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第五十一話 「現状確認」

 俺とマルタローは今、ヴァレリス行きの定期船に乗っている。

 少し遠いがカンタリオンから南に下った先に船着場があり、ゲームと同様、そこから乗船可能だ。

 見渡す限りの水平線と、潮風が俺の肌を撫でていく。

 これぞ冒険って感じだな。


「なぁ、マルタロー」

「……わふ?」

「お前、いつまでも頭の上に乗っかってないで、自分で立てよ」


 リュックを船の甲板に下ろしたのに、尚も俺の頭にしがみつくコイツに苦言を呈する。

 重いわけじゃないが、重心が高いせいで動きづらい。

 風が吹くたびにバランスを取るのが一苦労だ。


「わ〜ふ〜!!」

「あっ、お前、ミスティみたいなこと言ってんじゃねぇよ。降りろこのやろう! お前が乗ってると俺の頭が禿げる!」


 手で掴んで降ろそうとすると、マルタローは抵抗するどころか、さらにしがみついてくる。

 爪が頭皮に刺さって地味に痛い!


「ぐっ……降りろって言ってるだろうがぁ!」


 暴れる俺たちを、他の乗客たちが遠巻きに見ている。

 う……そんなに見ないで欲しい。


 結局、この小さな攻防戦は俺の負けで終わった。

 俺が頭を撫でて諦めると、満足そうにまた丸くなって寝やがった。


 船に乗るまでの道中はいくつかの魔物にも遭遇した。

 だが、俺のレベルも上がっており、スキルなんかもあるおかげで、中々楽に歩を進めることができた。

 マルタローは……正直今のところ戦いの役には立たない。

 まぁレベルも低い最下級魔物だし、仕方ないだろう。

 地道にやっていくしかない。


 ん?

 そういえば、今はマルタローとパーティを組んでいる状態なわけだし、コイツのも見れたりするんだろうか?


「ステータス」


 この世界に来てから何度か口にした言葉を唱える。



 --------------------------------


 ステータス


 名前:マルタロー

 種族:プレーリー・ハウンド

 レベル:3

 体力:24

 魔力:5

 力:10

 敏捷:37

 知力:22


 --------------------------------



 おお、見れた!

 なんだか俺やクリスの時より項目が少ない気がするが……魔物だと違うのだろうか。

 確か、ゲームでも仲間になった魔物のステータスは簡略化されてた気がするが。

 しかし、レベルの割に敏捷37とは、さすが犬というだけはある。


 ……ん?



 --------------------------------


 ステータス


 名前:フェイクラント

 種族:人間

 職業:魔物使い(テイマー)

 年齢:28

 レベル:20

 神威位階:顕現

 体力:108

 魔力:24

 力:55

 敏捷:61

 知力:20


 --------------------------------



 ……どうやらマルタローは、俺よりも"賢い"らしい。


 しばらく俺はショックで口を開けたまま、波間を見つめるしかなかった。



 ---



 気を取り直して、船内に移動した。


『旅立つなら、これを持っていけ。ワシらにはもう不要じゃからの』


 そう言われてサイファーからもらった古めかしい世界地図を広げてみる。

 ゲームの中でも何度も見た地図だが、開いた瞬間に違和感を覚えた。


「……あれ?」


 首をかしげながら、指で地図をなぞる。

 見覚えのある形状の大陸や国々が描かれているが、何かがおかしい。

 視点のせいで、すべてが微妙に違う配置に見えるのだ。


 ゲーム内での地図は、上・下・右・左と、大きく分けられた四つの大陸が周囲にあり、その上側の大陸にプレーリーがある。

 そこから南に海を渡った先にあるセントラル島がが中央に配置されていたハズだ。

 だが、この地図では中心が遥か西側の大陸あたりに設定されている。


 前の世界で言えば、日本が中心の地図とイギリスが中心の世界地図の違いに似ている。

 地図そのものに間違いはない……が、この視点のズレが想像以上に混乱を招く。


「サイファーもジジイだしな……これも古い地図なのかも」


 独り言を呟きながら、地図をじっと見つめる。

 ゲーム内の記憶と照らし合わせれば読めないわけじゃないが、慣れるのに時間がかかりそうだ。


 ……まぁいい、現状の確認といこう。


 エミルたちを追うと決めた以上、ゲームでの攻略チャートを思い出していくとしよう。



 ・オープニング〜プレーリー

 エミルがベルギスに連れられて村に住み始めてからのところからだ。

 プレーリーを拠点にしつつ、物語が進んでいく。

 エミルは精霊界に導かれ、勇者として目覚める可能性を秘めていると発覚。



 ・カンタリオン〜ルインフィード〜イーザ

 エミル少年期に冒険するそれぞれの町。

 未来の嫁候補であるセレナと邂逅したり、他の町でもそれぞれ問題があったりでエミルはベルギスと共に脅威を排除したりと、それぞれの町で活躍し、ついでにレベルも上がっていく。

 セレナ以外は特に重大イベントも無く、スルスルと進んでいく。



 ・ヴァレリス

 物語の一つのターニングポイントであり、現在俺のいる時間もこの辺りだろう。

 ベルギスは遥か南にあるアステリア王国の第一王子なので、ヴァレリス王とも関係がある。

 今は亡きアステリア王とヴァレリス王が昔、冒険者として研鑽していた時代があるらしく、それもあってヴァレリス王はベルギスを甥っ子のように可愛がっている。


 今回彼らがヴァレリスに呼ばれたのは、ヴァレリス王の娘であるミルフィーユ第一王女の指南役として……わがまま癖、脱走癖などもある彼女をなんとかしてほしいというものだ。


 それともう一つ、ヴァレリス近郊にある遺跡の調査を頼まれる。

 エミルが王女といる間、ベルギスが遺跡の調査。

 その時、王女が城から脱走してしまい、遺跡の中へ入ってしまう。

 エミルも後を追い、ベルギス・エミル・ミルフィーユが合流。


 しかしそこに来るのが、狩り魔王・ザミエラだ……。

 ベルギスとザミエラの一対一ならわからないが、エミルとミルフィーユといったお荷物を抱えての戦闘となり、彼は敗北する。


 その後は、攫われたエミルは母であるセシリアと邂逅し、脅すための道具として扱われる。

 セシリアが封印を完全に解くまでは、ミルフィーユと共にとある塔の建設の奴隷として働かされる。

 母親と邂逅することで、エミルは初めて自分が王族であると正体が発覚するワケだ。


 その後のことは、まぁ今は考えなくてもいいか……?


 どの道、これから俺がやろうとしていることは"改変"だ。


 可能であればベルギスを殺さず、エミルとミルフィーユも攫わせない。

 どこまでできるかは未知数だ。

 ザミエラと対峙するとか、今考えるだけでも足が竦む。


 だが、やらなければ。

 隣にクリスがいれば間違いなくそう言うだろう。


 俺はベルギスを売ってしまったのだ。

 プレーリーが襲われた時、ザミエラはベルギスの居場所を知らなかった。

 ゲームでは語られなかったが、もしかすると『フェイクラントがザミエラに告げ口する』というのは、予定調和だったのでは? とも考えてしまう。


 もしそうならば、俺はそのゲームの筋書き通りに行動してしまったのだ。

 プレイヤーだった俺はエミルたちの行く先はわかるが、元のフェイクラントだって、「次はヴァレリスに行くんだ」と、エミルたちの話を聞いていてもおかしくはない。


「まぁ、やれるだけやってみるしかねぇか」


 俺は肩をすくめて地図を畳み、リュックにしまった。

 マルタローが「わふ」と軽く鳴き、俺の頭から飛び降りる。

 ようやく自由になった俺は軽く伸びをし、甲板の端まで歩いていく。


 船の先には、うっすらと陸地が見え始めていた。

 遠くにそびえる城壁と、その周囲に広がるヴァレリスの町並みだ。

 ゲームで見た壮大な王都の風景が、現実として目の前に広がっている。


「……俺が……変える……」


 海風を受けながら、俺は心を決めた。

 この先、俺がこの世界に来た意味を見出すために。

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