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第四十七話 「力と想いのコントロール」

 腰の高さまであった土の台座は、鋭い刃物で両断されたかのように真っ二つになり、地面に崩れ落ちている。

 俺の手のひらは、以前見た時と同じぼんやりと淡いオーラのような輝きを放っていた。


「今のが"活動"じゃ。神威を扱う上でその力を生身に乗せる基本中の基本。お主はどうやら今、剣やらの刃物を想像して放ったな? だから、こういうことができた」

「あ、あぁ……」


 説明はいいのだが、右手が痛すぎて集中できない。

 見ると、手の甲の皮膚は石弾(ストーン・ブラスト)によって抉れ、血がダラダラと流れていた。


「癒しの力よ、今こそ治癒の恩寵を──『ヒール』」


 レイアさんは治してくれなさそうなので、仕方なく自分で治療する。


「『ヒール』」

「え?」


 レイアさんも治癒魔術を唱えた。

 自分の手に。


 俺の手を押さえつけていた彼女の手には、鋭い切り傷があった。

 狙ったのは台座の両断だけだったが、どうもそれで終わらなかったらしい。


「あ……ごめん」

「気にするな。コントロールできんと分かっていながらワシがしたことじゃ」


 あれだけ全力を込めても微動だにしなかったレイアさんの手が、傷を負う。

 大したことない程度に見えるが、たとえ初期段階の"活動"でも、相当の破壊力はあるらしい。


 ザミエラ戦のことを思い出す。

 あれだけクリスが上級魔術を連発してもかすり傷程度で、果てには雷を直撃させても死ぬことはなかった魔王。

 ザミエラは神威使いではないようだが、たとえ"潜在"状態でも肉体の強化自体はある。

 レベルの低い者の攻撃が、レベルの高い者にダメージを与えられない理由。


 しかし、もし俺が神威を使いこなすことができれば、レベル差があってもダメージを与えられるのか。

 現にレイアさんがサイファーと同等のレベルならば、こうやって傷つけることは不可能なのだろうし。


 ゲームで言うなら、防御無視の固定ダメージってとこだろうか?

 いや、レイアさんがもし神威で防御していたら軽減、もしくは無効にされていただろうし……例えが思いつかない。


「練度や魂のレベルを上げれば、そのうち石弾(ストーン・ブラスト)程度では傷一つ付かなくなる」

「…………」


 聞けば聞くほど、デタラメな力だ。

 現実世界の銃が効かなくなるようなものだ。


「存在としての密度の問題。普通ならば魂は一つではあるが、他者を殺せばそれだけ自らの魂は強くなる」

「それが、この世界の"ルール"ってことか……」

「そうじゃ、幾千、幾万の魂の力を纏めている存在を、普通の剣や槍で倒すことは出来ぬ。木の棒で城を破壊できないのと同じようにの」

「なるほど」


 ひしひしと感じる。

 やはりレベリングって大事なんだな。


「話が少し逸れたが、今のお主は”活動位階”。神威の第二段階。"神威使い"と呼ばれる者の基本中の基本。神威を具現化し、ある程度操ることもできるが、ほぼ無意識下のみで動いておるようなもの。さっきのそれも、意識的にはできまい。肉体の強化も、コントロール出来ぬが故にさほどでもない」

「ちなみに……レイアさんの位階は?」

「ワシの位階は第四段階じゃ」


 ええと、第一と第二が潜在と活動で、その上が顕現だよな。

 ……ん? じゃあ第三じゃないのか?


「え? 顕現で終わりじゃないのか!?」

「うむ、神威は計五段階に分けられるが、今のお主が考慮する領域ではない。少なくとも"顕現位階"に慣れてからじゃの」


 完全にコントロールできるようになるのが顕現だというのに、その上があるというのか。

 まだ確かに早いとは思うが、どんなものなのかは気になる。


「じゃあ……位階の名前だけでも教えてくれないか?」

「……顕現位階の一つ上が"独創"、最終的にそこから二つに分岐し、"覚醒"もしくは"流動"に派生する」

「おぉ」


 名前だけ教えてくれた。

 そもそも神威とか言ってる時点でやたら厨二臭いが、最終段階はもはやカッコ良さとダサさの分水嶺だ。

 だが、それがいい。


 名前の時点では全く想像つかないが、どういったことができるのだろうか。

 エミルやベルギスも知らずのうちに、この最終段階に到達していたのだろうか?


「ま、第五段階についてはほぼ神話みたいなものじゃ」

「辿り着いた者はいない……とかか?」

「ワシの知っている中では、二人。じゃの」


 割といるじゃん。

 こんな友達も少なそうなレイアさんの中の二人と聞くと、少なく感じないのだが、どうなのだろうか。


「まぁ、何度も言うが、まずはコントロールせねばどうにもならん。『土壁(アース・ウォール)』」


 再びレイアさんが魔術で土の壁を生成する。

 が、先程までの大きさなどではなく、今度は高さ五メートル・厚さ三十センチはありそうな巨大な土の壁。


「さっきの感覚を忘れんうちにやれ。武器は使うな。あくまでお主の神威のみで破壊しろ。無意識ではなく、"意識的"に操れるようになるまでな。拳を強化し殴るもよし、先ほどのように刃をイメージしてもよい」

「おぉ……!」


 俺は手を合わせ、そこから伸びるように神威をイメージする。

 想いは強く、斬ることを意識して。

 やっぱり、手刀から刃状のオーラが出るって、少年の夢じゃんね?


 俺はイメージを手に持ったまま、土の柱に向かって駆け出した──



 ---



 夕刻。


「ふぅ……」


 俺は休憩がてら、焚き火を焚いていた。

 未だ健在な巨大な土の壁の前で。


「コントロールってなんだよ……」


 あれから、俺は何度か"刃"をイメージして手刀で土の壁に斬りかかった。

 結果は切り傷がついたり、刺さったような感覚はあるが、両断や破壊とまではいかない。


『お主の焚き火は、ある意味解脱の域じゃ……』


 レイアさんの言葉を思い出す。

 彼女曰く、俺は焚き火スキルが神威を使うのに昇華されたようなものらしいが……。

 焚き火か。

 フェイの無駄とも思っていたスキルが、まさかこんな技術まで発展するとは思わなかった。


 ──パチッ。


 火に焼べた薪が弾ける。

 いつのまにか、俺もすっかり焚き火にハマってしまった。


 ……火はいいな。

 炎の揺めきを見ていると心がおちつく。

 いつまでも長く見つめていたい。


 長く続けるためには薪を無駄に燃やさないようにすること。

 ……たしかに、フェイの記憶でも初めて焚き火をした時は上手く火がコントロールできなくて、火の粉が飛散して、クリスの家の屋根を燃やしたこともあったっけ。……俺の身に覚えはないが。


 その後、クリスにこっぴどく怒られたな。

 その記憶だけ持っている俺はただのとばっちりだ。


「焚き火に学んだこと……」


 その記憶のように、火力が強すぎれば薪を無駄にするし、そもそも熱すぎて暖をとるにしては意味ない。

 例えば他に、湯を沸かすのにも、火力が小さすぎれば時間がかかるし、多くの薪を使ってもコスパは悪い。

 重要なのは、火力の調整だ。


「火力の調整……」


 神威に例えるなら力や想いの調整……?

 神威を"顕現"させるのに、力みすぎたり、雑念が入っているってことか……?


 俺は立ち上がり、深呼吸しながら再び手刀を構える。


 自然に、薪に火を付ける時のように、何も考えず、ただ俺の肉体にある"神威"を体の一部とし……。


 手のひらに意識を集中する。

 燃え盛る焚き火の炎を心に浮かべる。

 その動きを俺の神威に重ねる。


 俺の手がぼんやりと輝き始めた。

 だが、まだだ。

 もっと、もっと強く。

 剣としての形態をイメージして、その質量、密度をも、俺の中で創りあげる。


(…………いける)


 俺は金色の剣を壁に向かって振り下ろした。

 その刃が土の壁に触れた瞬間、壁全体に衝撃が走る。


 ザンッ──!!!


 鋭い音とともに、巨大な土の壁は左右に真っ二つに割れた。

 切断面はまるで鏡のように滑らかで、土とは思えないほど綺麗な断面が広がっていた。


 そして今まで薄く、ほぼ不可視だったハズの具現化された剣状のオーラが、今ではハッキリとその形を保ちながら、俺の手に宿っていた。

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