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十四話 雫の物語 悲

一人冷たい地下牢に放り込まれたシズクは、世界を拒絶し、自分の中に引きこもった。

 自分の残された翡翠色の温もりを胸に抱き、心の原風景に戻る。側から見たら現実逃避にしか見えないそれが今のシズクのには必要だった。

 今現実を見てしまえば壊れてしまう、だからシズクは夢の中に逃げる。これは人間に備わった防衛本能、自分自身が壊れないようにする防衛本能。

 それくらい今のシズクは追いつめられていた。村が襲われたからじゃない、奴隷としてここにつれてこられたからじゃない。

 カンナに“裏切られた“からだ。

 ーーどううして、私を一緒の苦しませてくれなかったの……

 また過去の原風景が移し出される、大きな都市の中でシズクの王子様を離れ離れになってしまったあの記憶、髪飾りを贈られ、ずっと一緒だと誓ったあの時の記憶が。

 でも今回は泣こうが喚こうがどれだけ経っても、シズクの王子様は帰ってきてくれない。それだけがシズクに暗い影を落とす、心なしか光を反射する白銀の髪も埃を被ったかのように燻んで見える。

 前のときはすぐに戻ってきてくれたのに、前のときは微笑んで飴細工を持ってきてくれたのに。前のときはすぐに手を繋いでくれたのに。



トントントンと外から階段を降りる足跡がしたため、シズクはおもわず顔を上げた。

 ーーカンナが戻ってきてくれたのかもしれない!

 その想像で、暗がりだった世界は一気に色付く。五感が戻り始め、ここのなしかこの冷たい牢獄も居心地良く感じた。牢獄に囚われた自分をカンナが迎にくる、それではまるで本物の姫と王子様の物語のよう。

 ーー大丈夫、カンナは私との約束を破っやことなんて一度もないもん。こん今回だって、私を裏切ったふりをして最後には助けるつもりだったんだ。

 シズクの想像の中で、沢山のカンナが自分におもいおもいの言葉をかける。

 ーーカンナはどんなふうに迎えにきてくれるのかな、檻の外から手を伸ばして引っ張ってくれるのかな、それとも急いで逃げようと無理やり私を担いで脱出するのかな、もしかして颯爽と檻を破壊してもう怖いものはないと堂々を笑顔をくれる?


 足音がこちらに近づいて来るにつれてシズクの気分も上がる、音の反響する地下の足音がとうとうシズクの前に足を止めると、天国にも昇れそうだったシズクは閻魔の手で一気に地獄に叩きつけられた。

 檻越しに見えた姿は、自分だけの王子様では無く様子を見にきた看守で、飴細工の代わりに差し出されるのは冷めたスープと硬いパンだった。


ーーあぁ

 またシズクの世界から色が消えていく、色ずいた世界の花たちはしおれ、光は黒く染まり、五感の反応が急に鈍くなる。

 世界に一人だけだとまた認識させられる。冷たい牢獄の温度はすでに氷点下を下回り、全身の力が抜ける。

 顔色は真っ青を通り越して闇に染まっていた、本来光を反射する髪は一切の輝きを失い、力の入らない体でのそのそと牢屋の端に移動し体を丸くし膝に顔を埋める。このまま体の防衛本能がシズクを過去の幸せと共に終わらせてくれるかもしれない、死ぬときはとっても気持ちいいと聞いたことがある、それなら自分の最期はカンナの愛欲に塗れて逝けるのだろうか、しかし想像の原風景と共にシズクを終わらせてくれなかったのは、少しドスの聞いた声だった。

 

「なぁあんた、流石に見てられないよ。見たところ数日はなにも口にしてないだろ、このままじゃほんときおっ死んじまうよ」

 シズクは自分を現実に戻した声の方向に視線を向けるとそこには複数人の気配があった、カンナと離れ離れになりそれどころじゃなかったシズクは同じ牢屋に閉じ込められた鹿人の気配に全然気づかなかった。檻の中が孤独じゃなかった事に驚きつつもシズクは先ほどの声の主を探す。

「ほら、このスープ、冷めちまってるが味は悪くない、あの糞領主は自分が痛ぶる為に奴隷の健康状態だけは気にするんだ」

 次ははっきりと声の主がわかった。他の鹿人に比べても一回り程年齢が上で、髪を短く切った女性だった。声を聞くにここの姉貴分のような存在だろう。

 夢の世界から自分を現実の世界んい戻した事に若干の恨みを覚えつ、好意を持って話しかけてきた相手だ。無下にはしずらいよシズクも口を開く。

 

「誰です?あなた」

「私は、オオウメ。この中じゃ一番年上になる、ここではみんなのまとめやくをやってる。それで、あんたさんは?」

「シズク」

「それがけかい?」

「他の言うことがあるの?」

 

 敵意を隠そうともしない態度に流石のオオウメも眉を細める。

「それで、私に用ですか?」

「あんたが飯を食わないようだから心配だったのさ、そんな痩せ細った体で栄養なんか足りてないだろ」

「別に気にしません、どうせ死ぬんです。」

「何バカなことを言ってんだい!」

「バカなことなんて言ってないですよ」

「いいやバカだね!こんなところでみすみす落としていい命なんかあるもんか」

「私たちのことなんか何も知らないくせに」


 オオウメがシズクを説得しようにも、完全に闇に飲まれたシズクに心には響かない。勿論、ここに連れて来られて生きる希望を無くした少女たちは少なくない、ここにいる何人かの少女だって昔はそうだった。それでもみんな出させた食事にだけは手をつける、生きる希望がなくても死にたくはないからだ、それに対して今回来た少女は頗る厄介だった。ここまで生に執着の無い状態は珍しい、オオウメは長くここにいるが生きることを諦めたものなど数える程しかいない、そしてそんな人たちは頑なに意志が固く、自分は死ぬと言って憚らない。

 この少女の説得はなかなか難しいそうだと思ったオオウメだか、ここでこの少女が“私たち“といった事に疑問を持った。

 

「私たち?ここに連れて来られたのはあんただけじゃ無いのかい?」

「そうだよ、私はカンナと一緒にここに連れて来られたの」

「カンナっのが、あんたと一緒に連れて来られた子の名前か、それで、そのカンナって娘はどこにいるんだい?」

 そう言われたので、シズクは自分たちに起こった事をオオウメに話し始めた。

 

 ー平和な村で暮らしていた所に、人間たちに襲撃されたこと。

 ー森まで逃げたが、追って来た人間たちに捕まりここまで連れて来られたこと。

 ージズルドにオークションで買われ奴隷になった事。

 ー自分を庇う為にカンナは率先して生贄を名乗り出たこと。


ーーこの娘にとってそのカンナって娘は自分の命よりも大切な宝ものだったんだろうね。 

 その話しを聞いてオオウメは納得がいた、それでもオオウメは驚く事はしなかった。ここにくる少女たちは基本的に、自分たちの住む村を襲撃され人里に連れて来られた娘たちだったからだ、かくゆうオオウメの村を襲撃され奴隷に落とされた鹿人の一人だ、シズクだけが特別は訳ではない。

カンナと言う少女がこの娘をただの友達関係でなかったのは明白だ、先ほども自分を庇った筈のカンナの事を裏切ったと言っていた。

 でも、それならシズクを説得するのは簡単だった。

「なるほどね、事情はわかった。でももし、あんたが死んじまった後にそのカンナって言う少女が迎に来たらどうするんだい」

「え?」

 シズクの意外そうな顔を見たオオウメは好気と見てさらに捲し立てる。

「もしカンナって娘が迎えに来た時にあんたが死んじまってたら、そのこはどんな顔をすればいいんだい」

「うっ」

「その少女は恐怖に勝って、ここまで来た時に、もう片方は恐怖に負けて死んじまってたらその娘はどんな気持ちになるんだろうね」

「ぁ」

「もしその娘のことが大切なら、その娘が死んじまったと知った時点で、そのカンナって娘は死んじまうかもね」

「それはっ」


 ここまで来るとシズクに逃げ道はなかった。

「カンナって子があんたの分まで苦痛に耐えてるなら、あんたの役目はその娘を信じて恐怖に勝つことだ、違うかい?」

 カンナの事を引き合いに出されたら、シズクに太刀打ちするすべはなかった。確かにカンナが痛みに耐えて自分のところに戻って来た時、自分だけが先に逝ってしまったらどう思うだろうか、カンナは間違いなく後を追うだろう。後悔と悲痛に念を抱きながら。それだけは、それだけはダメだった。

 その事を思うと、少しだけ食べ物に手を伸ばす気になった。


「その娘は今、ジズルドの所にいるんだろ、心配するな。夜になる頃には戻ってくる」

その言葉を信じて、シズクは自分の最期をもう少しだけ伸ばしてみようと思った。

食事に手を付ける決心をして手をの馬そうとした時、すぐ隣から放たれた言葉はシズクを突き刺す。今日のオオウメは相当に運が悪い。













「心配するだけ無駄よ、どうせその娘は今頃“死んでる“わ、私を庇った友達もその日に死んだもの。あの糞領主にやられて、初日に来た奴隷の何人が命を落としたと思っているの」


 

 

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