表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

146/226

第百四十話 「新人ロイドは仮メンバー」

 転移魔術を使い、俺、マリィ、クロード、ロイドの四人は、再びグランティスの港町へと戻ってきていた。


 石畳の広がる大通りを抜け、潮風の匂いが鼻を掠める。

 背後には木造の建物が立ち並び、通りを行き交う人々の喧騒が心地よい雑踏となって耳に届く。


「俺はギルドに用がある。先に行っててくれ」


 そう言い残し、クロードは飄々と手を振って別行動に入った。


 さて……というわけで、残された俺たち三人が最初に訪れたのは──



---

 


 グランティス中央銀行。


「……はい、お預かりした小切手を現金に換算しますと、こちらの額になります」


 受付嬢が整った声でそう言った直後、俺の前に置かれた銀盆の上には、金貨、金貨、金貨の山。


「……えっ?」


 一瞬、脳が認識を拒絶した。


「マ……マジっすか……」


 隣に立っていたロイドが、わなわなと震えていた。

 顔面蒼白というより、金の輝きに当てられて貧血気味みたいな様子だ。


「田舎の屋敷が二つは買える額っすよこれ……」

「やめろ、そういう具体例を言うな。持ち去って逃げたくなってくるだろ……」


 いや、確かにサイファーが俺たちに託したのはSランクパーティに大陸を跨がせ、さらには戦地に送るという超ハードな依頼だ。額がそれなりなのは当然。


 でも、こう……実際に数字として、金貨として目の前に並ぶと、現実味が薄れて逆に怖くなってくるんだよな。


「ていうかお前、キャプテンクロードのパーティメンバーだろ。こういう報酬、見慣れてるんじゃないのか?」

「あ、いえ……俺、実はまだ一緒にクエストしたことなくて」

「そうなのか?」


 そういや新人とか言われてたっけ。

 よくもまあ、あのクロードのパーティに入れたもんだな。


 実際この前の“襲撃”だって、ナイフを背後から突き付けた状態からスタートというアドバンテージを持っていながら俺に負けていたわけなのだが……どこかに光る素質があるのだろうか?


「……あの、お客様。こちらの金貨、そのままお持ち帰りになりますか?」


 受付嬢が、言いづらそうに声をかけてきた。

 まあ、そりゃそうだ。

 こんな金の山を持ち歩くような物騒な真似はしたくない。


 というか、装備を揃えるために使えと言われたが、ぶっちゃけここまで高価な装備ってこの世界にあるのか?

 金ぴかの見た目重視の儀礼用装備とかならともかく、実戦向きとなると、そこまでの品はそうそう見ない。


「……金貨十枚だけ持っていきます。残りは預かっておいてください」

「かしこまりました」


 というわけで、金貨十枚だけを持ち歩くことにする。


 何円になるのかって?

 世界一周の船旅! に書いてあるポスターの額くらいかな。

 まぁ、これでも持ちすぎかもしれないけど。

 


---



 銀行を出て、日差しのまぶしい通りへと戻る。


「じゃあ、次は装備屋さんだね!」


 マリィがはしゃぐようにスキップしながら言う。

 そんな彼女に笑顔を返しながら、俺も歩調を合わせる。


「ああ、そうだな」

「いやぁ……さすが船長というか……もう冒険者なんて辞めて、一生遊んで暮らせる額じゃないですかね?」


 後ろからロイドが肩をすくめて言ってくる。


「そうかもしれないけどな。多分、好きでやってるんだろうよ」

「たしかに、フェイクラントさんと戦ってるときなんか、めちゃくちゃ楽しそうでしたよ!」

「えっ、そうなの?」

「ええ。あの人、喧嘩を売られることはたまにあるらしいんですけど、基本は一撃で終わるらしくて。近接戦で応酬できる人なんて、フェイクラントさんが久しぶりだったんじゃないですか?」


 ──……おや?

 それはなんか、ちょっと嬉しいかもしれない。


 俺の中にふわっとした感情が膨らんでいく。

 かつての世界で、喧嘩なんて無縁だった俺が──今、“あのクロード相手に互角で戦った男”として噂されているという事実。


 ……なんだろうな。

 これはたぶん、ヤンキー漫画で「アイツ、番長と互角にやり合ったらしいぜ」って言われてるキャラの心情が、少しだけわかった気がする。


 優越感……というより、ちょっとした、誇らしさ。


「むふふん!」


 と、なぜかマリィが自分の胸を張った。


 いやお前じゃないだろ。

 なんでそんなドヤ顔してんの。


「……まぁ、全然本気じゃなかったと思いますけどね」

「ぐっ……言うなよ、それは……」


 石畳の通りを、三人でのんびり歩く。

 騒がしくない時間が、心地よい。


「というかロイド、お前よくその実力でクロードのパーティに入れたな。俺から見ても、せいぜいEランク程度だぞ?」

「ぐぅぅっ……」


 俺の言葉に、ロイドは胸を穿たれたようにしょぼんと肩を落とした。


「たまたま募集中だったとか?」

「いやぁ……まぁ、募集してるわけでもなかったんですけどね。自力であの洞窟を見つけ出して、めちゃくちゃ頼み込んだら……一応、試験的に入れてくれるって感じっす」

「自力で、あそこを?」


 ちょっと驚いた。

 あの洞窟、地図にも載っていなかったはずだ。しかも道中には魔物もうじゃうじゃいた。


 よほど執念があったか、あるいは……


「……探知能力でも持ってるのか?」

「いや、それが……まったく。せいぜい逃げ足に自信があるくらいで、何度か死にかけましたよ」


 苦笑しながらロイドは言う。


「俺、ただ冒険者に憧れてただけなんです。でもビビりだし、力も弱いし、魔術だって初級をちょっと使える程度で……」


 ぽつりぽつりと、ロイドは語り始めた。

 その声は、なんというか、遠い過去の自分を思い出しているようだった。


「でも、俺だってクロードさんみたいになりたかったんです! 田舎から出てきて、初めてグランティスのギルドで彼を見たとき……本当に、衝撃で」


 ふと、目が輝いた。


「ひとめぼれ……っていうんですかね。あの強さ、カッコよさ、みんなが憧れてて、しかも職業が“海賊”なんて……ダークヒーローっぽくて、めっちゃ痺れたんですよ!」


 それは、純粋な憧れだった。

 戦うことの強さに、誇りに、男の生き様に──一度でいいから触れてみたい、そんな思いがあったのだろう。


「それで、どうしても一度会いたくて、あの洞窟を探し出して……頼み込んで、頼み込んで……やっと、仮メンバーとして置いてもらえることになって」

「……仮、なんだな」

「はい。副船長には“使えないならすぐに降ろすからな”って脅されてます。完全に嫌われてます、俺」


 はは、と笑うその顔には、悲壮感よりも“受け入れている覚悟”があった。


 ──なるほどな。


 ロイドは確かに弱い。

 でも、あの洞窟まで独力で辿り着いた意志の強さ、何度も断られてもへこたれないしぶとさは、本物だ。

 あれは単なる執念じゃない。

 誇っていい、正真正銘の“夢追い人”だ。


「……昔の俺とは違うな」

「えっ、なんです?」

「いや、なんでもない」


 俺はふっと笑って、視線を前へ戻す。


 道の先には、装備屋の看板。

 旅の再開に向けた、次の一歩が俺たちを待っていた──

やっちまいました……百三十八話飛ばされてますね。


申し訳ございませんんんんん。(:3_ヽ)_


次回は百三十八話を上げさせていただきます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ