その②還俗していただきます。
めでたしめでたしで前章を締めくくったものの、このまま終えてしまうのは悔しい。
まだまだ自慢し足りない。
人間の俺と魔族のエルセリア姫の馴れ初めについて、順を追って話すとしよう。
俺はオズワルド王子。
おっさんなのにまだ王子様である。
我が国の国王はいつまでも、いつまで経ってもご健勝にあられるので俺はいつまでも、いつまで経っても第一皇子のままである。
とっくに細長いサーベルも白馬もかぼちゃぱんつも白タイツも似合わないトシになってしまったのに、王子様である。
もっとも、末長くご健勝めでたき国王は、お世継ぎ作りにもかなり精力的にお取り組みであられるので、第一皇子とはいえ、平民出の妾腹の俺に王位継承など期待できない。
皇后のお子であられる、策士の長兄や、陰険な次男、若干頭の弱い体育会系の三男、末っ子で溺愛されてる四男、女だてらに妙にギラギラした長女等、その他キャラの立ったお世継ぎ候補が王位継承とかのキナ臭い話は全部引き受けてくれているので、俺はハナからカヤの外、というわけ。
そんな俺なので、十にも満たないトシで修道院へ放り込まれて二十余年、もう王子様でもなんでもないのだが、国王の権威というのはまこと恐ろしきもので、修道院長や副院長は未だに俺を王子と呼ぶ。
同僚も面白がってマネして呼ぶ。
本当、やめてほしい。
やめてほしいのに、もう、と思っている矢先、ふってわいたように『オズワルド王子のご縁談』が持ち上がった。
「縁談って、俺、出家してからずいぶん長いですけど?」
「還俗していただきます。」
修道院へやって来た、何かの大臣を名乗るエラそうなおっさんは言う。
あ、第一皇子の俺の方が偉いんだっけ。
俺の方が偉いし、もしかしたら俺の方がおっさんかも知れん。
「全ては人と魔族の和平の為にございます。」
魔族との戦は激しく、一時は俺も僧兵として聖戦の名のもと戦地へ赴いた。
妾腹の王子なんかいっそ殉職してくれれば厄介払いできるのに、とか何とか思ってた奴もいたんだろうが、坊主だからってナメてもらっては困る。
修道院で真面目に勉強していたおかげで会得した防御・回復系魔法を駆使して逃げ回っているちに、何とか兵役をやり過ごす事ができた。
そんな俺が、時は流れ、まさかまさかの魔族の姫と結婚とは。
人生はわからないものだ。
しかし。
魔族との結婚なんて、どうせ義理の弟達が嫌がって俺に押しつけたんだろうな。
絶対にそうに決まっている。
俺だってイヤだし、正直に言えばメチャクチャ怖い。
まず当世の魔族を束ねているのがどんな種族なのかが判らない。
一応聖職者だから日々学問に励んでいるのだが、神学、頼るに足りず、坊主の学問は自分とこのカミサマにしか関心がないから、俗世間には疎いのだ。
前線で戦っていた時に見かけたのの多くはオークやゴブリンだったが、奴らは体育会系専門なので政治は無理だろう。
と、言うことは、少なくとも嫁さんはオークやゴブリンでは無いわけだ。
ちょっぴりホッとする。
後はどんなのがいたっけ?
翼はあっても良いが、足は二本が良いなあ、エラ呼吸だったらどうしよう……。
などと思いを巡らすうち、ハタと思い当たった。
お相手の姫だって同じではないか。
きっと、大揉めに揉め、みんなで押しつけ合った結果、一番発言力の無い、同族から売れ残ったようなのが選ばれたに違いない。
そして、俺みたいな残念賞を当てがわれる。
そう考えると何だか申し訳なくなってきた。
俺は男だから良いが、相手は魔族とは言え、女だ。
無念さや屈辱は俺の比では無いだろう。
同じ立場の俺までもが、渋々な態度をとっていたら、傷口に塩を塗るような苦痛に違いない。
難しいかも知れないが、好意的な態度を取るように努めよう……。
とか何とか、今から思えばとてつもなく無駄な心配をしていた。
無駄なだけでない、とてつもなく傲慢である。
『好意的な態度を取るように努める』とは、よくもまあ、いけしゃあしゃあと、どの口が。
蓋を開けてみれば、見目麗しく愛らしく、その上、こんな俺のことを以前自作したゴーレムに似ているという理由だけで親しみを抱いてくれる優しい姫君だったのは、前途のとおり。
結婚を機に還俗した俺だが、振興宗教を立ち上げたくなってしまうほどの神々しさである。
いやいや、信者を増やしてどうするんだ。
彼女を崇める特権を持つのは俺だけで良いのだ。
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