その⑤早速、今晩にでも。
元服を待たずに出家し、清く正しい修道士として長年生きて来た俺だから、当たり前の話として男女の交わりと言うものを経験したことがない。
要するにおっさんなのに童貞なのである。
そう。
元修道士と言う設定がここで活きてくるわけだ。
これは断じて、断じて恥ずかしい事ではないのだ。
しかし、その事と、エルセリア姫のシッポの有無をいつまでも確かめられずにグズグズしている事とはあまり関係が無い。
ちょっとはあるが、あまり関係は無いのだ。
躊躇する理由は他にあった。
エルセリア姫は王族の直系では無いにせよ、ゴート族では伝統ある名家の出である。
そしてこの俺だって、母は平民出だが、おっさんなのに未だ王子呼ばわりされているのだかられっきとした国王の子だ。
しかし、この婚姻で祭り上げられるまでは、お互い日陰の身として暮らして来たと言う、何だか中途半端な立場の二人なのである。
そんな中途半端な魔族と人間の血を合わせ持ち産まれ来る子の将来を考えると、我が父のように考えなしに子を儲けるのも如何なものか。
妙な反乱分子に担ぎ上げられないように、早々に出家させられるに決まっている。
この俺のように。
しかも、それはごく幸運だった場合だ。
また人と魔族の間で戦があれば、きっと辛い思いをさせるだろう。
そんな想いもあったのだ。
しかし。
「オズワルド様は私達二人の間に子を成すおつもりはあるのでしょうか?」
出し抜けにエルセリア姫からそんな質問をされ、
「ぶーーっ‼︎」
俺は飲んでいた茶を吹き出した。
「オズワルド様が政略結婚で嫌々仕方なく私と結婚をされたのは承知しております。」
「い、いや、確かに政略結婚だが、俺は別に嫌々とは……。」
「けれど、一度、結婚を決めたからには腹をくくって私を……。」
「い、いやいや、エルセリア姫、ストップ、ストップ!」
決してそうではない。
断じて違う。
俺は理由を打ち明けた。
「俺達の子が魔族と人の架け橋となってくれたらこんなに嬉しい事はありません。しかし、快く思わぬ輩もあるでしょう。」
「まあ、そんな事を悩んでおいでだったのですね。」
エルセリア姫は朗らかに言う。
「何かありましたらほとぼりが冷めるまでエルフの元にお世話になれば良いのですわ。」
「おお、それは。」
エルフ族は人間にも魔族にも属していない。
彼らの棲まう西の国ならばどちらの手も及ばないだろう。
ゴート族とエルフ族に親交があったとは初耳だが、御長寿同士ウマの合うこともあるのだろう。山羊だが。
と、言うことは、
「では、エルセリア姫は、そのう、何と言うか、俺と、その、あの、あの……異存はないのですね。」
「? はい、もうずっと前から準備はできています。」
準備!
準備万端とは知らなかった!
それで相手が指いっぽんも触れないのなら、こちらの愛を疑うのも頷ける。
大変、大変、済まないことをした。
「オズワルド様こそ、準備はよろしいですか?」
「も、ももももちろんです!」
「では、早速、今晩にでも。ちょうど今夜は満月ですし。」
「はい!」
え? 満月?
月が関係あるんですか?
喉まで出かかった言葉を飲み込む。
エルセリア姫はやんごとなき名家の出、ロイヤル教育もバッチリ受けている筈だから、世継ぎ関係の知識も俺の比では無いはずだ。
方や、俺は修道院の純粋培養種である。
そっち系の知識は中途出家組の外来種の武勇伝を盗み聞くのがせいぜいなのだ。
無知をさらけ出して恥をかきたくはない。
そんなふうについ見栄を張ってしまい、その場は適当に聞き流しておいた。
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