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第二百二十一話 「また、帰るんだ」

 俺は、オルドジェセルなんかとは違う。

 何があっても彼女のために世界を滅ぼそうだなんて真似は絶対しない。


 というか、そんな自分を想像するだけで笑いが込み上げる。

 俺が? 世界を? 何言ってんだよ。

 厨二病乙。


 だから、俺は"奴"なんかとは違うのだ。


「ふふ、まぁでも、感謝はしてるの。あの人がいなかったら、アルティアと彼の関係がなかったら、きっと今はなかったって思うとね、怖くなるしお礼も言いたい」


 腕の中で、マリィが小さく笑う。


「でも、それがフェイを辛くさせてる。げーむ世界ってのが何なのかはわからないけど、この世界に巻き込まれて、大変なことになって…………あの人のあなたに対する扱いは許せない」


 俺は弱い。

 とんでもなく。


 上手くいかないことがあればすぐに投げ出すし、人のせいにして泣き出すクズだ。

 それを彼女は──かつてのクリスのように俺を励ましてくれている。

 寄り添ってくれている。


「おかしいよね。理屈にはなってないかも……。私はアルティアとあの人のおかげでフェイに逢えた。だから嬉しいけど、フェイは私なんかと会わない方がよかったのかも」

「そんなことない!」

「────ッ!」


 ぎゅっと強く抱きしめると、声にならない声をあげて強く抱き返してくるマリィ。

 俺たち二人は二人とも、互いがいないと立てないくらいに絡み合う。


 大魔王の代替である俺と、女神の代替であるマリィが自分の居場所を確立するために。

 それは依存なのか、逃避なのか、あるいは何だ? 分からない。


 だけど俺も彼女も、とうに理屈の範疇で説明できる精神状態を超えていて。


「一緒にいたいよ。またプレーリーで静かに暮らしたい。この手を、離したくない。離さないでほしい」


 言わなくていい。

 俺だってどうやったら離せるのかもうわかんねぇよ。


「一緒に勝とうよ。戦おう? 私、それしか出来ないから。お料理もまだまだだけど、それだけは誰よりフェイの力になれるよ」

「俺も……」


 呟くように、絞り出す。

 俺が誰で、何者で、何のために存在するのか──

 そんなの言うまでもない、ツバキと話した時から決まってる。


 何処の誰が何と言おうと、これは俺が決めたことだ。

 もうぶれないし迷わない。


 俺はただ、この子のために──


「俺はマリィを、幸せにするためだけにいるんだ」

「私も、フェイのためだけにいるんだよ」


 そこから先、言葉はもう必要なかった。


「ん……」


 唇を重ね合う。

 貪るように、溶け合うように、二人で一人だということを強く確かめ合うように。


『クリスもそう願っている』

 その"想い"が、俺の罪悪感を消す。

 彼女の想いが合わせ鏡となって反響することで、俺もマリィも心置きなく貪り合う。


 "彼女"も見ている。

 俺たちを通して、にこりと小さく笑っているのだろう。

 もう二度と、君のようにマリィを失わせない。


 あるいはこれも、オルドジェセルの掌の上かもしれない。

 しかしそれがどうだというんだ。


 関係ない。

 好きに言ってろ。

 この女神の魂を引き継いだ彼女は俺のものだし、他の誰にも渡さない。


『彼女に恋をした』だ?

 触れられもしねぇくせに、そこで指咥えて見てろ。


 この狂った世界。

 俺が全部どうにかしてやる。


 結末がどう転ぼうと、それが俺たち二人の望む大団円だ。

 お前の趣味の悪い脚本ですら、マリィが主演ならどこまでも輝く。

 俺がそのように彼女を愛す。


 祝福しろよ、拍手でもしろ。

 あるいは嘲笑うか、歯軋りか?


 何にせよ、今俺は誰も触れられない女神に触れている。

 こういうことだ。

 お前じゃ彼女を愛せない。


 彼女を変えるのも、解き放つのも、お前じゃない、エミルでもない。

 俺がやるんだ。

 だから今のうちに、得意の独り言をずらずら並べて悦に入っているがいい。

 必ず後悔させてやる。


 勇者と大魔王の最終決戦?

 変えてやるよ、勝つのは俺とマリィだ。

 もう離れないし離れたくない。


 だから見ていろ。

 文字通り首を洗って待っていろ。


「必ず勝とう。マリィ」

「うん、うん……うん、そして……」


『いぎゃああああ! マルタロォオ!!』

『わふぅうう!!』

『しょーがないなぁ、もう』


 また再び、あの陽だまりへ帰るんだ。


 誓いを胸に刻みつけ、この夢幻に逢瀬は果たされた。

 優しい亜麻色の光に包まれながら、俺たちは互いを強く抱きしめあい、その温もりを分かち合う。


 そこからはもう……言葉も必要ないだろう。

 俺たちは黎明の浜辺で互いしか見えない距離感の中、どこまでも深く貪りあった。


 今だけは顔を背けていてくれ。

 と、クリスに祈りながら、この時間が永遠に続けばいいと願いながら──


 マリィの総てを、魂へと刻み込んでいた。

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