる。

 全身ぜ疼く傷に体を軋ませ、体の痺れが激化する。

 ここに来て意識のはっきりとし、自身の身に何が起こったのは理解する。記憶の内に蘇るのは、死ぬよりも辛い責苦の数々。体中を鞭で傷つけられ、緑色の薬液で失った意識を覚醒させられる。もう一度意識を失いかけた時はシズクを引き合いに出され意識を失うことを許容されなかった。夕暮れ時まで続いた生き地獄に、覚醒したはずのカンナの脳は、正常な機能を失い恐怖と苦痛の間でのたうち回る。

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁ」

 

 “発狂“

 

 決してジズルドの目では見せまいよ誓った精神は、シズクという安心を身近に得て簡単に崩壊した。今まで蓄積された恐怖と痛みが今になって全て襲ってくる。決壊したダムの如く溢れ出る感情を抑えることなどできずに、癇癪を起こした子供の容姿手足をバタつかせ周りの障害を取り除こうとする。

 肉体と精神は一心同体、肉体が傷付けば精神が削られ、精神が削られば肉体が削られる。

 カンナに裏切られ、自死を図ったシズクとは逆の構図、過剰な肉体への苦痛で最も痛手を受けたのはカンナの精神世界、罅の入った心の亀裂はどんどん膨れ、カンナの心を原型無く破壊すようと試みる。

 そしてカンナの精神が限界を來し、もう戻れないところまで来た時、救いの手は差し伸べられる。

 肉体と精神は一心同体、肉体を傷づけられ、傷ついた精神を癒すには、これもまた肉体的刺激。

「よしよし、落ち着いてカンナ」

 聖母の如く慈愛に満ちた手つきで、子供をあやすようにシズクがカンナの頭を撫でる。2度3度、ゆっくりのカンナの心の糸を解きほぐすかのような手つきは、カンナの精神を鎮痛させるには十分な効力を発揮し、数分もすればカンナの精神は正常な機能を取り戻す。


 それでも心に残る悲鳴は消えない、カンナはシズクの膝に顔を埋め嗚咽を漏らす。

「ゔぇ..うぅ..ぅぅ….ジズグっ……」

 15歳の少女にはあまりもキツすぎる試練、完全に壊れるまでは行かずとも、すでに精神は限界。シズクの抱擁も、流れるダムの水を一時的に堰き止めただけに過ぎない。そのカンナの気持ちをシズクも心中察する。

 だから決してカンナへの抱擁はやめない、少しでもカンナの力になればと、少しでもカンナに無事でいて欲しいと、またあの笑顔が見たいと




 

そして、もっと自分に“依存“して欲しいと。

 この極限の中でカンナが頼れる存在は自分だけ、真っ白で強いカンナは誰かに助けを乞うなんてことなしない、なんでも自分で解決しようとし、困っている人がいたら自分のことを犠牲にしてでも助ける、そんな娘。

 だからここにいる少女たちにも助けは求めない、むしろさらに自分の状態を悪化させてでも守ろうとするだろう。困っている人を見かけたら助けずにはいられないカンナにとって、唯一甘えられる相手はシズクだけ、幼馴染で自分の長所も短所も知るシズクだからこそ心を許し、何も言わなくても甘えさせてもらえるシズクが、カンナにとっては唯一の居場所。

 高潔で美しく、皆に頼られる人気もののカンナが唯一心を許す相手が自分だということにシズクは優越感を隠せない。カンナの産みの親でさえカンナの居場所になることはできなかったのだ。そしてその位置に自分はいる、血の繋がりよりも強い心の繋がりを持つ二人だが、シズクの方はもっと自分に依存してほしと常に感じていた、この王子様はどこえ言っても人気者だ、街へ出ればすぐに住民と仲良くなり、挙句の果てには水都の商人から求婚される始末。

 それがシズクには不快でしょうがなかった、いつ自分だけが持つカンナの居場所に、どことも知れないやつが入ってくるかも知れない。さすがのシズクとてカンナと四六時中一緒にいて、不快な虫がつかないようにと追い払うことは出来ないのだ。シズクが見ていない間に誰かがカンナの居場所になってしまうかの知れない、自分の居場所を奪ってしまうかも知れない。

 だからシズクはカンナの心をより自分に縛り付けたかった。自分の居場所が絶対に取られないように、自分が近くにいなくても常に自分のことをカンナが考えてくれるように、愛という鎖で雁字搦めにしておきたかった。今はまさに絶好の機会、弱り切ったカンナを助けられるのは自分だけ、こんなチャンスみすみす逃したりはしない。カンナの魂まで自分という存在を刻み込む。


 命を救った恩人に対して向けるにはあまりにも悍ましき感情だが、得てして人とは同じもの同士が集まるもの。シズクがカンナに向けるものが異常な“執着“だとしたら、カンナがシズクに向けるのは異常な程の“献身“、シズクがカンナに対して依存しているように、カンナもシズクに依存している。シズクが見せる執着が能動的だとすればカンナが見せる献身が受動的。シズクに対して献身を続ければ続けるほど、シズクはその献身に対して必ず見返りをくれる。今回もそう、死ぬほどの責苦に耐え抜きシズクを守ったことに対する見返りは、永遠と続くシズクの抱擁、十分すぎる見返りである。

 幼い頃から両親から求められる自分を演じてきた、常に困っている人を助け、明るく振る舞い、誰とでも仲良くなれる。

 そんな、どこへ出しても文句のない器量を持った娘(商品)

 毎日に疲れていた、辛かった。でもそんな生きかた以外わからない、だからレレンという友達を欲した。レレンは人の言葉を話さない、でも言葉が通じないからこそ、人の常識が通用しないからこそ、“人“に対して疲れていたカンナの唯一の友達になれた。

 そこに現れたのがシズクだった、シズクは自分に対して何も求めない。自分の望む姿に成れと言われることもなければ、カンナに対して何かを求めもしなかった、シズクはただ自分がそこにいれば満足してくれた。それがカンナにはとても心地よかった、自分に対して何も求めてくれない、ただ自分という存在だけを見ていてくれた。それに、もしカンナがシズクに対して何かをしてあげれば、必ずその見返りが返ってきた。

 そんなんことは両親からもされたことが無かった。“ありがとう“、“助かったよ“、“カンナのおかげ“、そんな言葉は数え切れない程もらってきた。でも、言葉では無く、行動で献身に対する見返りをくれたのはシズクが初めてだった。

 シズクがいじめられてるのを助けてあげると、その日は夜まで一緒にいてくれた。たまたま両親からもらった甘物を持って行ったら、次の日手作りのお菓子をくれた。川で溺れかけたシズクを助け風邪を引いた時は忙しい両親に変わって、寝るまも惜しんで看病してくれた、自分には何も求めないのに、自分が与えたものに対して倍以上の物を返してくれるのがシズクという少女である、挙句の果てには、他者に対する献身にもシズクは報酬をくれた。

困っている人を日夜助けていると

「カンナ、そんなに頑張って大変じゃない? そうだ!少しでもカンナの力になるために、毎日カンナの為にご飯作ってくるよ」

 と、頑張るカンナに無償の愛をくれたのがシズクだった。最初は両親の求められる自分でいるために“良い娘“を演じていたが、今はシズクが与えてくれる見返りの為に“良い娘“を演じている。少なくともカンナが良いこでいれば、シズクはカンナに対して無償の愛を与え続けてくれるのだから。

 これから自分は、もっと酷い目に遭うのだろう、今日がまだ優しい日だと思うような、そんな日々が。果たしてそんな日々を乗り越えたとき、シズクがくれる見返りとは何だろうか、それこそ、全ての見返りとしてカンナのいうことならなんでも叶えてくれかもしれない。

 両親から期待以上を求められ続けてきたカンナは両親に甘えることなどしなかった、だけどカンナはまだ15歳の少女なのだ、その深層心理には両親に甘えたいという欲求が当然存在する。だが甘えるやり方をしならいカンナは、甘えさせてもらうことしかできない。

 無論その欲求の吐口は、何も言わずとも自分のことを甘えさせてくれるシズクしか居ない。

 その関係はまるで母親を求める小さな子供の様とも捉えられる。


 

 お互いがお互いに与えるのは何も特別な物じゃない、ただその“あたりまえ“をもらえるのが、シズクにはカンナだけだったけ。カンナにはシズクだけだっただけ。

 そんな二人は過酷な一日を過ごして、今日も眠りに就く、二人だけの“あたりまえ“を受給しながら

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