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第百四十一話 「お揃いの首飾り」

作者よりお知らせ


申し訳ございません!

百三十八話の投稿が抜けてました( ; ; )


フェイVSクロードの後にいきなり三人称視点が食い込む形になってしまいましたので、割り込み投稿で百三十八話を投稿させていただきました。


もし「何ぃ!? 読まねば」と思っていただければそちらからお読みいただけると幸いですぅうう。

 装備の見直しも一段落し、俺たちは港町グランティスの南通りに面した石畳のベンチに腰掛けていた。

 潮風が湿気とともに吹き抜け、背後の海が穏やかに波を立てている。


「……まぁ、こんなもんかな」


 腰のベルトに手を添え、俺はようやく揃えた装備に目を落とす。


 鋼の鍛造剣。

 刃紋がわずかに浮かび上がるシンプルな直剣だが、重さとバランスに優れ、いざというときにも十分斬れる。

 上半身には、ドラゴンの革を編み込んだと言われている鎖帷子。

 柔軟性と防御力を兼ね備え、なおかつ魔法耐性まで持ち合わせた高級品だ。


 見た目にも申し分ない。

 地味過ぎず、かといって派手過ぎない、程よい“ベテラン感”が演出されている。


 ふふん──だが、真の目玉は別にある。


 首元でひらりと揺れる、灰銀色のマフラー。

 特殊な繊維で編まれており、呪詛や魔術に対して緩衝効果を発揮するらしい。

 多少の魔術では吹き飛ばされずに済むとか。


 身につけているだけで、なぜか背筋が少し伸びる。

 いや、自信というのは案外、こういう“見た目”から始まるのかもしれない。


「いや~、カッコイイっすねぇ、フェイさん! もうどこからどう見ても歴戦の冒険者じゃないっすか!」


 隣でロイドがまるで観光客のように拍手してくる。

 どこで覚えたのか「グッジョブ!」なんて指を立てて、くるくる回っている始末だ。


「そ、そう見えるかな……」


 ちょっと照れる。

 いや、自分で選んだ装備に満足はしているが、褒められると背中がむず痒い。

 だって──


 これ、ぜんぶで金貨五枚くらい飛んでる。


 それでも装備は嘘をつかない。

 今後の戦いに備える意味でも、妥協するわけにはいかなかった。


 しかし、俺のランクは無情にもDランク!

 これではただの形から入るだけの初心者冒険者にも見えなくはない。

 うーん、落ち着いたらランクも上げていきたいなぁ。


「しかしクロード船長、遅いですねぇ。先に行っといてくれとは言われましたけど、装備を買い終わるまで結局来ませんでしたね」


 ロイドの言葉に、俺は少し首を傾げる。


「たしかに……意外と時間かかったんだけどな。マリィとか、結構悩んでたし」

「う、うるさいわよ……フェイ」


 ベンチの端っこで、購入したばかりのガントレットを装着しながら、マリィがジト目で俺を睨んでくる。

 いやいや、事実じゃん。むしろ俺、けっこう早かったぞ?


 女の子らしい装備──とはいっても、マリィの場合は“見た目”より“機能性”が優先される。

 というのも、こいつ、成長期がやばい。

 日に日にでかくなっているのだ。


 それと、武器はどうしようかとも悩んだ。

 人型になって剣とかも持てるかもしれないけれど、多分持たずに殴ったほうが強いので、ガントレットを購入した。


「なんか……かわいくない……」


 本人はしょんぼりしているが、正直、バカ力にはこれが最適解だと思っている。


 武器以外は、主に小物系で固めた。

 たとえば、首元にかけた首飾り。


 火属性への耐性と、一定確率で自己修復の効果がある──なんて豪華な品もあったが、マリィが選んだのは、ただ一本の銀鎖に宝石を通しただけの、装飾らしい装飾のない無骨な首飾りだった。


 効果は……ほぼゼロ。

 しいて言えば「願いを込めると願いが叶うかもしれない」なんていう、最近グランティスの若い女性の間で流行っているという“おまじないグッズ”らしい。


「なぁ、そんなのじゃなくても、金ならあるし、もっと良い装飾品でも──」

「っ……いいの! これで!」


 食い気味の返答に、思わず俺は言葉を飲む。

 あぁ、たぶん“女心”ってやつなんだろうな。


 本人が良いって言ってるんだ。

 なら、それでいいじゃないか。


「フェイクラントさんの首飾りとお揃いですね!」

「えっ」


 ──その言葉は、隣のロイドからだった。


「フェイクラントさんが着替えているときに、装備の下に宝石の首飾りが見えたので、きっとマリィちゃんも同じようなものをしたかったんじゃないでしょうか」

「あ……なるほど」


 そういう理由か。


 俺が首にかけているあの飾りも、意味としてはただの思い出の品だ。

 レイアさんから旅の祈願として渡された、小さな贈り物──それをなんとなく肌身離さず身につけているだけだったのだが……。

 言われてみれば、マリィの選んだ首飾りの宝石の色は、俺のと同じく深緑って感じだ。


 しかし、妙なところで鋭いなロイド。

 戦闘は未熟だが、恐らくこういうのに気づけるところがモテる要素だったりするのだろう。


 しかし──


「そ、そんなんじゃない!! ロイドなんか嫌い!!」

「えっ、えぇぇ~~!?」


 案の定というか、予想通りというか、マリィの怒号が炸裂した。

 ロイドはわたわたと両手を振りながら、「え、俺、間違いました!?」と目を白黒させている。


 ──まぁ、気づける能力があっても、それを口に出したら負けだよな。



 ---




 グランティス・冒険者ギルド


 ここはこの町でも数少ない、“昼より夜のほうがうるさい建物”として有名な場所だ。

 ギルドというよりは“ギルド付き飲み屋”と呼んだほうが正確かもしれない。

 外観はそこそこ重厚だが、軒先からは常に酔っ払いの笑い声と、こもったような音楽が漏れ聞こえてくる。


 そう、以前も来たことがある。

 ──クロードが決闘したあの日だ。


 重厚だった正面の木扉は、今や新しい板材で見事に修復され、細かい装飾まで施されている。

 前回来たときは、クロードがジルベールとかいうBランク冒険者を一発で宙に打ち上げ、その勢いで扉を壁ごとぶち抜いた──のに、いまや見事に元通り。


 が、ギルド内部の状況は──


 再び破壊されそうな状況になっていた。


「ひっ、ひいぃぃぃ……!! や、やめてくれぇぇ……!」


 入って早々、視界に飛び込んできたのは、床に転がる一人の小太りの男。

 身なりからして、どうやら商人か何かのようだが、今はそんな身分もプライドも床に置いてきたかのように、全力で命乞いをしている。


 その彼の頭上にそびえ立つのは当然──


「おや、フェイクラントくん。良い装備は購入できたようだね」


 そう、どこまでも涼しい顔をしたクロードだった。


 ……いやいやいや。


 なんでお前はそんな冷静なんだよ。

 床──めっちゃ割れてるんだが!?

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