3 平原香苗 Ⅲ
香苗が自分を傷つけたあの日から、家族で過ごす時間は一時的に増えた。一緒にいる時間が増えればその分だけ仲良くなれる。香苗はそう思っていたが、現実は逆だった。
お互いの何がそんなに気に食わないのか、香苗の両親はいつも喧嘩ばかりしていた。
「お母さんは、どうしてお父さんと結婚したの」
そんなに喧嘩ばかりするのにどうしてだろうと、香苗はただ純粋な疑問を口にしただけだった。
母親は問いかけに対して目を見開くと、眉間に皺を寄せて香苗の顔を睨みつけた。
「……堕せばよかった」
その発言の直後、母親はひどく取り乱して泣きながら香苗を抱きしめた。それから何度も何度もごめんなさいと謝り続けていた。
いったい何を謝ってるのか分からなかったが、このことは聞いてはいけないことなのだと香苗は悟った。
堕せばよかった。
香苗が言葉の意味を理解するのはもう少し先のことだが、その言葉は一生の呪いになった。
結局はたったの三ヶ月で、家庭の環境は元通りになった。むしろ以前よりも母親が帰ってこない日が増え、悪化したとも言える。
またアレをすれば、お父さんもお母さんも心配してくれるに違いない。そう考えて二度目の自傷を決行したが、今度は救急車を呼ばれただけで、父親は帰ってはこなかった。病院では迎えにきた母親に頬を叩かれた。
そっか。
あたしってもう、親から心配されないんだ。
具合が悪い。目が回る。吐き気がする。自分で刺した腕が痛い。お腹が痛い。致命的な何かが壊れた気がした。ドロドロとしたドス黒い何かが自分の中から漏れ出そうだった。ああ、これは血だ。血が出ている。
刺した腕からではなく。
あたしの中身から、血が出てきている。
こうなると、女の子は大人になって、子供を産めるようになるんだとか。学校で習ったことだったか、いつだかにスマホで興味本位で調べたことだったかは忘れたが、その知識はあった。
子供なんて絶対に産んでたまるか。
だって、こんなあたしの子供になるなんて、その子が可哀想すぎるから。