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種の勇者の異世界転生  作者: カエル♂
第一章「発芽」
5/11

5商人、種を拾う

これは種がまだ目を覚ましていないときのこと。

王都の北域にあるバイン村に向かって歩く一人の男がいた。

その男は大きな袋を肩に担いで歩いている。



俺はカルタ。王国の北域を中心に活動する商人である。

若いころは冒険者をやっていてA級まで昇りつめた。


あと少しでS級に届くかって時にへまをしちまった。


恐らく自信過剰になっていたんだろう。

俺はSランク級の依頼を受けようとしたんだ。



ーA級冒険者がSランク級の依頼を受けることは可能である。

しかし、ギルドが討伐困難と判断すれば依頼を受けることができない。


この時、この男にも討伐困難という判断が下された。


それもそのはずである。

男が受けようとした依頼はA級冒険者が最低5人必要な下級ドラゴンの討伐以来であった。ー



俺はどうしてもSランクの依頼を受けたかった。自分の力を証明したいと思った。


ギルド長や受付嬢は大反対していた。

俺はできる、やらせてくれ。何度も交渉をした。


それでもギルドは首を縦に振らなかった。

悔しかった。


ならばギルドを通さずに依頼を直接受けてやる。


決して早まるのではないギルド長に念を押されていたが、気にしなかった。


俺は一人で下級ドラゴンの討伐に向かった。


戦闘不能になるまで戦い続けた。

しかし、ついに俺は意識を失って倒れた。


無惨にも、討伐を失敗した。


目が覚めると俺はベッドの上にいた。

ギルド長が難しい顔をして隣に座っていた。


俺は全て分かっていた。

依頼を達成できない理由も、ギルド長が必死で俺を止める理由も。


そして自分がもう冒険者として生きていけない体になっていることも。


しかし、一番辛かったのはこの責任がギルド長にあるということだった。


この件はA級冒険者の暴走という件で処理され、俺には冒険者資格のはく奪、ギルド長には一時停職の処分が下された。


なんて不甲斐ない最後であろうか。



これは冒険者を辞めた後に聞いた話だ。

俺を救出するためにギルド長自ら独断で動いてくれていたそうだ。


俺のために首を切る覚悟でSランク冒険者のパーティを即刻出動させたらしい。その話を聞いた時は膝から崩れ落ちた。


あれから何年たっただろうか。長い年月が過ぎた。

今の商人の仕事は意外と楽しい。未だに計算とか間違えるけどな。



今は薬を売るためにバイン村に行く途中である。そろそろ村が見えてくるころだ。



男は足を速めたが右足は引きずったままである。どこか急いでいるようにも見えるが、どうしたのだろうか。



カキンカキン



金属がぶつかる音が遠くで聞こえる。

これは、蛮族か?久しぶりに冒険者だった頃の血が騒ぐ。


近づくにつれて更に別の音が聞こえてくる。


悲鳴、肉が切られる音、弓を引く音、剣が折れる音。

蛮族の人数は未だ分からないが、戦っているのは全部で10人のようだ。


やがて人影が見えてきた。

蛮族は7人、それに対して冒険者が3人。恐らく新人冒険者だろう。


体にガタが来ているが、これでも元A級冒険者だ。今助けてやる。



「お前たち、加勢する!」


「えぇ!その恰好は商人の方ですか!?僕たちに構わず早くここから離れてください!」 


「それはこっちのセリフだな!こんななりでも戦う力はまだある!」


男が現れた瞬間から戦況が傾く。

蛮族は次々と倒されていく。蛮族はなすすべがない。


ある者は切られ、ある者は逃げ、ある者は許しを請いた。


その様子を見ている新人冒険者たちは尊敬の眼差しで右足を引きずる男を見ていた。


勝負は一瞬のうちに着いた。



はあ、少し体鈍にぶったかな。


「あの!助けてくださりありがとうございます!急に蛮族が飛び出してきて、僕たちここで死ぬんじゃないかって・・・。」


「そうか、間に合ってよかった。俺の助けが遅れていたらお前たち生きて帰れなかっただろうな。」


自分の言葉が強くなっていることに気が付く。



彼らは蛮族を甘く見ていたようだ。

今の状況から察するに、多少けがはするが生きて帰れると踏んでいたようだ。逃げる時間はあったが、力を過信してしまったらしい。


俺は冒険者時代の失敗を話した。

俺が説明すると彼らは過ちに気が付き泣いて感謝してきた。


俺のような経験はしてほしくない。そう願っている。



一通り泣いた後、彼らは蛮族の装備を漁った。戦利品を探しているようである。


戦利品として有効なのは蛮族の名前がわかるものだ。戦利品はギルドで換金することができる。


ネームプレートやメモは戦利品として最もスタンダードなものとして知られている。


蛮族につながる組織の存在がわかるものであれば戦利品としての価値がより上がる。


蛮族生け捕りにすることは戦利品としてこの上なく評価される。そして最も報酬が期待できる。



彼らは私に全ての戦利品を渡すと言ってきた。

最初は断ったが、あまりにも頑固なので俺が折れた。


その中に見たことがない種があるのを見つけた。


しま模様のそれは平らな種だ。

片方が尖っていてもう片方はふっくらしている。


この種が不思議だと感じたのはこの種が微弱な魔力を纏っていたからである。

彼らもそれが不思議であったらしい。



これをどこで手に入れたのか蛮族に聞きたかったが、ほとんどが息絶えていた。


1人生き残っているやつがいたがすでに虫の息である。


私は仕方がなく店に卸すための回復ポーションを使用した。

傷が塞がり、顔色が良くなっていく。


今はまだ話せる状態ではないが、数日後には会話ができる程度には回復するだろう。



しかし、こんな物は王都の文献に記載されていなかったはずだ。新種の植物の種か?


長年冒険者や商人として生きてきてあらゆるものを知っているつもりだ。


ここ数年は初めて見る物は無かった。

だがここにきてまさか種に悩むことになるとは。


しかも魔力を纏っている種など、伝説の話でも聞いたことがない。


村に着いたらカランにこのことを話してみるとするか。


ようやく帰りの支度を終えた新人冒険者に向かって叫ぶ。


「さてお前たち、日が暮れる前に村に帰ってしまおう。」



男は再びバイン村に続く道を歩き出した。


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