表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/227

第四十五話 「マルタローとの絆」

 なんと、マルタローが俺の肩に飛び乗ってきた。


 俺は呆然として、空いた口が塞がらなかった。


「わふ! わおん?」


 マルタローは「わんわん」と鳴くと、俺の顔と前方をキョロキョロして、まるで『はやく行こうよ』と歩き出すように促している。

 それは、俺が以前サイファーやクリスに嫉妬と羨望の眼差しを持って見ていた"信頼関係"そのものだった。


「……っしゃぁあ!!」

「わふ?」


 俺はあまりの嬉しさにガッツポーズをした。

 マルタローは不思議そうに眺めている。


 あぁ、わかんねぇかなこの感動。

 でも、それでもいい。


「行くぞマルタロー!! 落ちんじゃねぇぞ!!」

「わおぉおおん!!」


 森を駆け抜けながら、俺は嬉しさを存分に走る力に変えた。

 初めてマルタローと心を通わせることが出来たと思った瞬間だった。



 ---



「遅いんじゃまったく!! 今度はマルタローまで逃したのかと心配したんじゃぞ!!」

「はい……ごめんなさい」

「……わふ……」


 その日はいつもより長く散歩をしたせいで、サイファーにきつく叱られた。

 マルタローも俺の肩でしょんぼりとしている。

 その姿を見たせいか、怒り口調のサイファーも、どこか優しい表情だった。


 寝る時は、なんとマルタローの方から俺の毛布に入り込んでくるようになった。

 彼は完全に俺に懐いてくれた。


 頭を撫でても怯えることはなくなったし、いうこともちゃんと聞いてくれる。

 ……俺のわがまま以外は。


「わふぶ!!」

「お、なんだその木の実? 俺にくれるのか?」


 楽しかった。

 マルタローと過ごす日々は、まるで子供の頃の友達と遊ぶような気分だった。



 ---



 そして、そんな日々が一週間ほど続いたある日──


「あー……まだ暑いなしかし」

「…………」


 俺は現在、居間でマルタローと休憩中だ。

 散歩も終え、毎日の魔術練習と筋トレを終え、椅子でゆっくりとしている。

 マルタローは俺の膝の上で丸くなって眠っているが、いかんせんコイツはもふもふすぎて暑い。

 乗っているところだけ俺は汗だくだった。


「マルタロー、寝るなら自分のベッドで寝ろよ」

「…………わふ」


 眠たそうに大欠伸をかましながら伸びをして、ふらふらと自分のベッドであるカゴの上に返っていく。


 ふっ。

 見ているだけで癒される。

 犬……ではないが、犬を飼っているとこんな気分になるんだな。


『マルタローのこと、頼んでもいい?』


 クリス、俺は今、マルタローと幸せにやってるぜ。

 ……お前にも、俺たちの仲良くなった姿を見せてやりたかったな。


「フェイ」

「……ん?」


 不意にかけられたレイアさんの声に、俺はぼんやりした頭を上げた。

 居間の入口に立つ彼女の表情は、いつもの無愛想なそれとは少し違う。

 どこか真剣で、けれど厳しさよりも期待を感じさせる目だった。


「……なんだ、レイアさん?」

「サイファーと話し合ったんじゃ。そろそろ、お前に"神威"を教える頃合いじゃろうと」

「神威?」


 俺の言葉に、彼女は軽く頷いた。


 神威。

 そういやそんなものもあったな。くらい思えるほどだ。

 俺がそれを『体感』したのは二回。

 プレーリーでクリスに囃し立てられ、特訓した時に丸太を貫通させた時と、同じ日のザミエラと戦った時。

 効果はその時持っていた木剣を異常レベルで強化できたアレ。


 正直、どちらの時も無我夢中で、発動できた理由もわからない。


「外でやる。来い」

「あ、あぁ……」


 レイアさんに促され、俺は居間を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ