懐かしのクリームソーダ?
今日の俺、いつものように社員ダイニングにて、愛妻弁当を頬張る……ことが出来なくなったので、久しぶりにお店ランチだ。
カフェっぽい見た目ながら、いろんなメニューがある。
そこで俺は夏の終わりを感じるべく、冷やし中華を啜ろうと、メニューに目を向けるとすでに無かった。
冷やし中華 始めました――については、堂々出すくせに終わりましたは告知されないよなぁ。
まぁ、終わったもん掲げられても「だから?」な気分になるから仕方ない。
「イトちゃん、聞いて聞いてー!」
えーーー! この声は宮原?! なんで俺が外メシ行く時レアなのに、このパターンになるわけ?!
「うん、聞くよ。今日はどこまでのリンクか楽しみだわ」
伊藤、声を弾ませている。
そう、弊社の優秀な女性社員、伊藤と宮原は、何故か旦那の行動が異様に似ているのだ。
なんて事ない旦那の愚痴、とおもったら「それ、うちも! もしかして〜〜だったりする?」「するするー」のように、あれよあれよと、似たり寄ったりが吸い寄せられていく。
全てではないにしろ、ちらほらとその話を飯の時、俺の後ろでするのもあり、地味に伊藤・宮原の家庭事情が見えている。
あと、彼らの旦那は取引先の人であるのと、弊社人事部にいる。そして、飲み仲間でもあるため、聞き流しがなかなか出来ない……。
「旦那が泣いたー」
これはガチ泣きか? それとも心が泣いた軽いやつか?
「こないだ、一緒に買い物行って、喫茶店に入って、あたしメロンクリームソーダ頼んだの」
「わ、懐かしいね!」
メロンクリームソーダって、宮原と伊藤でも懐かしいものなのか……。
俺が小さい頃は、デパートの8階にあるレストランエリアにある、お子様ランチの食品サンプルと並んで輝いていた緑のヒーローだったが……彼女らなら年代的に、小さい頃からもっとバリエーション多く食って飲んでいそうな気がするのだが、懐かしいのか……
「そうそう、子供の頃さあの綺麗な緑色が面白くて、甘いしアイスもあるし! あ、チェリーはどうでもいいかな!」
「わかるー! でも、舌がすごい色になるから、小学校の中盤からは、なんか恥ずかしくて飲めなくなっちゃった」
おい、チェリーさんが泣くぞ。
俺の友人の辻堂は、チェリーさん探して夏に財布を軽くして体を重くする修行をしてたのに!
「けど、懐かしさで飲みたくなって頼んだらさー」
「ふむふむ?」
人事部の宮原が何故泣くのかは、まだ見えてこない。
「親が商売やってるから、なかなか外食に連れてってもらえなくて、ずーっと飲みたかったんだってさ」
「あー、幼稚園くらいの頃だと、ホントにあれにときめくものねー」
あー、なかなか親と外食に行けなかったパターンか……。
「んで、おばあちゃんが連れ出してくれたから、メロンクリームソーダは思い出の味なんだってさー。んで、小学校に上がる前におばあちゃん亡くなっちゃって、それっきりメロンクリームソーダが悲しくて飲めなくなったらしくって」
「わぁ、思い出だと中々つらいよね……」
さて、ランチが届いたぞ。ワンタン麺と餃子!
ビールが欲しくなるけど、午後の仕事に向けての栄養補給だ。がまんがまん。
「んで、旦那がガチギレしてきたの」
「は?」
え? ……あっつ!! ワンタン麺あっっっつ!!
伊藤の素っ頓狂な声、ちょっとレアい。
「なんで、悲しい思い出掘り起こすんだー! って」
「え、宮ちゃん知ってたの?」
「初耳」
「はあぁぁ?」
伊藤さん、声めっちゃ低いです。怖いです。
人事部の宮原への怒りでしょうか?
「話をしてもいないくせに、ガチギレでその後勝手に泣いたの?!」
「うん。怒って泣いて拗ねて部屋にこもって、めんどくさかったー」
宮原、ちっとも気にしてないな。声明るいぞ……。
クリームソーダが思い出の味は、なんとなくわかるけどな。
お袋が内職で稼いだお金を持って、デパートに連れて行ってくれたなぁ。
屋上遊園地の観覧車には乗れなかったけど、俺が仕事するようになったら、乗せてあげるって約束したなぁ。
働く前にデパートごと潰れたけど。
「おれがおばーちゃんに、クリームソーダご馳走してあげる夢が叶わなかったーって、わんわん泣いてさ。んで、思い出させたことにブチギレてきたからー」
「うっっわ、うざっ!」
うーん。どっちも気持ちもほんのりわかるだけに、ジャッジしづらい。
宮原の声は明るいが、伊藤の声が怖いぃ……。
「宮ちゃん、気にしてない感じ?」
「うん。あっちが勝手に思い出して、勝手に怒って、勝手に泣いたんだもん。気に病む理由なくない?」
「まぁ。でも、怒ってもイイんじゃないの?」
宮原は八つ当たりされただけだもんな。
伊藤になら、愚痴のひとつ、こぼしそうではあるが……。
「えー、そんなのどーでもいいよー」
宮原家はクリームソーダ崩壊を起こすのか?!
「私ならガチギレ返ししちゃいそ、えらいね」
「だって、全面的にあっちが悪いしね!」
「そうね」
「ま、よくあるからー。3週間くらいしたら、いつも通りになるよ」
「そっか」
よくあるのか……軽い感じからして、大丈夫なのか?
伊藤の声も心配ゼロだな。
人事部の宮原は3週間テンション低い、覚えとこ。
ん、なんかLINNEメッセージが……。
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辻堂
メロンクリームソーダのガチャ見つけた!
サクッと緑だして、クリームソーダの神に
愛されている証明する!!
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あ、こいつ懲りもせずフラグ建ててる。
俺はメッセージを返す。
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漂流に1票いれとく
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うん、餃子もうまい。