第八話 無知
家族から虐待を受けるウルグ・ハースだったが、ある日突然伝説の勇者として、ギルドに招待された。他の四人の勇者と共に、ウルグは真の敵を倒せるのか!
「ヴォイドが…俺を推薦…!?」
この部屋全体を沈黙が襲った。イズミさんはその沈黙を破るようにわざと大声で話した。
「ウルグもヴォイドに聞いたかもしれねぇが、この勇者の中には裏切り者がいる。ヴォイドはそいつを炙りたそうとしてる。本能ではな。だがあいつの能力『無知』によって呪われているせいで、裏切り者に出会った瞬間に忘れてしまう。そして、出会っていない時にも他人に伝えようとすると忘れてしまう。」
「『裏切り者がいる』ということは伝えられても、『それが誰か』というのは伝えられない。」
イズミさんの説明にゼノさんが付け足した。説明を取られたと、不満げなイズミさんだったが、まだ状況が飲み込めなかった。
「でも…だからってなんで俺を…!?」
「お前が裏切り者を、自身で知るべきとヴォイドは思ったからだ。お前の人生が狂った原因である裏切り者をな。」
そう言うとイズミさんは一旦座ってから話した。
「お前はヴォイドに恨みを持ってる。元凶が裏切り者だとしても、その恨みがゼロになることはねぇだろ。だから勇者全員、伝えるのをやめたんだ。」
そんなことで俺が納得出来るわけない。机をバンと叩いて怒った。
「勇者になる最低条件は、ギルド経験に加えて、他の勇者からの推薦。その推薦が敵のヴォイドからでした。はいそうですかで済むわけないですよね…!」
正直怒りだけではなく、複雑な感情だった。伝えなかった勇者さん達にも、イズミさんにも正しさを感じつつも、怒りが収まらなかった。
「ウルグ、お前の気持ちは間違っちゃいない。けどな、お前何も伝えられずにこのまま勇者をやってるのと、どっちが良かった?」
言うことがなかった。イズミさんにも勇者さん達にも思いがあって、そのために裏で動いてくれていたのだ。
「すいませんでした。勇者さん達もイズミさんも。次のヴォイドベースに向かいます。」
「あ、私も行くよ〜。」
「なら俺も行くか。」
こうしてランスさんとエマさんと一緒に次のヴォイドベースに向かうことになった。以前と同じように雪が積もっていて、歩くのが困難だった。
ヴォイドベースに向けて歩いている最中、ランスさんが話し始めた。
「俺の魔法は腕の状態を気をつけてないといけないから、今はでかい手袋で腕を温めておいてるんだ。」
雑談をしながら数時間歩いていくと、ヴォイドベースに到着した。
と言うより、そこは洞窟だった。巨大な山の中に人が横に三人並べる程の穴があいていた。そこを通ろうとした瞬間、中から渦巻きながら龍が突っ込んできた。
「うわっ!」
ギリギリで避けきれたものの、龍は完全に解き放たれた。
「この龍が今回の門番ってどこかしら…」
「勇者も舐められたもんだな。」
そう言うと、ランスさんは手袋を外して右手で巨大な氷の槍を生成した。
「さぁ来い、龍。今日の晩飯に決まりだ。」
第八話 完
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