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十五話 朱雀の物語 悔

「だから心配するだけ無駄よ」

 声のする方に顔を向けると漆黒の髪を持つ少女がいた。シズクがこちらに顔を向けるのがわかると、少女がゆっくりと口を開く。

「私はスザク、剣都ザンテツの領主オザンの“元“娘」

 黒真珠のような瞳はこの暗闇の中でも主張を続け、その嫋やかな体と綺麗な形の乳房はまさに一つの曲線美、同性ですら惚れ惚れする様な特徴を持つ少女だったが、表情だけはここにいる少女たちとよく似ていて、薄暗く闇が落ち、自分の生を諦めている様な表情だ。しかしシズクが聞きたいのは名前なんかでは無く先ほど発した言葉の意味だった。

「それで、何?カンナが死んでるって言いたい訳?」

 先ほどまで膝を抱えて震えていた弱々しい少女は、射殺さんと思うぐらいの強い眼光で、スザクを睨む。

 その強い眼光に思わず怯んだスザクだったが、すぐに調子を取り戻しシズクに言い返す。

「ええそうよ、私の友だちもね、私を庇ってあいつの前に名乗り出たの。それで地下牢で待つ私に戻って来たのは手足の欠けたあの子の亡骸だった、きっとあなたの友達も…..」


 スザクは全て言い終わる前に、この不快な少女の喉笛を噛みちぎろうとシズクは飛びかかる。口より先に手が出るなんてシズクには初めての体験だった。それほどこの少女の言葉はシズクにとっては禁句で聞くに耐えられなかた。

 

 それを止めたのはオオウメと近くにいた複数人の少女たち。

 よってたかってシズクを羽交締めにし、シズクの蛮行を諌める。ここに来ては初めてシズクは声を張り上げる。

「離して!こいつを殺せない!」

「それは無理だ、ここで揉め事起こされちゃあんただけじゃなくて他のみんなにも迷惑がかかるんだ」

「そんなの私には関係ない!」


 オオウメたちの拘束され手を出せない事をいいことに、スザクはさらにシズクのことを煽り立てる。

「そんなに怒るって事は図星?」

「残念だったわね、あなたが庇ってあげられなかったばっかりにあなたの友達は死んでしまうのよ」


 シズクの怒声はすでに言葉になっていなかった。人の内に眠る獣の本性を剥き出しにし、ただ目の前の存在を排除しようと躍起になる。

 ついにはシズクを拘束する少女たちに手を振り上げては脱出を試みる。

 もう後には戻れないスザクもさらにシズクのことを煽る。

「きっとあなたの友達はあなたのことを思って死んでいくんでしょうね。それで命をかけて守った存在がこのざまなんて、その友達は可哀想にね」


“パッシッン“とスザクの頬に鋭い痛みが奔る。スザクに手を挙げたのはシズクでは無くオオウメだった。あまりの出来事にシズクもスザクも唖然とする。

少女たちの無言の視線が突き刺さる中、オオウメが口を開く。

「その辺にしときなスザク、それともまだ“自分の友達“の事根に持ってのかい?」

「あ、あんたには関係ないでしょ!」

「その通りだ、私には関係ない、だがこの娘に八つ当たりするのも違うだろ」

「っう、それは….]

「すまないね、シズク。でもスザクの事、許しちゃくれないか、この娘もね、あんたと同じなんだよ、自分を庇った友達をずっとここで待ってたんだ。それで日暮になってこの娘の元に帰ってきた友達は、そりゃあ酷いもんでね、まだその事が忘れられないんだ」


 そこでシズクはスザクに目を向ける。映し出されるのは自分の未来の可能性の一つ、カンナを庇えなくて、後悔に打ちひしがれる自分の姿があった。

 ーー泣いている

 今のシズクには先ほどスザクの放った言葉達が、スザク自身に対する後悔と懺悔に見えて他ならない。落ち着きを取り戻したシズクは少女たちから解放され、ズザクと向き直る。

 ーーこの人のこと、知る必要があるのかも

「あなたいに何があったのか、聞いてもいい?」

そうしてシズクはスザクの過去について知る。

 



 ーースザク視点ーー


 

カンナの村よりさらに南下した帝国との国境付近に存在する都市、『剣都ザンテツ』の領主、オザンとその母、ナナエの間にズザクは生を受けた。剣都ザンテツはその名の通り、剣の都。帝国の国境と隣接する位置の存在する為、常に帝国領土を広げようとする地方貴族から常に戦禍にさらさており、鹿人の都市中から腕の立つ者たちが集まり、まさしく鹿人一の戦闘民族の集まり。その上に立つ領主オザンは神鹿の“番“を除けば鹿人一と噂されるほどの英傑。

 当然そんな領主の娘として育てられたスザクが淑やかに育つわけもなく、物心つく頃にはすでに剣を持ち都市の兵士たちと一緒に訓練を受けていた。


 15になる頃には、兵の中では敵うものなどおらず、剣の天才と皆が持て囃した。そんな環境下で育ち、幾つもの戦に参加し成果を上げた後も慢心せず、ひたすら修練に明け暮れるスザクを見て、将来は神鹿の“番“になるのではと言うものもいた程。


 そんなスザクには、生まれた頃から一緒にいたシュウメと言う側仕えがいた。スザクの母、ナナエの側仕えの子供でスザクと同じ時期に生まれた少女だ、彼女はスザクの側仕えとして育てられ、スザクにとっては一番近しい人間になっていた。焦茶の髪を持つ小柄な少女で、よく無茶なことをするスザクを諌めるのが彼女の役目。主が起きるより早く起き、主が寝静まるのを確認してから自身も就寝に入る。その側仕えとしての腕は圧感で、主が欲しいと思うよりも前に、望まれた物を準備する、疲れるより前に休憩を進言し、主が休憩できるようにすでに場を整えるなど、スザクが天から剣才を授かった少女なら、シュウメと言う少女は天から奉仕の才能を授かったに違いない。シュウメは決して自身の仕事に対して意を唱えることなどせず、スザクに使えることを天職だと認識していたし、そんな少女だからこそスザクも心から信頼され、シュウメに婚約者ができた時などは『シュウメを嫁にしたいのなら、私を倒してからにしなさい』とシュウメの婚約者を叩きのめし周りを困らた程。その後も、ズザクはシュウメの婚約者が自身の認める存在にたるまで叩きのめした。

 数ヶ月も経つと、過保護のスザクも男の根性を認め、正式に婚約が認められシュウメは子宝にも恵まれた。それからもズザクは修練を続け、ついには己の父以外で敵うものはこの都市にはいなくなった。シュウメも無事女の子を出産し、シュナと名付けズザクのその赤ちゃんをとても可愛がった、ちなみにシュウメの夫よりも先にシュナを抱かせてもらえた事は今でも誇りに思っている。スザクにとってまさしく幸せの絶好調、それが流転したのはシュナが生まれてからちょうど1年後。


 帝国の総大将、オルデザラン・ヴェッヘルが延15万の軍勢を率いて剣都ザンテツに侵攻してきたのだった。

 いくら鹿人最大の武力都市とはいえ、その数はかき集めたとしても精々が3万、すでに剣都最強の武人、オザンもオルデザランに打ち取られ、あっという間に劣勢に立たされた鹿人軍は籠城戦を余儀なくされた、そしてズザクもシュウメたちと一緒に都市の住民が逃げるための殿となる。

「シュウメ、お前だけは逃げなさい、シュナも最近歩けるようになったんでしょう、それにあなたには第二子が」

「いいえ、逃げません。私はあなた様の側仕えでございます、あなた様と生死を共にするのが役目。すでにシュナは夫に預けております、何も心配はありません」

「でもあなた、もうすぐ新しい子が生まれるんでしょ、次は男の子がいいて私に言っていたじゃない」

「いこれから生まれる命と今ある命、どうして今ある命を後回しにできましょう。大丈夫でございます、私は死ぬつもりなど到底ございません。あなた様が誰よりも強い剣士なのは私が一番わかっております、あなた様とここを抜け出して、無事にこの子も産む、それが一番じゃございませんか。それに、もし私だけ逃げ出してあなた様の勇敢な最後を道どけることができなければ、私は後悔の恨に苛まれ、とてもとても生きていくことなどできません」

「わかったわ、大丈夫、あなたは私が守るから。絶対にここから逃げ出しましょう」

「ふふ、これではどちらが主人かわかりませんね、側仕えとして立つせがございません」

「人には適材適所があるもの、少なくともあなたは側仕えとしては申し分ない働きをしてくれたわ、だからあなたを守るのは私からの正当な対価よ、受け取りなさい」

「私はすでに数えきれないほどあなた様からもらっておられるのですが、そうですね、それではしっかりと守ってくださいませ“スザク様“」

「ええ、任せてちょうだい」


 それからすぐに、城門が破られたと伝令から報告があり、破壊された城門から帝国軍が流れ込んでくる。街にはかなりの住民が残っていたが、これでは到底逃げきれまい。帝国軍の襲撃は止まらず、スザクも城に残った近衛の精鋭たちと抵抗を試みるが、他勢に無勢。近衛たちも一人一人と姿を消し、スザクの目前まで手が届くのに時間は掛からなかった。完全にシュウメを逃すタイミングを失った、スザクは最後の望みを賭け、敵の総大将オルデザランに一騎打ちを申し込む。


 最強の剣士オザンを討ち取ったオルデザランはまさしく覇者の如き風格、その圧倒的な剣幕に気圧されながらもスザクは勇敢に立ち向かう。

 スザクの蝶の様に舞う剣舞に対し、オルデザランの剣は、敵を倒すことに特化した一切無駄のない剣技。技の術は互角、勝敗を分けたのは単純な筋力だった。女の体故力で劣るスザクは技を極めたが、相手の剣技もそれこそ極地と言われるほどの出来前、だからこそ、相手の単純な剛力に苦戦してしまう。

 すでに半刻ほど剣を交わし、スザクの体力が限界に近づいた頃、敵の一閃によってついにズザクの剣がへし折れてしまう。そこで勝敗は決してしまった。

「惜しいな、後数年もすれば俺おも超える剣の使い手になっていただろうに」

 そうしてスザクは、城に残るシュウメとその他鹿人たちと同様に敵の捕虜になってしまう。


 捕虜になったスザクたちが連れてこられたのは大規模は奴隷オークション、そこで二人に目をつけたのがジズルドだった。

 屋敷の連れてこられ、シズクたちと同じ様に冷水で体を洗われ、ジズルドの目前に立たされた時にシュウメは言ったのだ。

 ーー私はどうなってもかまいませぬ、ですからどうか、スザクを傷つけるのはお許しいただけないでしょうか?


 そうしてシズク同様地下牢に一人で連れてこられたスザクは、暗闇の中で必死にシュウメの帰りを待った。その間は常にシュウメのことを考え、同じ地下牢に閉じ込められた少女たちからも、できるだけの情報を集めた。できるだけ自分が安心できるよう、シュウメの生きる可能性を少しでも上げるために。

 

  数時間後、スザクの前に差し出されたのは、布に包まれた何かだった。


 ジズルドの召使たちに差し出されたそれを、ゆっくりと開ける、そこにはいくつか体のパーツが足りない友の亡骸だった。

 スザクは絶叫する、声にならない叫びをあげ、狂ったように頭を掻き毟る。

 シュウメの亡骸を抱き上げ、まだ暖かさの残る体と必死に接吻をする、その体温を忘れないために、シュウメの存在を自分自身に刻みつけるために。

 ひとしきり泣いた後、スザクはシュウメの不自然の膨らんだお腹に気づく。何かを悟り、必死にシュウメのお腹をかき分ける。

 刃物などこんな地下牢には存在しない為、自らの手で、シュウメの下腹部を爪と指で必死に切り裂き、抉り、一心普段に何かを探す。指に血がこべり付き、爪に皮膚と肉が絡まり、やけに長い腸を自らの手でかき分け、お腹の中枢まで届いたところで目的のものを見つける。ゆっくりとスザクがシュウメの体からそれを取り出す。辛うじて鹿人の形を保つそれの正体は、出産を控えたシュウメの“第二子“だった。

 ーーあ、ぁぁ……..

 

 スザクはその日、大切な命を二つ失った。

それから2年経ち、ズザクは18歳になる。丁度シズクがここに来た日と一緒だった。

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