表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/194

第七話 「精霊魔術本と冒険者本」

 俺は店番をしながらクリスの部屋にあった魔術本やら冒険者向けの教本を読むことにした。

 クリスが小さいころに読んでいたものらしい。

 もっと早くに読みたかったが、引きこもりすぎて普通の生活にすらブランクのある俺は道具屋の仕事と家事で手一杯だった。

 ちなみに本のタイトルはこれだ。


 ・四大精霊魔術

 ・冒険者のすゝめ


 本を読むのは、気になることがあるからだ。

 この世界はアルティア・クロニクルとほぼ一緒だが、いくつか違う点が存在する。


 まず「四大精霊魔術」。

 魔術はゲームではキャラクターのレベルがあがると自動で覚えていたが、実際はそうもいかないようだ。

 然るべき魔術の知識を身につけ、使う魔術と魔力を上手くコントロールし、習得する。

 つまり練習さえすればレベルが上がらなくても使えるっぽい。


 だが、やはり上級となるとレベルが低いうちは魔力が足りず不発か、もしくは知識だけあってもその練度まで高められないという。

 魔術は属性があり、火属性・水属性・風属性・地属性と、大きく4つの属性に分類される。

 さらに言うなら人によって得手不得手があるらしく、クリスの場合だと火と風が得意なようだ。

 魔術はこの属性を司る四大精霊が存在していて、魔力を介してその力を借りているらしい。

 うん、四大精霊は知ってる。ゲームではエミルが彼らの力を借りて武器を作ったりしてたからな。

 まぁ、それはいいだろう。


 他にも聖属性・陰属性などが確認されているが、これは精霊からではなくまた違う存在から力を借りているらしい。この本には主に四大属性しか載ってないので不確定だが、ゲームでは聖属性は信徒キャラが、陰属性は悪の教団とかのキャラしか使ってこなかったことを考えると、恐らくそういうのを司る神や邪神がいるのかもしれない。


 それと治癒魔術だ。これに関しては豊穣の女神アルティアの力らしい。

 彼女は遥か昔、大魔王オルドジェセルと戦い、力を失って女神の剣にその身を宿し、眠っているというのがクリアした俺の知識なのだが……そこから力を借りているということなのだろうか?

 しかしなるほど、だから魔族のボスとか魔王は治癒魔術を使ってこない……というか使えないのか。

 アルティアに敵対する者は治癒魔術の加護を受けれない。

 まぁ、魔王が治癒魔術とか使ってきたらムリゲーでクソゲーなんだけど。

 シ〇ー? 知らない魔王ッスね……。


 あと、自分自身が神や四大精霊クラスの強さになると、オリジナルの魔術も創れるようになるらしい。

 確かにエミルも後半の方はなんかよくわからない魔術とか覚えてたな。

 魔王と互角に戦えるってことは、それは即ちアルティアと互角ともいえるわけで、確かにそのクラスなら自分で魔術とかも創造できそうだ。

 うーん……俺には関係ないだろうが、憧れるな。


 最後に結界魔術や転移魔術、召喚魔術などがあるが、これはとある人物が生み出したものらしい。

 神レベルの存在から力を借りるのではなく、道具や魔法陣を使って魔力そのものを別の力に変換しているのだとか。結界を作るなら魔法陣を描いたり、結界魔術用の道具で囲んで発動とかで起動するようだ。

「神様、力貸して!」系は詠唱で発動できるが、魔力そのものを変換する系は道具や設備が必要ってことなのだろうか。


 うん、面白い。

 勉強と言えば一生したくないとまで思っていたが、これはゲームの設定資料集を読んでいるようなものだ。ゲーマーの俺に読めない道理はない。

 読んでるだけじゃ身につくこともないが……。


「魔術覚えるの?」


 初級魔術の一覧を見ていると、コーヒーを飲み終えたクリスが俺の顔を覗き込んでいた。

 目はいつもの不満そうな目つきだが、口元はどこか嬉しそうだ。

 一度冒険者を諦めたフェイクラントが再びこの手の本を読んでいるのを見て、どこかで期待しているのだろう。


「……まぁ、使えるならな」

「初級なら誰でも練習すればいけるわ! 私が教えてあげてもいいわよ!」


 クリスにしては珍しく素直に教えてくれるらしい。

 そんなに嬉しいのだろうか。

 まぁ、もちろん魔術は憧れる。

 手のひらから火の玉や風が出るとかロマンすぎるし、できるなら今すぐにでも習得したい。


「ある程度本を読んでからお願いするよ」

「まかせて! 中級くらいまでなら四属性全部いけるから!」


 クリスはウキウキだ。

 っていうか中級までならコンプしてるのか。普通にすごくね?

 最初の村なのにそんなヤツがいたら序盤のエミルよりたぶん強いぞ?

 まぁ、エミルも最初は特別な力なんて無いしなぁ。


 気を取り直して、次に「冒険者のすゝめ」を手に取る。

 冒険者といえば、村を荒らす魔物を狩ったり、ダンジョンに潜ってその土地を調べたりして日銭を稼ぐような職業だ。

 ゲームでは勇者エミルには特定のメンバーがパーティの一員として勝手に仲間になるが、通常、パーティを組むなら冒険者ギルドに登録して、そこで出会った人や紹介されたメンバー同士で組む。

 冒険者にもランクがあり、最低はFランク。最高はSランクだ。

 フェイの記憶では俺は冒険者になったことがあるらしいが、ギルドカードを持ってないところを見ると無くしたか捨てたのだろう。記憶がないので気づかないうちに無くなってそうだ。


 冒険者ランクはどれだけクエストをこなしたか、もしくはレベル次第では一気に昇級なんてこともあるらしい。

 ちなみにレベルというのはゲーム感覚で言っているのではなく、概念である。

 要は魂の質量というものだ。

 平たく言えば生物の命を奪うことで、その力を糧に強化されていく。

 人族であれ、魔物であれ、魔族であれ、相手もレベルを持つものであればなんでもいい。

 逆に言えば、それ以外の方法でレベルは上がらない。

 魂の質量が上がれば上がるほど、それは肉体にも強く影響される。


 まぁ、なんだ、謎が一つ解けた。

 なんでゲームでは普通の人間が一撃で黒焦げになって死ぬような上級火魔術でも、なぜレベルを上げるだけで耐えられるようになるのかと思っていたが、魂の質量が強くなることで不思議パワーが身体を守っているのだ。

 この本には詳しく記載されていないが、なんでもその魂の質量を利用した技なんかもあるらしい。

 確かに、人が死ぬレベルの魔術から身を守れる力を攻撃に転換したなら、それは強力な武器だろう。

 ゲームでもベルギスが魔術じゃなくて、なんとかエッジ! とかいう光る剣技とか使っていたな。

 アレはもしかしたら、そういう類の技なのかもしれない。


 っていうか、「レベル」の概念が読んでるだけでちょっと怖い。

 何気なしに「コイツのレベルたけぇー!」とか言っていたが、それは即ちどれだけ生命を奪ってきたかレベルなわけだ。この世はみんなソウ〇イーターだ。


 じゃあレベルあげなかったらどんだけ筋トレとかしても腕力上がらないの?

 と思うかもしれないが、そんなことはない。

 レベルを上げなくても通常の筋トレや生活の仕方によってはステータスが変化する。

 現に今の俺のステータスを見てみよう。


 --------------------------------


 ステータス


 名前:フェイクラント

 種族:人間

 職業:道具屋見習い

 年齢:28

 レベル:6

 神威位階:潜在

 体力:37

 魔力:8

 力:20

 敏捷:20

 知力:7


 --------------------------------


 何? どこが変わったかわからない?

 バカ者! ちからが『2』も上がっている!

 体力など『10』も変わったんだぞ!?


 ちなみにこれはクリスにアホほど道具屋の仕入れなどで力仕事をさせられたからだ。

 あと、増えるばかりではなく老化やブランク、病気などで普通に減る。

 毒や麻痺状態で健康状態の時と変わらない威力を出せることは無いのだ。

 クリス曰く、俺はだらけ過ぎて弱くなってるとのこと。


 ……前の俺は諦めたが、また筋トレでもしてみるか……?



 ---



「癒しの力よ、今こそ治癒の恩寵を──『ヒール』」

「あっ、できてる! すごい!!」


 店じまいを終えると、さっそくクリスと魔術の特訓を始める。

 俺が今唱えた魔術は治癒魔術だ。

 枯れて死にかけの雑草に向けて、クリスに教えてもらった通りに実践すると雑草は再び空へと背を伸ばし、小さな花が咲いた。


「ふ……ふふ、お、俺にかかれば、こんなもんヨ……」

「12回目だけどね」


 汗が煌めく俺の渾身のドヤ顔に、クリスのジト目が突き刺さる。

 いや、だってこんな集中力使うとか聞いてないよ!

 詠唱して魔力足りてればオッケー! な設定にしてくれよそこは!


「ぐぬぬ……」

「でも、1日で覚えたわよ? 一生出来ないって人もいるくらいなんだから、前向きに前向きに」


 俺は魔術にそこそこ苦戦していた。

 今日で全属性初級コンプしてやるぜ! と意気込んではいたが、現実は甘くないらしい。

 初級治癒魔術のヒールを覚えるだけで、もう空は真っ暗だ。

 あと、俺の魔力総量が低すぎるのか、不発することが多かった。

 うん、だって俺、8しか魔力ないや。


「ご飯にしよ? 今日はフェイの魔術初習得記念だからね! なんでも作ってあげる!」

「ありがとうございますパイセンッ!! あたたかいシチューがよいですッ!!」

「しょーがないなぁ」


 そんなやり取りをしながら家に戻る。

 俺が魔術を成功させたことに関しては、俺本人よりもクリスの方が嬉しそうに見える。

 魔術は難しいが、この笑顔を見れるなら頑張れる気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ