9開花までの時間
ここはラルクール王国北域、ルンボイ郡である。
そして私はこのルンボイの地の統治を王国より預かっているルーゼ・ルンボイである。
今は28歳であるが、これほど若くして郡長を務めるのは異例らしい。
整えられた執事の様な髪型と口元の髭が私のトレードマークだ。
私が王よりこの地を賜ったのはちょうど8年前のこと。
前にこの地の郡長であった者が魔族と取引をしていることが発覚し、処刑された。
ルンボイの地の後継人についての議論が起きたとき、孤児院の出身ながら王の側近に仕えていた私に白羽の矢が立った。
ただでさえここは王都の辺境。魔族が出入りしているという情報もある。
王は私がルンボイの地に行くことを最後まで反対してくださった。
なぜ私が辺境のルンボイ郡の郡長になったかは今でも分からない。
しかし大体のことは想像できる。
私が孤児院出身だからか、派閥争いに巻き込まれたからか。あるいはその両方か。
しかし一番大きいのは私が貴族出身でないのにも関わらず、王の側近として仕えていたからであろう。
地位や名誉がこの世のすべてだという貴族たちが黙っているはずがない。
どんな理由があるにしろ、一つの領地を任せられた以上中途半端に仕事をするわけにはいかない。
王のためにもこの仕事を完璧にこなして見せると誓った。
しかし、現実はうまくいかないものだ。
最初の頃は周りの郡長からの嫌がらせや郡内外の貴族からの邪魔ひどかった。
それにより何回もルンボイが崩壊しかけた。
それでも私は心折れることなく仕事をこなした。
皆の協力もあり、荒れ果てていたルンボイの地は徐々に活気を取り戻した。
次第に嫌がらせw魔が減っていき、手のひらを返したように皆が私を褒め称えるようになった。
恐らくそれはメンツのためであろう。今後何かあれば必ず私を握り潰してくる。
王も手を打ってくださっているらしいが私も警戒せねば。
そんな中、バイン村から使いの者が来た。
稲の収穫の報告にしては早すぎる。何か起きたのであろうか。
警戒感が高まる。
私は使いの者に伝言役を送り部屋で待った。
「報告いたします!バイン村にて魔の種の発芽を確認。緊急処置に失敗したとのことです!大至急郡長殿にいらしてほしいとのことです!」
魔の種だと!?伝説上のあれか。
「分かった。すぐにバイン村に向けて出発する。準備を整えろ!」
「はっ!」
魔の種とは王国に古くから伝わる種のことである。成長すれば一国を亡ぼすという恐ろしい植物だ。
王国は一度それに滅ぼされたという伝承があるが、確かなことは分からない。
まさか本物じゃないだろうな。
王国ではこのような事態は年に数回起きてるた。しかし大抵の場合見間違いであったり、ただの魔石であったりする。
しかし今回ばかりは違うかもしれない。
バイン村には王国で指折りのポーション専門家がいる。この世界の大抵の植物について知っているはずだ。
しかも、あの村には元宮廷魔術師のガルン殿がいる。
あの方がいれば大抵の問題は解決するだろう。
しかし、あの方々が緊急処置に失敗するとは信じがたい。
考えたくはないが本物であることを前提に行動をしたほうが良いだろう。
もしそれが魔の種でなかったとしても、ガルン殿の手に負えない何かであることは確実だ。
最悪の事態を想定して王都に使いの者を送ろう。
宮廷魔術師が本格的な浄化をするために派遣されるはずだ。
できることは全てやった。
私があとできることはバイン村で指揮をとることだけであろう。これが全てガルン殿の戯言であると願いたい。
「ほかに情報はないのか!」
「はっ!魔の種を抑え込むために生贄の者を用意したとのことです!獣人族の子供に監視させているとのことです!」
全く、意味のないことを。生贄を用意したとしてそれが何になるというのか。
幼い命を差し出すとは、ガルン殿も老いたか!
「おい!いつ出発できる」
「はっ!バイン村周辺は蛮族が多い地。兵の用意も多く必要かと。早くて明日の昼頃には出発できると思います!」
「今は時間が惜しい。先行隊を出せ!」
「はっ!」
使いの者によれば、種が発芽したのは少し前とのこと。
村からここまでは早馬で3日ほど。
開花が始まるまでにはまだ時間があるはずだ。
頼む!間に合ってくれ!